第365話 リッドの後押し

皇太子のデイビッドと一緒にエラセニーゼ公爵家の方々を出迎えると、バーンズ公爵とその妻であるトレニアはとても喜んでくれた。


問題の悪役令嬢ことヴァレリは、彼女の兄ラティガの後ろに隠れている。


なお、『ラティガ・エラセニーゼ』はヴァレリと僕が前世の記憶を持っていること知っている人物だ。


何でもヴァレリが記憶を取り戻した際、奇行に走ってしまったらしい。


それを止める際、彼女から前世の記憶について聞かされたそうだ。


ラティガは半信半疑だったらしいけれど、妹であるヴァレリの奇行を止められるなら……と信じてあげることにしたらしい。


その後ヴァレリと共に、僕が前世の記憶を持ちであることを知り事実に驚愕するも今では良き理解者であり、協力者となってくれている。


正直なところ、彼の言動はヴァレリよりも信頼できるかも……と思わせてくれるほどに誠実な人物だ。


それから間もなく、バーンズ公爵達を両陛下の元に案内する。


そして、公爵家と陛下達の挨拶が落ち着いたのを見計らい彼女にあえて気さくに声をかけた。


「ヴァレリ、良ければ会場を案内しようか?」


「そうね……じゃあ、折角だからリッドにお願いしようかしら」


彼女が淡々と頷きながらデイビッドをチラリと一瞥すると、彼の眉がピクリと動いた。


そして、彼はそっぽを向きながらわざとらしく「ゴホン」と咳払いをする。


「リッド、君はこれから来る貴族の対応もあるだろう。会場は一通り把握したから、彼女の案内は私がするから気にしなくていいぞ」


「……そうですね。では、デイビッド様にお願いしてよろしいでしょうか」


ニコリと頷きながら、予想通りにうまく釣れたとほくそ笑む。


勿論、この流れもヴァレリ達と事前に打ち合わせしていたことだ。


今まで彼女が行ってきた行動から、彼は少しずつヴァレリのことを見直し始めている。


同時に、いつも彼女がデイビッドを気に掛けてくれることが当たり前になっていたはずだ。


その前提を変えようとする者が現れた時、彼がどんな反応をするのか……一度試して見てはどうか? という提案をヴァレリに行ったのである。


当初、この提案に対して彼女は懐疑的で首を捻っていた。


だけど、その時の話し合いに同席したファラから「デイビッド様がヴァレリ様のことを、本当に嫌っている感じはしませんでした」という話を聞き、こちらの提案通りにしてみると頷く。


そして、現在に至っているわけだ。


少し心配だけれど、後はヴァレリが作戦通りにうまくデイビッドと親交を深めてくれることを祈るしかない。


一応、多少離れた場所からでも会話を聞くことができる兎人族のラムルやディリックに、二人の監視を依頼しているから、何か問題が起きても後から対処可能だろう。


ちなみに、ラムルとディリックは、カペラから諜報活動の教育を受けている子達だ。


デイビッドとヴァレリをエスコートしていく様子を安堵しながら見送っていると、会場にどんどん帝国貴族達が到着していることに気が付いた。


うん、皇族に対する対応はほぼ落ち着いたから、次は貴族との対応に注意しないといけないな。


そう思いながらファラと合流すると、帝国貴族達の出迎えを行うべく移動するのであった。



その後、会場は想像以上の大盛況となっていた。


今回の懇親会に関しては懐中時計や木炭車に加え、新しい食文化を披露することが目的だ。


だから保守派、革新派、中立派などの派閥はあまりに考えずに招待状を送っていたこと。


それに加え、帝城で陛下達との謁見が思った以上の告知に繋がったらしい。


結果、帝都に在中する貴族達がほとんど集まったと言っても過言ではない状況になっている。


あと、懇親会にやってきた貴族達の多くが、僕と年齢が変わらないぐらい令嬢を連れてきているのも嬉しい誤算だ。


彼女達が会場の料理の味を知れば、きっとお茶会とかの話題になって噂になっていくはず。


つまり、口コミも期待できるということである。


しかし、少し気になるのはその令嬢達が何やらこちらの様子を窺っている感じがすることだ。


それに、ファラもどことなく不機嫌というか不安気というか、あまり機嫌が良くないように感じるんだよね。


不思議に思っていたその時、「リッド殿、よろしいかな?」と声を掛けられ振り向くと、そこには武人のような雰囲気を纏った貴族。


そして、僕と同い年ぐらいの男の子が立っていた。


声を掛けて来た相手に少し驚くも、ニコリと頷く。


「はい、構いません。辺境伯グレイド・ケルヴィン様、どうかされましたか?」


そう答えると、グレイド辺境伯はニヤリと口元を緩めた。




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