第421話 第二騎士団対カーティス

「……サリアは確かに強い。だが、俺達をあまり舐めない方が良い」


ゲディングが口火を切ると、トルーバが頷いた。


「そうですね。第二騎士団の全員を相手にしたいと言うなら、僕達をまず倒してからにすべきです」


「ゲディングとトルーバの言う通りだぜ。その大口は、あたし達を倒してからにしなよ。マスターエルフ」


どうやら三人は、自分達を大したことがないと言われたように感じたらしく、言葉には怒気が籠っている。


だが、カーティスはそれを楽しむかのように頷いた。


「ほう。ならばまずはお前達を同時に相手をしてやろうではないか。かかって来るが良い!」


「え……⁉ ちょ、ちょっと待っ……」


勝手に話が進んでしまい、声を掛けようとするが遅かった。


彼の挑発するような物言いに、怒りの形相を浮かべてゲディング達が獣化を発動したのだ。


馬人族のゲディングは、全身が黒毛に覆われて馬を彷彿させる容姿となり、牛人族のトルーバは全身が毛で覆われつつ体格が少し大きくなり、頭に生えていた角が大きくなった。


猿人族のスキャラは全身が赤毛で覆われ、鋭くなった八重歯を露わにすると「グゥオオオオオ!」と咆哮を響かせる。


その後、スキャラはゲディングとトルーバを一瞥した。


「この中で一番身軽なあたしが先駆けで突っ込む。あんた達は、隙を見て重い一撃をマスターエルフに入れな」


「わかった」


「良いよ、それで行こう」


二人が頷いたことを確認したスキャラは、ニヤリと笑って突撃する。


「勝負だ、マスターエルフ!」


だが、カーティスは悠然と構えている。


「ふふ、素晴らしい闘争心だ。では、こちらもその心意気に答え、少し見せてやろうではないか。身体属性強化・月華をな……はぁ!」


彼の掛け声と合わせて、辺りに強烈な魔波が放たれた。


そして、黒い揺らめく魔力をカーティスが全身で纏うと、この場の空気が張り詰め、異様な緊張感と重圧がのしかかる。


だが、スキャラはカーティスの変化を見ても突撃の足を止めない。


「この程度で怯むようなら……第二騎士団の分隊長が務まるものか。受けろ、猿爪連撃!

吐き捨てると、彼女は獣化したことにより鋭利となった爪と木の短剣による連続攻撃を仕掛けていった。


でも、彼はその動きを悉く見切りながら左手に黒い魔力を溜めていく。


やがて、スキャラの連撃に隙を見たカーティスは不敵に笑った。


「良い動きだが……まだまだ荒い。耐えて見せよ、この漆黒の魔力に染まった拳をな……」


「な……⁉」


彼女が虚を衝かれて目を丸くした瞬間、「どけ、スキャラ!」と声が響き、彼女とカーティスの間にトルーバが割り込んだ。


その瞬間、カーティスは前方に勢いよく跳躍しながら魔力を纏った左手で掌底を繰り出した。


「受けよ、月華・闇滅絶掌牙!」


「トルーバ⁉」


スキャラが悲鳴のように彼の名を叫んだ。


トルーバがカーティスの掌底を両腕を交差させて受け止めると、辺りに鈍く重い音が響き渡る。


「仲間を身を持って護るとは見事だが、遠慮はせんぞ。このまま、吹き飛ばしてやろう」


「ぬ……うぉおおおおおおお⁉」


まるで怒号のようなトルーバの雄叫びが響く。


だけど、彼はカーティスの勢いを止められない。


ふと地面に目をやると、トルーバが足で踏ん張った後が二本の線として残されている。


やがてカーティスの動きが止まると、彼は肩で息をしながらその場で片膝を突いた。


「やりおるわ。この一撃をここまで耐えるとはな」


「ぐ……牛人族の力と耐久力は、獣人族随一と言われているからね。だから、第二騎士団で僕が一番打たれ強いというわけさ」


すると、トルーバは口元を緩めた。


「ところで、僕にだけかまけていて良いのかい。マスターエルフ?」


「なに?」


カーティスが首を傾げたその時、彼の背後からゲディングが素早く迫り「くらえぇええ!」と鋭く重そうな回し蹴りを繰り出した。


しかし、カーティスは「次は、おぬしか!」と楽し気に振り向くと、その蹴りを軽々と片腕で防いだ。


だが、ゲディングは怯むどころか、木剣による斬撃と足技を組み合わせた連続攻撃を次々に繰り出していった。


すると、片膝を突いていたトルーバがゆっくりと立ち上がり、カーティスをギロリと睨む。


「はぁはぁ……。まだだ……まだ、僕は動けるぞぉおおおお!」


自身を鼓舞するようにトルーバは声を轟かすと、カーティスとゲディングの激しい近接戦に木の戦斧を構えて参戦する。


「トルーバ、俺の動きに合わせろ!」


ゲディングの指示に「あぁ!」とトルーバが相槌を打った。


そして、二対一の攻防となるが、カーティスの体勢は崩れない。


「はは、楽しませてくれるわ。ならば!」


カーティスは飛び退いて距離を取ると、独特の構えとなる。


それから間もなく、彼は漆黒の魔力で全身が覆われていく。


その姿はまるで影そのものである。


「いくぞ。闇武・月華陰影……多連撃!」


言うが否や、彼は動きの鈍いトルーバに向かって、目にも止まらぬ速さで突撃する。


「させるか!」


咄嗟にゲディングがカーティスの動きに合わせるように、鋭い蹴りを繰り出した。


誰もがカウンターが決まったと思ったその瞬間、漆黒に染まったカーティスの姿が消えてしまう。


「残影……だと⁉」


目を瞬くゲディングをよそに、カーティスの本体と思われる影はすでにトルーバの背後に迫っていた。


「主ら、どこを見ておる。ここだ……私はここにおるぞ!」


「な……⁉」


トルーバは咄嗟に背後に振り向くと、腕を交差して防御体勢を取る。


「無駄だ!」


カーティスは言い放つと、その防御の上から重く鋭い一撃をお見舞いしてトルーバを吹っ飛ばした。


「ぐぁああああああ!」


「トルーバ!」


ゲディングが気を取られたその隙を、カーティスは見逃さない。


一瞬で彼の懐に入り込み、そのまま連撃を繰り出した。


ゲディングも咄嗟に防御したようだが、受けきれなったらしく「ぐ……」と呻き声を漏らしてその場に倒れてしまう。


「な、何なのあの技……」


一連の動きに驚きを隠せず、僕はアスナに問い掛けた。


「あれは、闇属性の魔力で全身を覆い残影を発生させ、身体属性強化・月華による重い連撃を相手に繰り出すと言う技でございます。本来は『剣』で行う技でございます故、祖父上としては、あれでも加減しているのでしょう」


「あれで加減しているんだ……」


彼女の説明に呆れていると、漆黒に染まった状態からカーティスが元の状態に戻った。





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