第20話 賢者の恋愛模様と魔力耐性の秘密

 私がすでに色々な耐性を持っている。と、残念人魚が言った。ベクターは他者の魔力を感知することが出来るらしく、私から複数の魔力耐性の力を感じるそうなのだが……。


 まだ何にもしてないのに、なんで?




「へっくち!」


 ベクターにどういうことか聞き出そうとした途端、鼻がムズムズしてクシャミが飛び出した。誰か私の噂でも言ってるのかしら。もしや“押して駄目なら引いてみろ”作戦も上手くいってなくてヴィンセント殿下が「あの女はしつこい」とか悪口言ってたりして。……なーんてね。


 うーん、こうして考えるとヴィンセント殿下って本当に頭が固いのよね。婚約だって破棄前提の事だし殿下の幸せを応援するためだって言っているんだからもう少し融通を効かせてくれてもいいのに、一時的な婚約すらも嫌がるなんて……どれだけ私の事が嫌いなのかしら?


「どうなさいました?賢者様」


「ん?あぁ……私との婚約を嫌がる王子をどう説得したものかと悩んでいた事をふと思い出して」


『ぴぎぃ?!』


 あれ?何故かアンバーがびっくりしたみたいに飛び上がってからソワソワうろうろしだしたんだけど、お腹でもすいたのかしら?


「賢者様には婚約したい方がおいでて?」


「まぁね。でも、私のことが嫌いみたいでずっと拒否されてるのよ。私と婚約した後に浮気して断罪して婚約破棄してくれたらいいって言ってるんだけど……。でも、いつ気が変わって婚約してから破棄してくれるかわからないから、断罪された後に死なないように今のうちに色々してる……そうよ!それで私に色んな耐性がすでについてるってどうゆうことなの?!」


 おっと、つい思考が逸れてしまったわ。今は殿下の事より魔力耐性の謎を解かねば!


「よくわかりませんが、人間の結婚は複雑そうですね。つまりその方と婚約してから断罪されたら賢者様は死ぬかもしれないからその回避をなさりたーーーーひぃっ?!アンバー様からなんか怖いオーラ出てませんか?!」


「……やっぱりお腹がすいたのかしら?よしよし、アンバー。どうしたの?」


 ソワソワするのをやめたと思ったら今度はなにやら不機嫌そうに顔を顰めているアンバーを抱き上げ頭を撫でる。すると『ぴぎぃ……』と私の肩に顔を埋めた。


 これはかなりの腹ペコなのね?!ベクターの言ってた事は気になるけど、まずはアンバーの空腹をなんとかしないといけないわ!


 街に食料を買いに行くのは時間がかかりそうだったので近くの川に移動したのだけれど……ベクターが意気揚々と魚を釣っている。そしてその魚を塩焼きにして笑顔で私に差し出している。


「……人魚も魚を食べるのね」


「賢者様、この世は弱肉強食でございますから」


 人魚と魚って仲間みたいなイメージがあったけれど、やはり人魚と魚は別物らしい。


「そういえば、ワタクシと海の覇権を争っていた憎々しい怪魚が最近いなくなりまして……噂によると人間に食べられたとか。いい気味でございます!」


 うん、それ食べたの私だわ。それと孤児院の子どもたち。


「怪魚の肉を食べると寿命が延びたり病に強くなったり、やたら幸運に恵まれたりするそうなので……人間たちからしたら奇跡が起きたと大騒ぎでしょうねぇ」


「んぐっ……そ、そうなの?」


「はい。ワタクシは当時生まれていないので詳しくは知りませんが……大昔に怪魚の肉を食べた人間は他の人間に比べてかなりの長寿だったとか。そして人生大逆転するくらい幸運になったそうですよ」


 なんか、とんでもないものを食べさせてしまったのだろうか?……まぁ、幸運になるならいっか!


 それよりも気になるのはアンバーだ。焼き魚を目の前に置いても食べようとしない。もしかして具合でも悪いのだろうか。


「アンバー……「ところで賢者様は、先程述べていらした婚約したい方を愛してらっしゃるのですか?」へ?」


 私がしょんぼりしているアンバーに手を伸ばそうとした瞬間、ベクターがにっこりと首を傾げた。


「……私が殿下をーーーーいや、別に?」


「愛していないのに婚約したいと?」


「愛してるとかそんなんじゃなくて……。なんというか、幸せになって欲しい人?それで、幸せになった事をその後も確認したい人?って感じかしら。

 私は、彼をーーーーヴィンセント殿下を幸せにするために何度も死んで世界をループしてきたから……。あの人を幸せにするためには私が犠牲になるのが1番手っ取り早いし、私の賢者としての使命はそれしかないのよ……。きっと、あの人が幸せになれば、世界は平和になる。私の中の何かがそう告げてるの。


 王子と聖女が結ばれて、悪役令嬢が断罪される。それが世界の正しい流れなのよ」


 そう告げると、ベクターはこくりと頷いた。


「では、その方とアンバー様。どちらがお好きなので?」


「そんなのアンバーに決まってるじゃない。愚問だわ」


 私が即座に答えるとベクターはアンバーに向かって「だ、そうですよ」と言った。へ?なにが?


 意味がわからず今度は私が首を傾げると、アンバーは途端に元気になり焼き魚をモリモリと食べ始めたのだ。


『ぴぎぃ!』


『あんびゃあーにぃちゃまはこじらせてましゅ』


 フラムがやれやれという感じで肩を竦めたが、私にはまったく意味がわからなかった。


 うーん?とりあえず、アンバーとフラム、それにベクターがさらに仲良くなったようだしいいのだろうか? 


 というか……だから早く魔力耐性の謎を教えてよ!と訴えると、ベクターは「それはーーーー」と呟きながらアンバーとフラムを見てから、にこやかに口を開いた。


「……賢者様が、アンバー様やフラム様と名付け契約をなさったからですね。“名付け”とは、ある意味とても強力な契約でして……魔力の無い人間がモンスターに名付けをしてもそれは怒りを刺激して殺されて終わりです。魔力のある人間と名付け契約をした場合、その人間の魔力を分け与えて魂同士を結びつけます。そうすると、モンスターは自分の魔力……属性の力を主に与えるのです。


 あ、ワタクシは賢者様に名付けはされていませんが、賢者様を敬っていると言う意味で力を分け与えております。ですので、ワタクシの属性も少しですがお持ちですよ」と、とんでもない情報を一気に私に教えたのだった。







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