第263話 鳥人族とメルディ

「あはは‼ にいさま~、みてみて~」


「メル、手を離したらダメだよー」


アリア達の協力で、メルはいま空を楽し気に散歩しながら地上にいる僕に向かって手を振っている。


メルが空を散歩している方法は至って簡単。


少し大きめで頑丈な板に、エレン達に作ってもらった丈夫な紐を左右に四本ずつ付けて、アリア達に姉妹に持ちあげてもらうだけだ。


鳥人族の人数は必要になるけど、現状だと一番簡単な空を飛ぶ方法になると思う。


しかし、メルの飛ぶ方向に夕焼けがあり、カラスの鳴き声が合わされば、とある妖怪が事件を解決して去っていくような風景を彷彿させる……かもしれない光景ではある。


その時、僕の隣にいるダナエが、空から手を振っているメルを見て驚愕した表情で青ざめた。


「メルディ様、そんな片手を紐から離してまで手を振らないで、しっかりと両手で紐を掴んでくださぁああい‼」


彼女はずっと、空で楽しそうに手を振るメルを目で追っている。


そんなダナエとメルのやりとりを横で見ていたディアナが、額に手を添えながら心配顔で僕に振り向いた。


「リッド様、メルディ様に早く地上に下りてくるようにお伝え下さい。私もダナエ同様に心配で堪りません」


「あはは……気持ちはわかるけど、アリア達がしっかり見ているから大丈夫だよ」


ダナエとディアナの心配をよそに僕は、苦笑をしながら空を楽しんでいるメルに微笑みながら小さく手を振り返す。


メルは、鳥人族の子達が空を飛ぶ姿を見てからというもの、空をお散歩したい、と僕に言っていた。


流石にそれは無理かなぁ、と思ったのだがその時、ふと前世の記憶が蘇ったのだ。


「……そういえば、前世の記憶でカラスを使って空中ブランコみたいに空を飛んでいる映像があった気がする。カラスは流石に無理でも、アリア達に協力をお願いすればいける……かも?」


思い立ったが吉日で、僕はすぐにエレンとアリア達に相談。


エレンは「また、変なことを考えますねぇ……」と呆れ顔。


アリア達は、「あはは、それ面白そう。やってみようよ‼」とノリノリだった。


その結果、空中ブランコが開発されたわけだ。


一応、発案者の僕は最初に試したけど、慣れると楽しい。


言うなれば、遊園地の遊具のようでもあった。


ただ、アリア達が悪ノリして、途中からは絶叫遊具みたいになったけどね……。


ちなみに、鳥人族のアリア達とはこの後、新しい武具の件で一緒に工房に行く予定だ。


メルが宿舎に来たのは、本人が希望した武術訓練の為なので、この後は別行動になる。


最近のメルは、よく宿舎に出入りするようになったので、獣人族の子供達にも僕の妹と覚えられている。


その中でも、特に仲が良いのが鳥人族のアリア達だ。


彼女達は公的な場所以外や外部者のいないところでは僕のことを「お兄ちゃん」と、慕ってくれている。


そのことがきっかけで、メルはアリア達と仲良くなったらしい。


メルがアリア達の前で、「わたしが『おにいちゃん』のいちばんめの、いもうとだからね‼」と胸を張り宣言すると、彼女達も「はーい。メルディお姉ちゃん」と笑みを浮かべて答えていた。


メルがその時、「えへへ」とご満悦な表情だったことは言うまでもない。


アリア達の方が年齢的にはメルより年上なんだけどね……。


しかし、そろそろ良い時間だ。


僕は、空の散歩を楽しんでいるメルに向かい、聞こえるように大声を発した。


「メルと皆‼ そろそろ、移動するから降りておいで」


「はーい。にいさま‼」


「はーい。お兄ちゃん‼」


メルとアリア達は、僕の声に反応して答えながら僕達に向かって再度、空から手を振って見せる。


その姿に、ダナエとディアナが心配のあまり絶叫に近い悲鳴を上げたのは言うまでもない。


ふと、メルとアリア達を良く見ると皆で笑みを浮かべて何か話しているみたいだ。


「でも、そらがとべるなんて、いいなぁ。アリアたちってほんとうに、すごーい‼」


「ふふ、ありがとう、メルディお姉ちゃん。でも、危ないから紐にしっかり捕まっていてね」


「うん。アリア、ありがとう」


当然、離れすぎていて僕には彼女達の声は聞こえないけどね。


彼女達は、それから間もなく無事に地上に降り立つ。


ダナエは、すぐにメルを抱きしめると、心配そうに尋ねた。


「メルディ様、手が痛いとか、お体は大丈夫ですか。


「うん、だいじょうぶだよ」


メルは、ダナエを安心させるようにニコリと微笑みながら答えるのであった。


その後、メル達と別れた僕達はエレンが待つ工房にアリア達と一緒に馬車で向かい始める。


その途中、馬車の中でディアナが額に手を添えながら呟いた。


「はぁ……メルディ様もある意味では、どんどんリッド様に似ているような気が致します」


「そうかな。まぁ、でも兄妹だからね。あ、そうだ。今度、良ければディアナも『空中ブランコ』に乗ってみる?」


僕の問い掛けにハッとした彼女は、目に好奇心を宿すがすぐに考え込む素振り見せる。


それから間もなく、首を軽く横に振った。


「興味がないと言えば嘘になりますが……このメイド服で乗ると大変なことになりそうなので、丁重にお断りさせて頂きます」


「あ……そうだね」


確かに、彼女の言う通りメイド服のようなロングスカートでアリア達の『空中ブランコ』に乗ったら大変そうだ。


そして、ディアナと談笑をしている間に、僕達が乗った馬車は工房に辿り着くのであった。





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