第37話 まさかの展開に戸惑うしかない

「ーーーーあんた、何者よ?!」


 うつむいたままの聖女から、ちょっと低めのドスの効いた声が響いてきた。私からしたらドン引きだ。だって聖女からこんな声がでてくるなんて思わなかったのだから。あれ?これまでの聖女ってなんかこう、もっと可愛らしいイメージだったはずなんだけど……。みんなに愛される象徴みたいな。まさか#今回__・・__#は違うっていうの?確かに#今回__・・__#は私も多少違う行動を取っているけれど、それにしたって……。


「ボク?ボクはユーキだよ。よろー」


 しかしユーキさんは狼狽えることなく手をひらひらと動かす。分厚い眼鏡のせいで表情はよくわからないが、この状況を楽しんでいるようだった。


「なんなのよ、あんたたち!?なんでわたしの事を好きにならないの?!#これまで__・・・・__#はみんながわたしを心酔したのに!


 しかもせっかく手に入れた王子になんてことを……!あんたが誰だか知らないけど、わたしは賢者に選ばれた特別な聖女なのよ!他の聖女候補なんて足元にも及ばないほどの完璧なわたしに逆らったら、それこそ怒った賢者が世界を滅ぼすかもしれないんだから!教会もわたしのためならなんでも言うことを聞いてーーーー」


「“賢者に選ばれた”……。ねぇ、だから君は特別だってことかい?特別だから異性を魅了の力で操って好き勝手したり、エターナを……公爵令嬢を陥れても許されるって?」


「そうよ!賢者がわたしを選んだってことは、わたしが特別な存在だからでしょ?!わたしに比べたらその女はなんの価値もないじゃない!爵位なんてなんの意味もない……どうせその女はただの悪役令嬢だもの……!


 ーーーーあぁ!でも、もう目障りなの!その女のせいで#これまで__・・・・__#みたいに上手くいかないんだってわかってるのよ!#前回__・・__#は全然役目を果たしてくれなかったから、今回はこちらから早目に動いたのにどこにも見当たらないとか役立たずもいいとこだわ!そうよ、王子と婚約もしていない、自分の#役目__・・__#も果たさない……そんな#登場人物__・・・・__#なら、いっそいない方がいいのよ……!何と言ってもこっちは今までになかった“賢者に選ばれた聖女”なんですもの!だから……っ!」


 聖女は目を見開いて血走らせながら一気にまくし立てだした。私が聖女の言葉に違和感を感じていると、ユーキさんがパチンと指を鳴らす。


「だから、魔族と手を組んだんだ?」


「そうよ!ーーーーっ!?」


 ユーキさんの言葉に聖女が勢い良く返事をしたあと、ハッとして口を手で押さえるがすでに遅い。私は目の前でおこなわれたやり取りに言葉を失っていた。


「な、なんでわたし、こんなことまで……?!」


「あ、それはボクの開発した〈素直に話します君〉の効果だよ。この香りを嗅いだら思ってることを全部話しちゃう自白剤的な効果がある香水なんだけど無臭なのが画期的だろう?ボクの自信作さ」


「師匠……無臭なのに、香りを嗅いだらって意味がわからないんですが」


「無臭だろうとその香りは漂っていて吸い込んだら効果があるんだよ。実際に君たちも色々言っていたろう?まぁ、普段から思ってることを口にしている君たちにはあまりわからないだろうけどね。実際にこの香水をつけていたのはボクだから、ボクが近づいた事により効果が現れたんだろうけど……。まさか本当に魔族と通じていたなんて驚きだよ。それともこの世界では聖女が魔族と手を組むのは許されることなのかい?」


 にっこりと、色々なことを含んでいるだろう笑みでユーキさんが私に視線を向けた。私はその笑みにごくりと唾を飲み込む。だって、これは私の責任だ。さっきの聖女のことを聞く限り……賢者がわざわざ聖女を指名したから、その聖女が自分の価値を見出してしまったのだ。……“特別”だと。“特別”だから、何をしてもいいと……。


 だからって、まさか魔族と手を組むなんて。


 呆然としながらも後悔と疑念に苛まれている私にユーキさんはさらに口を開いた。


「ねぇ、エターナ。気付いていないかもしれないからあえて言うけど……この聖女は君と同じ#繰り返す者__・・・・・__#だよ。エターナと同じく世界を何度もループしているんだ。そして自分の欲望を叶えるために本来ならあり得ない状況も戸惑うこと無く作り出している……。つまり君と同じ存在なのさ。まぁ、その思考は全然違うみたいだけどね」


「えっ……それって」


 ユーキさんから次々出てくる言葉についていけなき。え?この聖女が私と#同じ__・・__#?まさか……。


「それにしたって、他の聖女候補とやらの力を全部奪ってまで#毎回__・・__#世界に君臨したいだなんて……そんな傲慢な聖女なんて本当に必要なのかな?君のせいでエターナが毎回酷い死に方をしていたとなるとーーーーなんかちょっとムカつくよね?」


 にっこりと。それはもうにっこりとユーキさんは口角を吊り上げた。


 さっきからユーキさんの言っている言葉に私はプチパニックだ。他の聖女候補の力を奪う?魔族と通じてる?……繰り返す者?私と、同じ……。


 ーーーーまさか、この聖女も私と同じく世界を何度もループしているというの?








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