第7話 まさかのどんでん返しが酷すぎる(ヴィンセント視点)
その日は、朝から嫌な予感がしていた。
朝起きて窓を開けたらなぜか小鳥が俺の頭の上に勢ぞろいして留まり、う○こしていくし。
部屋から一歩外に出たら昨日新しくしたばかりの靴紐が盛大な音を立てて粉々にブチ切れたし。
城の中なのになぜか廊下に黒猫の大群が現れて俺の前を横切って行ったし。
朝の紅茶を飲めば砂糖と塩を間違えてやたらしょっぱいし。
そう、とにかく嫌な予感しかしなかった。
それでもちゃんと登校するために何もなかった顔をして学園へ足を向けたのだが……。
「エターナは一体どうしたんだ?」
いつも鬱陶しいくらい付き纏ってくるエターナが、その日は朝からミジンコ程も姿を現さなかったのだ。
「……まさか、事故?いや、病気?それとも拾い食いでもして食中毒とか……あのエターナが……登校時には10秒に1回は俺の視界に割込んできて残像を残す勢いで飛び跳ねて移動してきてたエターナが全く姿を現さないなんて天変地異の前触れか……?!」
「人の義姉上をなんだと思ってるんですか?」
不吉な予感に思わず叫び出しそうになっていた俺の目の前にはそのエターナの義弟の姿。びっくりしすぎて口から心臓が出てくるかと思ったがなんとか飲み込み、俺は冷静を装った。
「な、エターナの義弟か……。また勝手に教室に入り込んできて何をしているんだ」
「その義姉上から殿下に伝言を預かってきました」
まるで殺意でも籠もっているかのように鋭く細められたアーモンド色の瞳に寒気を感じながらもエターナからの伝言という言葉に飛びついてしまう自分はやっぱりちょっと情けなかったが、気になるので仕方がないと思う。なにせエターナは世界にひとりしかいない希少な賢者なのだ。この世界にの未来を守るべく奮闘している彼女がいくらループしていて未来を知っているからと言って全てのトラブルを避けられるわけではないだろう。もしかしたら、予期せぬ出来事に見舞われたとか……。
俺は心配を悟られないように咳払いをしてからエターナの義弟アレフにその伝言の内容を話すように促した。
「で、伝言だと?全く俺だって暇じゃないのに……仕方ないから聞いてやる。言ってみろ」
「はい、えーと……」
ガサガサと折りたたんである紙切れを広げ、アレフはその内容を坦々と読み上げたのだった。
「“もう殿下なんか大嫌い。婚約もしたくなくなったので私は新たな未来を探す旅に出ます。サヨウナラ”」
ぐっはぁぁぁ!?(クリティカルヒット)
「……え?なにその伝言……?ま、マジ……?」
「聞こえませんでしたか?それならもう一度……“もう殿下なんか大嫌い。顔を見るのも嫌、このナルシスト男マジキモい。婚約なんかこっちから願い下げ”「おいこら!捏造するな!」……似たようなものでしょ?つまり義姉上は殿下に愛想をつかしたわけです。長年殿下の幸せな未来のためだけに尽くしてきた義姉上は、やっと正気に戻ったんですよ。ーーーー嫌われましたね、殿下。ご愁傷様です」
ぺこり。と頭を下げたアレフは、最後に俺を見て鼻で笑うとそのまま方向転換して去っていった。周りにいた生徒たちはもちろん全てを目撃していてヒソヒソとなにかを言い合いながら何故か残念なものでも見るかのように俺へ視線を向けていた。
「……殿下が、フラレた?」
グサッ!
「え、でも殿下って公爵令嬢の事を面倒そうにしてたのに、嫌われたとわかったらあんなにショックを受けるってことは……もしかしてどんなに冷たくしても嫌われるわけないって思ってたの?自意識過剰じゃなくて?」
グサグサッ!!
「でも公爵令嬢の気持ちもわかりますわ……あんなに一途に殿下を想ってらしたのにいつもそっけない態度をされて傷付いてらしたのね。それなのに公爵令嬢のお心が離れた途端に未練がましい態度だなんて……殿下って男としてちょっとどうなのかしら」
グサグサグサッ!!!
「やだ、自分はモテて当たり前だと思ってらしたの?どうやらナルシストらしいですし……王家の品位が下がりますわね」
確かに俺はショックを受けている。それは認めよう。だってエターナが、あのエターナが俺を嫌いになるなんて……俺の幸せな未来だけを目指していたエターナが俺を嫌いに……。昨日まであんなに俺に付き纏って婚約しろって迫ってきてたくせに……。
え……マジで嫌われた?愛想つかされた?俺の幸せのためだけに王子との約破棄なんて令嬢からしたら致命的なキズを負う覚悟で尽くしてくれていたエターナを存外に扱ったから?いや、でもそれは、せっかく婚約しても婚約破棄されるのが嫌だったからで。つい素直になれなかっただけなのに……!
「ま、待ってく……っ!」
「ヴィンセント殿下……ですよね?」
エターナを探さなくては。そしてちゃんと話をしなくてはいけない。そう思いアレフの後を追おうとした俺の前にいつの間にか見知らぬ人影が立っていた。
「え……」
俺が視線を向けると、そこにはふわりと揺れる桃色の長い髪を靡かせ、まるで子犬のような庇護欲を唆られるだろう顔をしたひとりの少女がいた。
目と目が合い、にこりと微笑まれた途端にゾクリと背筋に悪寒が走った。
「わたしはミレイユ……ミレイユ・イーノスと申します。教会に選ばれた“聖女”で……あなた様の婚約者ですわ」
キラキラと光る桃色の瞳に、顔面蒼白の俺の顔が映っていた。
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