第325話 第二騎士団とファラ
その日、第二騎士団の宿舎は騎士団全員が昼間から招集を受けたことに関する理由についての話題が朝から尽きなかった。
宿舎の一階にあるロビーでは各種族が集まり、賑やかに今も話し合っていた。
「アルマ。やっぱり、全員に招集が掛かったってことは何かご褒美がもらえるとかじゃねえかな」
「どうかしらね……大体、ご褒美ってオヴェリアは何が貰いたいのよ」
「そりゃ……やっぱり食堂の注文権利とか金かな」
「確かに『お金』が貰えるんならご褒美もありかもしれないわね」
特に元気よく話しているのは兎人族の二人で、その声はロビーに響き渡っている。
そんな、彼らに猫人族のミアが呆れた表情で話しかけた。
「はぁ……お前ら、確かにリッド様は優しいけどな。ディアナとカペラの二人がそんな『ご褒美』なんてくれるとは思えねぇよ。きっと、新たな任務とか訓練とか……下手すりゃ新しい魔法や訓練の実験とかじゃねえか。なぁ、レディ、エルム。お前らもそう思うだろ?」
ミアがそう言って視線を向けた先には、猫人族の少女と少年がソファーに座ってトランプでカードゲームを楽しんでいる。
彼らは、ミアの問い掛けに遊ぶ手を止めずに答えた。
「さぁね。あたしは、今の生活が守れるなら何でもいいわよ」
「あはは、僕はミアとレディに任せるよ」
淡々と答えるレディに対して、エルムは少し遠慮がちに角が立たないような言い回しだ。
その様子を見ていたオヴェリアはニヤリと笑う。
「あたしからすれば厳しい任務や訓練もご褒美さ。新しい魔法や訓練の実験なら尚更……な。はは、第二騎士団であたしが一番強くなってやるよ」
自信満々な声を彼女が辺りに響かせたその時、スッとオヴェリアの背後に人影が現れた。
「……お前だけ強くなるとは、聞き捨てならんな」
「なんだよ、熊公。お前が絡んでくるなんて珍しいな」
彼女は一瞬ぎょっとするが背後を振り返り、熊人族のカルアとわかるとおどけた仕草を見せる。
しかし、彼は彼女の仕草を気にする素振りはない。
「私も強くなりたいと思っているだけさ。だから、抜け駆けはさせたくないということだな」
「相変わらず熊公はお固いねぇ……」
オヴェリアとカルアの会話がロビーに響く中、少し離れた場所に座って彼らのやり取りを眺めている似た容姿の少女達は鳥人族のアリア姉妹達だ。
その中で、シリアがアリアに向かって問い掛ける。
「ねぇ、アリア姉さん。今日の招集はなんだと思う」
「なんだろうね。だけど、嫌な感じはしなかったよ」
アリアが答えると、近くにいたエリアが同意するように頷くと、話に加わる。
「……うん。アリア姉の言う通り、最近のカペラやディアナそれにお兄からも嫌な感じはしなかった。むしろ、なんかお兄はフワフワしてた……かな」
エリアはそう言うと、ロビーを見渡す。大声を響かせる兎人族や猫人族が目立ってはいるが、バルディア家に仕える獣人族はほぼ全員この場に集まっている。
それだけ、全員招集という指示の内容が気になっているという事だろう。
その時、ロビーに入ってきた狼人族のシェリルの声が響いた。
「リッド様がもうすぐ来られるそうだ。大会議室に移動しておくようにとカペラ様より連絡があった。全員、速やかに移動するように」
彼女の一声に獣人族達はそれぞれに答え、反応を示す。
そして。その場にいる獣人族の子供達はソファーを立ち大会議室に移動していく。
◇
「ファラ。ここが、バルディア第二騎士団の皆が住んでいる宿舎だよ」
「はわぁ……ここも立派な建物ですね」
新屋敷の案内が終わるとファラ達を第二騎士団の面々に紹介する為、僕は獣人族の皆が住んでいる宿舎に馬車で移動。
そして、いま眼の間にある宿舎の大きさにファラが感嘆の声を漏らしているというわけだ。
