第270話 バルディア第二騎士団始動

バルディア第二騎士団が設立され、少し時が経過したある日。


僕は、宿舎の執務室でディアナの淹れてくれた紅茶を口にしながら、カペラが精査してくれた書類に目を通している。


書類作業に追われる中、カペラが書類から視線を僕に移すと、無表情ながら感心した様子で声を発した。


「リッド様、第二騎士団の活躍は目覚ましいですね。報告書に加え、領民から喜びの声と要望書も届いております」


彼の言葉を聞いた僕は、書類仕事の手を止める。そして、彼に視線を移してニコリと微笑んだ。


「領民も喜んでくれているなら良かったよ。教えてくれてありがとう、カペラ」


僕がカペラに答えると、ディアナも会話に参加するように微笑みながら呟いた。


「領民だけではありません。第一騎士団の騎士達も、第二騎士団の動きにはとても助けられていると申しておりました」


「それは、嬉しい話だね」


彼女の言葉に、僕は頷きながら笑みを浮かべる。


バルディア騎士団だけの時は、領内における治安維持、情報収集はすべて今の『第一騎士団』が全部負担していたのだ。


父上やダイナス団長は、騎士達に出来る限り負担をかけ無いように注意はしていたみたいだけど、それでも限界はあったみたい。


そんな彼らの負担少しでも軽減するのも、第二騎士団が設立された理由でもあるからね。


しかし、僕はふと机の上に溜まっている書類を見渡して、やれやれと項垂れた。


「はぁ……でも、ここまで書類作業に追われるようになるとは思わなかったなぁ」


実は、バルディア第二騎士団が無事設立され、僕と獣人族の子供達はとても多忙になっていた。


まぁ、新たな組織に加えて、新たな試みということになれば当然であるんだろうけどね。


ちなみに、バルディア第二騎士団は役割に応じていくつかの部署というか、隊に分かれている。


・製作技術開発工房


・バルディア第二騎士団航空隊


・バルディア第二騎士団陸上隊


・辺境特務機関


『制作技術開発工房』は、ドワーフのエレン率いる第一製作技術開発部とアレックス率いる第二制作技術開発部に分けている。


第一開発部が、木炭車や武具などを担当。


第二開発部が、懐中時計などの小物関係を担当する。


獣人族で言えば、狐人族と猿人族がほぼ所属しており、後は属性素質や力仕事などの関係で他の種族がいるという感じだ。


『バルディア第二騎士団航空隊』は、鳥人族のアリア達姉妹だけで構成されている。


四人一組で『飛行小隊』として編成され、第一~第四飛行小隊まで存在。


彼女達にはバルディア領内を交代制で上空から巡回……つまり、パトロールをしてもらっている。


勿論、アリア達姉妹は全員『通信魔法』を使用可能。


『懐中時計』を各隊の隊長と副隊長に持たせているから、定時連絡と緊急連絡を辺境特務機関の情報局へ即座に通信も可能だ。


さらに、情報局を通じて第一騎士団と情報共有することで、領内の警備活動はより効率的かつ効果的なものとなった。


おかげで、第一騎士団の面々から、アリア達姉妹の評判はとても良い。


彼女達も、頼りにされることは満更ではないようでいつも頑張ってくれている。


先程、ディアナの言っていた部分は、航空隊の存在も大きいのだろう。


『バルディア第二騎士団陸上隊』は、八人一組で『一分隊』として編成され、隊長と副隊長には懐中時計を持たせている。


部隊数としては一~八分隊まで存在し、一~二分隊が土属性魔法を主に使用する部隊。


三~四分隊が樹属性魔法を主に使用する部隊となっており様々な土木関係を担当する工兵ともいうべき存在だ。


この一~四分隊が、公共事業を行う主力部隊となる。


そして、五~八分隊が戦闘特化兼護衛ともいうべき部隊であり、一~四分隊の作業補助と護衛を行っていく予定だ。


『辺境特務機関』は、特務実行部隊が十人一組で二分隊。


情報収集を行う十二名一組の特務諜報一分隊。


後は、各分隊と第一騎士団との情報精査と連携を行う『情報局』が存在している。


