「二人とも、見つめあって、どうかしたの?」

 不思議な顔をしながら、のはらは言った。

 さなぎはいつの間にか、その視線を二人の握っている手と手から、自分を見つめている優しいのぞみさんの目にうつしていた。

「あ、え、えっと、あの、ご、ごめんなさい!」

 なぜかわからないけれど、さなぎはそう言って、のぞみさんにあやまった。

「ふふ。別にあやまることではないわ。さなぎちゃんはなにも悪いことしてないもんね」とにっこりと笑って、さなぎの頭を麦わら帽子の上から、もう一つの手で優しく撫でながら、のぞみさんはそう言った。

 それからのぞみさんは「少しやらなくちゃいけないことがあるから、ごめんね」と言って、家の奥に戻っていった。

「わかった」とのはらはいう。

 さなぎはそんな去っていくのぞみさんの後ろ姿をただ、黙ったままじっと眺めていた。


「はい。どうぞ」

 そう言ってのはらは冷たい麦茶をさなぎに出してくれた。(麦茶の入っているコップは透明な竹の模様が描かれているコップだった)

 森の中を歩き回っていたさなぎは(全身に)汗をびっしょりかいていた。

「どうもありがとう」

 そう言ってさなぎは麦茶をごくごくと(両手で透明なコップを持って)飲み干した。

「あら、ずいぶんと喉が乾いていたのね」と笑いながらのはらはいう。 

「美味しい」とのはらを見て、目を大きく見開いて驚いた顔をしているさなぎはそう言った。(本当に美味しかった。この麦茶には、喉が渇いている以外の理由があるような気がした)

「水が違うのよ」と(自慢げな顔をして)のはらはいう。

「この麦茶。もしかしてさっきの井戸の水を使っているんですか?」とさなぎは言う。

「そうよ。この家で使っている水は全部、井戸から汲み上げた地下水を使っているの」とのはらはいう。

 のはらは自分のために用意した透明なコップ(のはらのコップには笹の模様が描かれていた)の中に入っている麦茶を一口飲んだ。

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