彼女の声に続くようにアスナも頷いている。
「さすが第二騎士団の宿舎ですね。屋外、屋内ともに立派な訓練場を完備されているのが馬車の中からも見えました。日々、鍛錬と業務に集中できる環境を用意するとは、素晴らしいです」
「はは、ここはいずれ様々な『学び舎』を創設していく為の試験的な運用もあるからね。規模としてはある程度大きくしているんだよ」
「……様々な『学び舎』ですか」
アスナと会話する中、気になる点があったらしくファラが首を傾げた。
「ふふ、それは話すと長くなるからまた今度にしようか。それよりも、今日は第二騎士団の皆にファラを紹介しないとね」
そう言うと、彼女はハッとして少し表情に緊張が走った様子で頷いた。
「は、はい。承知しました」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。まぁ、元気過ぎるところはあるけど、獣人の皆は根は良い子達だからさ」
安心させるように笑みを浮かべて答えた後、僕は彼女達を連れて大会議室に移動する。
◇
大会議室に移動するとそこには、獣人の子達がすでに勢揃いしていた。
見回すと、初めて彼らが此処に来た時のような不安な表情はない。
どちらかと言えば、自信に満ちた表情をしている。
第二騎士団として行う業務が、彼らの自信になっているのかもしれないな。
そんなこと思いながら、僕は皆の前に立ち微笑んだ。
「やぁ、皆。急に集まってもらってごめんね。今日は君達に紹介したい人がいるんだ」
皆の期待に籠る眼差しの注目を浴びながら、僕は照れ隠しのように咳払いをする。
そして、ファラを前に呼ぶと、改めて第二騎士団の皆に彼女の紹介を始める。
「彼女は僕の妻としてレナルーテ王国からバルディア領にやって来た。『ファラ・レナルーテ王女』です。今後、皆と会う機会も多いと思うからよろしくね」
そう言うと、僕はファラに視線を向けてニコリと微笑む。
彼女は頷いた後、獣人の子達に向かって凛とした声を発する。
「皆さん、初めまして。リッド様よりご紹介頂きました、元レナルーテ王国第一王女、ファラ・レナルーテ……もとい『ファラ・バルディア』です。この度、縁あってリッド様の妻となりました故、よろしくお願い致します」
言い終えたファラは、彼らに向かってペコリと一礼する。
それと同時に大会議室には静寂が訪れた。
それから間もなく、ファラが顔を上げてニコリと獣人の子達に向かって微笑む。
その瞬間、「えぇええええええええ⁉」と獣人の皆から驚愕の声が響いた。
予想外の反応に少し困惑していると、兎人族のオヴェリアが「よろしいでしょうか?」と言ってスッと挙手をする。
何やら嫌な感じがするけど、僕はこの場が収まるならと思い咳払いをして問い掛けた。
「えっと、どうしたのかな。オヴェリア」
「そちらのお方がリッド様の妻になった……ということは承知しました。しかし、実力はどうなのでしょうか」
「は……?」
今度は思いがけない言葉に僕はきょとんとしてしまう。
しかし、ニヤリと笑みを浮かべたオヴェリアはそのまま話を続けた。
「はは、良くご存じでしょう。獣人族が重視するのは何と言っても『力』です。リッド様の妻ということはそれ相応の『力』をお持ちと存じますが……如何でしょうか」
「はぁ……オヴェリア。君はまたそんなことを言って……」
彼女の言葉に僕が呆れて首を横に振ったその時、ファラが一歩前に出て頷いた。
「いえ、私も彼女の言う通りだと思います」
「へ……?」
目を輝かせながらオヴェリアの言葉に力強く頷く彼女の言葉に僕は呆気に取られるのであった。
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