第8話 行動力は備えてなんぼだと思う

「よし、やりますか!」


 優秀な義弟のアドバイス通り“押してダメなら引いてみろ”作戦決行中の私は、学園を休んだ。もちろんヴィンセント殿下を視界に入れないため(やっぱり見ちゃったらつい婚約を迫りそうなので)でもあるがもうひとつの目的のためでもあった。


 それは、今までのループ世界で私が死んだ理由である。



 1度目は魔法の暴走。2度目は怪魚に食べられ、3度目はドラゴンに食べられ……4度目はカミナリだった。私の予想が正しければループの世界は今回で最後のはずだ。つまり、ヴィンセント殿下が幸せになった後に私が死んだらそのまま生き返る事はないだろう。そしてたぶん、今回も私の死が用意されているはずである。


 だが!どうせならヴィンセント殿下が幸せになった後も私は生きてその幸せな生活を見守りたい!そのためにはどうしたらいいか私は頭を悩ませた。そして結論を出したのだ。


 用が済んだら死ぬしかないというのなら、その要因を排除すればいいじゃない?と。


 まずは今までの死因を全て覆してやろうと決意した。


 そう、「もう魔法が暴走する可能性はないだろうし、まずは怪魚とドラゴン退治して……雷の耐性をつけよう!」と。ついでに水や炎……ありとあらゆる耐性をつけておけば私が死ぬ要因がかなり減るはずである。そして私は無敵の賢者としてヴィンセント殿下を見守り続けるのだぁ!


 そうと決まれば早速行動あるのみ。だが、家族は私が賢者だとは知っていても魔法が使える事実は知らない。だから「ヴィンセント殿下の為にしばらく旅に出ます。探さないで下さい」と置き手紙をして、自室の窓から空へと飛び上がったのだった。













 ***











「え、エターナが家出しただとーーーー?!」


 突然学園を休みたいと言い、自室に籠もっていたエターナを心配していた公爵家一同は1枚の簡素な置き手紙を見て、その事実に驚愕して愕然とした。まさか、こんなにも思い詰めていただなんて……!


 そうだ、いくら賢者だとかループした世界を救う使命だと言ったってあの子はまだ子供で、儚い少女であるというのに……いつも底抜けに明るいエターナに安心していたが、その心の奥底はとても傷付いていたのだ。とエターナの両親は心を痛めた。


「かわいそうなエターナ……。きっと賢者の使命とヴィンセント殿下を愛する気持ちに悩み押しつぶされていたのね」


「ヴィンセント殿下の未来の為にと婚約破棄される覚悟で婚約を迫っていたのに、ヴィンセント殿下に無下にされすぎて耐えられなくなったに違いない!これでヴィンセント殿下が不幸になった時にエターナのせいにでもされたら……!あの子が不憫でならない!」


 嘆く義両親の姿を見ながら、唯一エターナの“押してダメなら引いてみろ作戦”の事を知っているエターナの義弟であるアレフは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。まさか自分がヴィンセントに例の手紙を届けている間にエターナが家出(?)しているなんて思いもしなかったからだ。最初の予定ではエターナはしばらく家に閉じ籠もり、ヴィンセントがどんな反応をするか様子を見るつもりだったのだ。


 というか、その間にエターナとお茶をしたり本を読んだり遊んだりと、エターナを独り占め出来るのではとそれなりに楽しみにしていたのに……この規格外な行動力を備えた義姉は自分の想像をいつも斜め上に超えてしまうのだ。


「……家出するなら、僕も連れて行ってくれたら良かったのに」


 ため息混じりにそう呟くが、自由奔放な義姉を羨ましくも思う。そして、そんな彼女を自分が愛してやまない事実もあるからだ。


 置いていかれたのなら、この旅に自分は必要なかったのだろう。と諦め、それならばエターナが帰って来たときの為に自分のやれることをしようと考える出来た義弟なのだった。

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