第260話 魔法を使った新たな商品も?
屋敷の応接室でクリスと『懐中時計』の販売方法についてある程度の話をまとめた後、僕は彼女を工房に案内。
クリスにも木炭車を試乗してもらった。
彼女も最初こそ、人も馬の力も無しに動く『木炭車』に驚愕していたが、すぐにその可能性を理解する。
木炭車を開発、稼働してくれたエレン達とクリスが質疑応答をした後、彼女にも木炭車を運転してもらった。
突然の試乗に戸惑ってはいたけど、クリスは運転方法をすぐに理解して工房周辺を周回してみせる。
試乗が終わり、木炭車を降りて来ると、クリスは満面の笑みを浮かべて僕の側にやって来た。
「リッド様、木炭車は素晴らしいですね。動く原理は何となく理解しましたけど、その程度の知識でもちゃんと走らせることはできる。馬のように体調管理や乗馬技術は勿論、餌代も必要ありません。これが量産された際には、物流革命が起きるでしょうね」
「ふふ、楽しんでくれたようで良かったよ。それこそが目的の一つではあるんだけどね。でも、まだまだ問題は山積みさ。とりあえず目先の問題点は燃料となる『木炭の補給所』だよ。これの建設と木炭供給網をクリスにお願いしたいんだ」
彼女は僕の話を聞くと、難しい面持ちで口元に手を充てながら考え込むように俯いた。
馬車に使う馬だって休ませたり、餌をやったりする必要があるし、距離や急ぎ状況によって途中で馬だけ替えることもある。
そういう意味では、馬車も『補給場所』は必要だ。
つまり、どんな乗り物でも補給所が無ければ意味がない。
開発されたばかりである木炭車の問題点は、木炭の補給所が現状どこにもないことだ。
勿論、木炭車に多少は乗せる予定ではあるけどさすがに限界がある。
それに、僕の中では木炭車の先も見据えているから木炭の補給所を作っておいても後々、流用することも出来るだろう。
輸送方法としては、馬車の荷台を改造して、木炭車で荷台を牽引する仕様を予定している。
彼女は間もなく、顔を上げてニコリと微笑んだ。
「わかりました。バルディア領内で作製した木炭を補給所への移動、建設をクリスティ商会もお手伝いさせて頂きます。あと、将来を見据えて補給所周辺にクリスティ商会からお店を出させて頂きたいですね」
「わかった、その辺りはまた改めて打ち合わせしようか」
恐らく彼女が考えたのは、前世の記憶でいう高速道路などある『サービスエリア』のようなものだろう。
クリスの問い掛けに僕が頷いたその時、兎人族のオヴェリアがこの場にやってきた。
彼女は、僕があるお願いをしている関係で、最近は工房にも出入りをしている。
少し不満そう視線を僕に向けながら、彼女は水の入ったコップを差し出した。
「リッド様、ご依頼されていたお飲み物をご用意して持って参りました」
「ありがとう、オヴェリア。クリス、これ飲んでみて」
オヴェリアはディアナの視線に少しドキッとした様子を見せてはいるが、この場の言動に問題はない。
ちなみに、この二カ月で獣人族の子供達の言葉遣いは、オヴェリアに限らず矯正されている。
訓練中とか礼儀が必要ない場所、プライベートな時間は今まで通りの言葉遣いをしているから、宿舎内における彼女達の会話は相変わらず賑やかだけどね。
彼女から受け取ったコップを確認してから、そのままクリスに差し出す。
普通の水だけど、この世界においてはとても『珍しい水』でもある。
彼女は僕の意図を測りかね、戸惑いの表情を見せながらも受け取ってくれた。
「ありがとうございます。でも、これは……?」
「大丈夫、ただの水だよ。でも、飲んだら驚くと思うよ」
「は、はぁ、では、頂きますね」
クリスは少し構えた様子で水に口を付つける。
しかしその瞬間ハッとして、すぐに僕とオヴェリアに驚きの視線を向けた。
「リッド様、こ、この水……‼」
「ふふ、『冷たい水』は美味しいでしょ」
驚きの表情を浮かべているクリスに僕は、『冷たい水』の秘密を説明する。
しかし、秘密というほどのことはない。
