第362話 懇親会の会場2

「リッド様、恐れながら申し上げます。懇親会の料理がすべて完成しました。味の確認も終わっております」


「わかった。ありがとう」頷き答えると、兎人族のアルマは会釈してそそくさとこの場を後にする。


実は味の再現に大きく力になってくれたのは『兎人族』の皆だ。


彼らは、口にした料理の味を一度で覚えてしまう能力を持っていた。


そして、調味料の味を覚えさせると、何をどう混ぜればどんな味になるのかすぐに想像できてしまう。


このことに気付いたのは、兎人族のオヴェリアがきっかけだった。


彼女は良くも悪くも、歯に衣着せずに思ったことを口に出してしまう。


それは食事の時も同様であり、前回よりも少し塩が足りないとか、味が濃ゆいとか料理人達に都度伝えていた。


その話が苦情としてこちらに届いた時、ふと思い付きで彼女を調理場に立たせてみたのだ。


そして、調味料の味を彼女に覚えさせてから味付けを任せてみると、最初から料理人達が作る料理に近い味を再現したのである。


これには、その場にいた皆は目を丸くした。


その後、色々試した結果、オヴェリアに留まらず兎人族の味覚がとても優れていることがわかったのだ。


これには、バルディア家の料理長であるアーリィが驚きのあまり「この事実を知ると、料理人は誰しも兎人族に生まれたかったと願うかもしれませんね……」と漏らしていた。


しかし、この事実が発覚した時にある事を閃く。


彼らは『調理』することはできずとも、仕上がりの確認は味覚で可能だ。


つまり、バルディア家の料理人達が完成させたレシピを使用して別地域で作った時、正しい味になっているかどうかの確認や調整ができる。


これは、どこでも同じ美味しさを味わえるお店をあちこちに誕生させることが可能であるということだ。


料理において『味の再現性』は、意外に難しい問題だったりする。


特に化学調味料がまだ存在しないこの世界においては、味の調整は味覚で行うしかない。


同じ食材を用意したつもりでも、その日の気温や湿度。


食材の育ち方や産地の違いなど細かい要素によって、仕上がりの味が変わってしまうことは多々あることだ。


その点、完成した料理の味を完全に覚えている『兎人族』の子達がいれば、どこの国においてもバルディア領で開発した新料理の味を調整して再現できることになる。


現に懇親会で並んでいる料理は兎人族の子達が味の最終確認してくれおり、アルマが先程報告してくれたというわけだ。


アルマの背中を見送ると、「ゴホン」と咳払をして注目を集めた。


「では、まだご案内できていない料理の準備が整いました故、あちらに移動しますね」そう言うと、新しい場所へと案内を開始する。



食事の案内が終わると、木炭車の試乗に加え開発を担当してくれたドワーフのエレン達を皇族の皆様に紹介したりと中々に忙しかった。


木炭車の試乗に関しては、まず父上がアーウィン陛下を助手席に乗せて運転。


その後、運転方法を習ったアーウィン陛下がマチルダ陛下とデイビッド皇太子達を乗せて運転するなどして、和気あいあいとしていた。


マチルダ陛下も運転をしてみたいと口にするが、ドレスという服装の問題もあり今回は見送りとなる。


しかし、かなり残念だったらしく、彼女が口を尖らせて不貞腐れていたのが印象的だった。


対応するエレンは、当初は緊張した面持ちだったけれど陛下達から褒められて後半は少し調子に乗っていた気がする……貴族達の対応がちょっと心配かも。


なお、木炭車について僕、エレン、父上が説明している間、デイビッド達はファラが変わらず対応してくれていた。


皇太子のデイビッドは淡々としているけれど、第二皇子のキールと皇女のアディとは大分仲良くなったみたいだ。


やがて、一通りの案内が終わると少し広く取っている座れる場所に移動。


皇族の皆様には椅子に腰かけてもらった。


「ふぅ。それにしても、バルディア領の発展は著しいな。新しい食文化に加え、木炭車や懐中時計とは……いやはや総じて恐れ入ったものだ」


「陛下の言う通りです。しかし、木炭車を効率的に使用する為には、道の整備や補給所の設置が必要と言っていましたね。その点について、まだ『実演』がないようですが、どう解決するつもりですか?」アーウィン陛下の言葉に頷いたマチルダ陛下がこちらに視線を向ける。


「では、早速その方法を今この場で披露したいと存じます」そう言って会釈すると、ファラ達の傍に控えていた第二騎士団の子達に目配せした。




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