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「遅くなってごめんね。ちょっと重いものを動かす手伝いをしてた」

 そう言ってのはらはさなぎのところに帰ってきた。

「いえ、別に構いません」

 にっこりと笑ってさなぎは言った。(確かになにやらがたがたという大きなものを動かしているような音が聞こえた)

 それからさなぎとのはらはお話の続きをした。(その前にのはらが麦茶のおかわりを持ってきてくれた)

 二人の話は東京でのさなぎの暮らしのお話になった。

 東京で暮らしているときに、さなぎはマンションの屋上に近い部屋(二十一階)に家族みんなで一緒に暮らしていた。

 その話をすると、のはらはすごく興味津々と言った様子でさなぎの話を聞いていた。

「すごい。いいな、さなぎちゃん。私もそんなところで暮らしてみたい」と目をきらきらと輝かせてのはらは言った。(のはらによると、この古い家の暮らしも気に入っているけど、東京とかそういう都会での暮らしにも憧れている、ということだった)

「夜景とかすごく綺麗なの?」身を乗り出すようにしてのはらは言う。

「えっと、綺麗ですけど、でも、この町で見る夜空の星とかのほうがずっと綺麗で素敵ですよ」とさなぎは言った。

「本当? それ本当にそう思ってさなぎちゃんは言っているの?」のはらはいう。

「はい。本当です」と真面目な顔をしてさなぎは言う。

 そんなさなぎの瞳をのはらはじっと見つめる。(やっぱり、さなぎが本当のことを言っているのかどうか、その嘘を見抜くようにして)

 それから少しして、のはら小さく微笑むと「さなぎちゃんは純粋なんだね」とのはらは言った。

「私みたいにまだ、心が汚れていない」とのはらは言う。

 そんなのはらの言葉を聞いて、『心が汚れる』とはどういう気持ちを指すのだろう? とそんなことをさなぎは疑問に思った。

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