第21話 残念人魚はストレスに弱い

 なんてことなの?!


 私はベクターの言葉に驚き……喜んでいた。


「ということは、フラムは炎を吐くからきっと炎属性だし、ベクターは人魚なんだし水の属性よね!1番の目的の属性じゃなかったけど、この方法なら錬金術師を探さなくても全属性の耐性が手に入るかも……あれ?そういえばアンバーはなんの魔力属性なのかしら?ドラゴンママは私に魔法を使わなかったし、アンバーが使ってるのを見たことないわ」


 それともドラゴンは特殊なモンスターのはずだから、まだ赤ちゃんのアンバーは魔法が使えないのかもしれない。フラムとは種族が違うし成長の具合は個人差があるはずだ。そう思ってまたもや首を傾げていると、ベクターが急に咳き込み出した。あれ?なんでアンバーはベクターの足を尻尾でビンタしているのかしら?


「ゲ、ゲフンゲフン!け、賢者様……実は進言したいことがありまして……。


 どうやらモンスターと契約して魔力耐性を手に入れようとしているようですが、問題がございます。いくら賢者様といえど人間の体、このまま他の魔力属性を手に入れると大すぎる魔力に肉体が耐えきれず暴発するおそれもあります。まずはそちらの対策をお考えになったほうがよろしいのでは?」


「え、そうなの?私自身の魔力でも抑えきれないほどになるかもってことかしら」


 私もまぁまぁ魔力がある方だと思っていたが(賢者だし)確かにそれを上回る莫大な魔力を契約によって体内に抑え込むとなると大変そうだ。


「うーん、体が木っ端微塵は嫌だしなぁ。魔力を抑え込む方法か……。やっぱり錬金術師に相談するしかないかも?」


 すぐに見つかるかはわからないが、そうゆう複雑難解な事こそ錬金術師が好みそうな案件である。


 私が頭を悩ませている間に「でないと、アンバー様がいつまでも本来の姿を現すことが出来ないからとワタクシに八つ当たりをしてきそうでございます。うぅ、胃痛が……」とベクターが怯えた様子で呟いたが、私の耳に入る届かなかった。














 世界をループしてきた賢者ですらも知らない事がある。


 まさか、実はアンバーが特殊な事情のある子供であのドラゴンママを凌ぐ力を持っているとか、アンバーの魔力を全部さらけ出すとエターナの体が耐えきれないのでアンバーがわざとその力を隠しているなどとはエターナは気づいてはいない。


 ドラゴンは特殊なモンスターで、他のモンスターとは違い本当なら名付けされると名付け親の魔力と馴染んでから脱皮して“本来の姿”になる。しかし、脱皮後の魔力増加は凄まじく名付け親の体は契約により繋がっていることで流れ込んでくる魔力の多さに耐えきれないのだ。


 生まれた瞬間。いや、エターナを見た瞬間から全てを理解したアンバーはエターナと一緒にいるために自分の全てを抑え込んでいた。


 フラムを喋れるようにしたものの、やはり赤ちゃんであるフラムにはイマイチ自分の意志が伝わらない。いや、は伝わっているし応援はしてくれているが、重大性は理解しきれていない。そこにやってきた残念人魚はエターナに邪な感情を抱かず(顎クイはムカついたが)自分の意志を理解し、頼んだら(脅したら)うまくそっちの方向に話を誘導してくれるとても便利な手下だった。


 そう、ベクターもフラムも本能的に感じているのだ。モンスターの野生の勘は凄まじい。




 アンバーこそ、将来モンスターの世界でトップに君臨するドラゴンだと……。













「よぉし!それじゃギルドに行って錬金術師の情報を探すわよ、アンバー!」


『ぴぎぃ!』


『まってくだちゃい~っ』


 元気に走り出すエターナとアンバーのあとをフラムがさらに元気いっぱいに追いかけた。それを後方で見つめながらベクターはゆっくりと足を動かす。


「賢者様に最強ドラゴンのアンバー様。フラム様だって成長なされればワタクシなど足元にも及びませんでしょう。モンスター達からしたらなんとも恐ろしい集団ですね。ーーーー早く立派なオスになって結婚相手を見つけて隠居しなくては、このままではワタクシの胃にストレスで穴が空いてしまいます!」


 早く修行をつけてもらって婚活に力を入れようと、固く決意したのだった。

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