特に『情報局』の重要性は、第二騎士団を稼働させてからより実感することになった。


情報局には、特務機関での情報は勿論、他隊の情報も集まるので情報の整理、精査だけでも毎日多忙となっているようだ。


そして、情報局で整理、精査された情報が僕の前に今、書類として山積みになり広がっているというわけである。


僕の項垂れた表情と、山積みの書類を見たカペラが無表情のまま呟いた。


「確かに、この書類の山は後々問題となりましょう。宜しければ、書類に一度私がすべて目を通して、本当に必要と思われる情報だけをリッド様に提出するのはいかがでしょうか」


「うーん、確かにそれをしてもらえると助かるんだけどねぇ……」


僕はカペラに答えながら、ちらりとディアナに視線を移す。


すると、彼女は小さく首を横に振った。


濃い期間を過ごしたので忘れそうになるけど、カペラはレナルーテの元暗部だ。


彼に対して、僕もそこまで情報規制をかけていないから色々とすでに知っているとは思う。


だけど、さすがに直接情報を扱う部分を丸投げすることは難しい。


ディアナはすでに首を振っているし、父上も許さないだろう。


僕の考えていることを察したのか、カペラは考え込むように俯く。


それから、間もなく顔を上げると呟いた。


「そうですね……私の経歴が問題なのであれば、この機に私が知っているレナルーテに関するすべての情報をお伝えしても構いません。その上で、私を改めて信用して頂けないでしょうか」


彼の言葉に、僕は思わず眉間に皺を寄せる。そして、凄みと威圧的な視線を向けた。


「……カペラ、その言葉の意味をわかって言っているんだよね。それは、自国を裏切るということだよ? 暗部である君が、こちら側付くというのは実に喜ばしいことだよ。それが……『本当』の話だったらね」


「わかっております。しかし、私も伊達や酔狂で言っているわけではありません」


カペラは、無表情のままに僕の言葉に答えた。


僕はというと、彼の言葉の真意がわからずに腕を組みながら、考え込むように目を瞑る。


カペラのような人物が、本当に自国を裏切るような真似をするだろうか? いや、それはないだろう。


しかし、ここまで言って来るのであれば何かしらの理由があるはずだ。


それに、バルディア第二騎士団の設立と獣人族の子供達の教育課程の作成などは、カペラがいなければ出来なかったものある。


今後のことも考えると、彼を手放すことはバルディア家にとって損失とも言えるかもしれない。


僕はひとしきり悩んだ後、ゆっくりと目を開けて呟いた。


「手は手でしか洗えない。得ようと思ったらまず与えよ……か。わかった、カペラ。君を信じよう」


「リッド様⁉」


すかさず反応したのはディアナだ。彼女は、僕に驚愕した表情を見せながら声を発した。


「僭越ながら諫言、失礼致します。いくら何でも、カペラさんの経歴を考えてその判断は無いかと存じます。態度や口では何とでも言えるでしょう。レナルーテにバルディア家の情報が筒抜けとなってしまいます」


「確かにね。でも、彼が本気なら既にそうなっていると思うから、その心配は無意味だよ。それよりも、どうしてそこまで僕の信用を得たいのかが気になるね」


僕はディアナに答えると、視線をカペラに移した。すると、彼は無表情のままに呟く。


「勿論、リッド様の行く末をお傍で拝見させて頂きたいと思ったからです。そして、もう一つ……」


「……それは何かな?」


彼が珍しくもったいぶるような発言をするので、僕は思わず問い掛けた。


カペラは、僕の問い掛けに無表情だが意を決した様子で答える。


「バルディア領にて、結婚を申し込みたい相手がおります」


「……はい?」


彼の思いもよらない言葉に、僕とディアナは目を丸くして唖然とするのであった。





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