第269話 バルディア第二騎士団設立

その日、宿舎の屋外訓練場にはバルディア騎士団の面々に加え、獣人族の子供達が綺麗に整列していた。


獣人族の子供達は、数カ月前にバルディア領に来た時と比べると、見違えるほど自信に溢れた力強い顔つきをしている。


その中、一番前に用意された台の上に父上が悠然と立ち、鋭い声を轟かせた。


「本日、集まってもらったのは他でもない。新たな騎士団の設立に伴い、バルディア騎士団の名を改めることになったからだ。私、ライナー・バルディア直属のバルディア騎士団は『バルディア第一騎士団』となる。我が息子、リッド・バルディア直属のバルディア騎士団は『バルディア第二騎士団』となることが決まった。第一騎士団の業務内容や体制は今までと変わらんが、第二騎士団は領内における『公共事業』を中心とした業務となり、後方支援というべき役目になるだろう。では、最後に第二騎士団を率いる我が息子より決意表明をしてもらう」


父上は口上を述べると、台の後ろに並んでいた僕に視線を向けた。


やがて、咳払いを行うとそのまま台を降り始める。


父上と入れ替わるように台の上に立った僕は、改めてこの場にいる皆をゆっくりと見渡した。


ようやく、当初の事業計画であった『魔法を使った領地改革』を開始出来ると思うと、感慨深くなる。


僕はおもわず、父上と行った先日のやりとりを思い返していた。


バルディア第二騎士団の設立を前に、鼠人族を中心とした獣人族の子供達と『通信魔法』の開発成功の件については、父上が帝都から帰って来ると僕は最優先で報告。


新魔法開発の成功にも驚いていたけど、何より距離が離れているのに『会話』が可能になったという事実に、父上は驚愕した表情を見せる。


「まさか、ここまでの魔法とは思わなかったぞ……また、常識を突き抜けたことをしおって……」


頭を抱えていたのが印象的な姿だったけど、そんな父上に僕は苦笑しながらある提案をする。


「あはは……何も頭を抱えなくても良いではありませんか。父上が、帝都に行く時に『通信魔法』を使える子を連れて行けば、バルディア領にいる母上。それに僕やメルとも会話することも可能ですよ」


提案を聞いた父上は、眉をピクリとさせるが軽く首を横に振った。


「……それはそうかもしれんが、公共や軍事的なことを考えれば恐ろしいほど画期的で革命的な魔法だぞ」


「しかし、傍から見るだけでは、何をしているのか理解することは不可能だと思います。それに、現状の魔法常識から言えば事実を告げると、むしろ疑われるのではないでしょうか」


この時、父上は僕の答えを聞くと何やら呆れた様子で唖然としてしまい、しばらく考え込んでしまう。


その結果、『通信魔法』はその範囲、利便性などを研究しながら、当分は外部に一切出してはならないという指示が出たのであった。


『通信魔法』の報告が終わると、僕はクロスとまとめた第二騎士団設立の原案を父上に提出。


多少の手直しはあったけど無事承認され、バルディア第二騎士団の設立が決まった。


そして今、僕の目の前に広がっているのがまさにその『バルディア第二騎士団』なのである。


僕は、父上同様に深呼吸をしてから皆を見渡すと、声を張り上げた。


「父上にご紹介預かりました、バルディア第二騎士団を率いる『リッド・バルディア』です。此処にいる君達は、魔法の可能性をバルディアに……いや、いずれ世に知らしめる先駆けになるでしょう。そして、バルディア第二騎士団は『バルディア家』を背負っています。皆の行動すべてが、バルディア家と直結しています。どうか、その責任を重荷に感じず、自らの誇りとして僕と一緒に『バルディアを守る者』として歩んで欲しい……以上です」


口上を述べた後、僕はその場でゆっくり皆を見渡してから会釈を行った。


その瞬間、第一と第二騎士団の全員が僕に向かって拍手を送ってくれる。


それは、やがて大きな拍手となり野外訓練場に響き渡るのであった。


僕が感動しながら台を降りると父上が再度、台に上がる。


その時、父上はすれ違いざまに僕の耳元で囁いた。


「バルディアを守る者……よい決意であったぞ。しかし、これからが大変だ。気を引き締めろ」


「……‼ はい、当然です」


こうして僕、リッド・バルディアの直属となる『バルディア第二騎士団』は無事設立されたのであった。





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