兎人族はオヴェリアを含み、全員が『水』『氷』『光』の属性素質を持っていた。
これは、兎人族における基本属性素質というべきかもしれない。
兎人族の子供達に『氷、水、光の属性素質』を持っていることを説明しても、最初は良く分かっていない様子だったけどね。
その為、魔法のイメージを掴んでもらうのには結構苦労したけど、その分の見返りとしては十分だろう。
兎人族以外の獣人族で氷の属性素質を持っていたのは『兎人族』『猫人族』『熊人族』の三種族。
後は、各個人で少しだけ持っている子がいるぐらいかな。
話が少し脱線したけど、訓練によって魔法が使えるようになったオヴェリアは、事前に氷の属性魔法を使って水を冷やしてから僕に渡したというわけだ。
冷たい飲み物なんて、この世界の現状では氷の属性魔法を使える貴族。
後は、お抱えの魔法使いを傍に控えさせている皇族ぐらいだろう。
僕は以前から冷たい飲み物が欲しい時だけコッソリと使っていたんだけどね。
クリスは僕の説明を聞いて、驚きを隠せずに目を丸くして唖然としている。
そんな彼女に僕は笑みを浮かべた後、オヴェリアに視線を移す。
「オヴェリア、悪いけど折角だから氷生成の実演をしてくれるかな」
「……あたしの魔法は見世物じゃねぇっての」
彼女は何やら小声で呟いたようだが良く聞こえず、僕はきょとんして面持ちで問いかけた。
「何か言った?」
「いえ、何でもありません‼ すぐにお見せ致します」
僕のお願いに、彼女はまた少し不満げな面持ちを浮かべながらも右の掌の上で、四角い水の塊を作り出す。
そして、おもむろに左手を近づけると四角い水の塊は、すぐに四角い氷の塊となったのである。
一部始終をみていたクリスは、何やら呆れ顔を浮かべていた。
「あ、あはは……まさか、こんなにも早く獣人族の子供で魔法を使いこなせる子が出て来るなんて、思いもしませんでしたよ……凄い、才能を持った子ですね」
「クリス、何か勘違いしてない? オヴェリアが特別じゃないからね。獣人族の子供達は、属性素質こそ違うけど、皆それぞれにこの程度の魔法はもう問題なく出来るようになっているよ」
クリスは僕の答えを聞くと、言葉を失い驚愕の面持ちを浮かべるのであった。
その後、エレンが作製した『かき氷機』を持ってきてくれたので、オヴェリアが作った氷をこの世界では貴重なかき氷にしてこの場にいる皆で楽しんだ。
もっともシロップがないので、果物を擦り下ろしたものを掛けるしかできないけどね。
それでも、未知の触感であるためこの場にいる皆は美味しそうに、かき氷を食べていた。
クリスは「これも絶対、商品化しましょう‼」と息巻いていたので、シロップの材料に使う為のある食材探しを新たにお願いすると、彼女は意気揚々と引き受けてくれる。
僕達は、かき氷を食べながらその後の打ち合わせを続けていくのであった。
ちなみにクリスは、かき氷にかなり感動したらしい。
しかし、彼女は食べ急いだ結果、『キーン』となる『アイスクリーム頭痛』に襲われたようで、打ち合わせ中にその場で悶絶し始めた。
彼女が悶絶して間もなく、僕以外のこの場にいる全員が『アイスクリーム頭痛』に次々と襲われ悶絶したのは言うまでもない。
僕はそんな光景を微笑ましく見ているのであった。
……まぁ、まだこの世界にはアイスクリームはないんだけどね。
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近況ノート
タイトル:書籍化のお知らせ&表紙と情報の公開!!
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閲覧には注意してください。
https://kakuyomu.jp/users/MIZUNA0432/news/16817330647516571740
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