第420話 カーティスの実力2

獣化した鳥人族のサリアは素早く飛び込むが、その先に居るカーティスは余裕たっぷりに笑っている。


「この私に真っ向勝負を挑むとは……身の程を知らぬ小鳥よ!」


「それは、どうかな? はぁ!」


勢いよく答えた彼女は、持っていた木槍の先端でカーティスの手前の地面を思い切り突く。


その衝撃で土煙が舞い上がると、サリアは棒高跳びを行うが如く体を捻りながら空に舞った。


しかし、カーティスは至って冷静に「小癪な真似を!」と吐き捨て、舞い上がった土煙を手に持っていた布で勢いよく払いのけていく。


その布をよく見ると黒い鞭のような物が伸びていた。


「あれって、何だろう?」


僕が呟きに、アスナが反応した。


「あの技は、祖父上が得意とする『魔布術』という『魔力付与』を用いた武術の一つです」


「魔力付与を用いた……武術⁉」


新たな魔法の形態だと察して身を乗り出しながら聞き返すと、アスナが説明を始めた。


魔布術とは『魔力付与』を行う事で何の変哲もない布を鞭、棒、槍のように扱う魔法らしい。


また、媒介となる布が短くても魔力の使用量によって射程を伸ばすこともできるそうだ。


上手に使いこなすことができれば、彼がやって見せたように土煙を切り払ったり、相手を拘束、岩を掴んで投げるなど応用範囲が広いらしい。


だけど、意外に繊細な魔力の扱いが必要となるらしく、ランマーク家でも『魔布術』を扱えるのは、カーティスとオルトロスだけだそうだ。


「へぇ、面白い魔法だね。今度、カーティスに僕も教えてもらおうかな」


「それは、祖父上も喜ぶを存じます。是非、尋ねてみて下さい」


アスナが嬉しそうに頷いたその時、舞い上がった土煙が無くなりカーティスが空中にいるサリアを視界に捕えた。


「面白い動きをする小鳥よ。だが、空中では身動きが取れず、着地する場所も軌道から予測出来るのも道理ぞ!」


カーティスの勝ち誇った声が辺りに轟くが、サリアにも動揺は見られない。


「忘れたか、マスターエルフ。私は鳥人族……空こそ私達の領域なんだ!」


サリアはそう言うと、空中で背中の羽を思いっきり広げて瞬時に軌道を変えてみせた。


そして、鋭く叩きつけるような強烈な蹴りをお見舞いする。


「ぬぅ⁉」


予想外の動きに驚いたようだが、カーティスは彼女が繰り出した蹴りは両手でしっかりと防いでいた。


サリアは受け止められるとは思っていなかったらしく、目を丸くする。


「これを止めるとは流石だけど……まだ、終わらない!」


彼女は左手で木槍を持ったまま、右の掌をカーティスに向けた。


「雷槍!」


「む⁉」


その瞬間、カーティスに至近距離で魔槍が放たれて落雷のような轟音が鳴り響き、爆発と爆音。


次いで、再び激しい土煙が舞い上がる。


サリアは自身の魔法で起きた爆風に乗り空高く飛び上がったらしく、空中からカーティスの居る地上を見つめている。


それから間もなく、土煙の中から彼女に向かって何かが勢いよく飛び出した。


「はっははは! 中々に良い魔法であったわ。しかし、あの程度では私は倒せんぞ」


カーティスはとても楽し気だ。


彼は持っていた布を魔布術で鞭の如くしならせ、「ほーれほれ!」と意気揚々に中距離から連続攻撃を繰り出していく。


「く……⁉ でも、防ぎきれないほどじゃない!」


サリアは持っていた木槍で魔布術の攻撃をいなしながら、彼に近付いていく。


中距離戦では分が悪いと判断したのだろう。


「その攻撃は近距離向きじゃない、これでどうだ!」


そう吐き捨てると、サリアは木槍による連続攻撃を近距離で繰り出した。


だが、カーティスは笑みを浮かべると布を『棒状』にして連撃を受け流して捌いていく。


「な……⁉」とサリアは目を瞬くが、すぐに表情を切り替えて連撃を続けた。


それから程なくして、二人は空から地上に降り立つ。


しかし、サリアは肩で息をする程に消耗しているのに対して、カーティスは呼吸の乱れが全くない。


地上戦は不利と判断したらしく、サリアが空に飛んで距離を取ろうとした。


だがその時、彼女は違和感を覚えたらしく、自身の足を見て愕然とする。


「な……足に布が巻き付いてる⁉」


「ふふ。捕らえたぞ、小鳥よ!」


言うが否や、カーティスは手に持っていた布を回転させるように大きく振り回す。


当然、足に布が巻き付いているサリアもその動きに合わせて振り回されている。


「さぁ、これで終わりだ!」


彼が言葉と共に、サリアの足に巻き付いた魔布術が外れる。


その激しい勢いのまま、彼女は錐もみ状態で空高く放り投げられた。


「きゃあああああ⁉」


サリアが悲鳴を上げて間もなく、彼女の獣化が解けて元の姿に戻っていく。


どうやら激しく振り回されたことで意識を失ったようだ。


カーティスは「ふん!」と再び魔布術を用いて彼女を捕らえる。


そして、手元に引き寄せて両腕に抱きかかえると満足気に頷いた。


「うむ、良い気迫であった。今は小鳥だが、お主はいずれ大鷲となる器よ」


しかし、サリアは目を回して「うー……ん」とうなされている。


そんな彼女をディアナが受け取ると、アリア達が「サリア!」と心配そうに駆け寄っていく。


その光景を一瞥したカーティスは、残っている第二騎士団の皆と僕に振り向いて白い歯を見せる。


「はは! 今の手合わせで、お主達の実力の想像が大体ついたわ。リッド様、最早遠慮は無用。私の実力を披露する意味でも、ここにいる獣人族を全て相手にしてみせましょう」


「え……でも、それはいくら何でも無茶し過ぎじゃない?」


その答えに、彼は首を横に振った。


「心配ご無用。それに、私も彼等全員を相手となれば『闇属性の身体属性強化・月華』を発動しましょうぞ」


「闇属性の……身体属性強化⁉」


身を乗り出して聞き返すと、この場にいる第二騎士団の皆も色めき立った。


身体属性強化は、身体強化に術者の持つ属性素質を掛け合わせたものであり、身体強化の上位互換と言えるだろう。


火の属性素質と身体強化を合わせた身体属性強化の名称は『烈火』だけど、闇の属性素質と身体強化を合わせた身体属性強化の名称が『月華』というのは初めて聞く。


やはり魔法は奥が深い。


そう思った時、木剣を持った馬人族のゲディング、木の戦斧を持った牛人族のトルーバ、少し短めの木剣を片手にした猿人族のスキャラが眉を顰めながらカーティスの前に躍り出た。





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