第212話 獣人族の立場
「さて、各々に様々な事情があったと思うけど、君達は奴隷として獣人国ズベーラから、バルストに売りに出された。そして、僕が買い、保護したというわけだね。勿論、意味なく保護したわけじゃない。君達には、バルディア領の発展に貢献してほしいと思っているんだ。僕と一緒にね」
僕の言葉を聞いた獣人の皆は、きょとんとして表情浮かべる者が多い。
でも、中には思案顔や僕を睨む者など反応は様々だ。
僕はそんな彼らにニコリと微笑み説明を続けた。
この場にいる獣人族の皆に対して僕は、衣食住の用意と様々な教育を施す。
それにより、獣人族の皆が得た『力』を使いバルディア領の発展に貢献していってもらう。
その方針と仕組みを簡単に伝えた。
「……とまぁ、こんな感じかな。今日、体験してもらった『湯浴み』や『食事』、それから、この後に案内する皆の部屋も気に入ってくれると思うよ」
説明を終えると、獣人の一人がスッと挙手した。
僕はその子に視線を向けて問い掛ける。
「質問かな? 君は……念のため、種族と名前を言ってもらっていいかな?」
「……熊人族のカルアだ。一つ聞きたい、『保護』とはどういう意味だ。我々は奴隷ではないのか?」
「良い質問だね。カルア」
今後、彼らに対して『奴隷』という言葉は使えない。
何故なら、帝国において奴隷は禁止されているからだ。
ならば表面上はどうするのか? それは『保護』である。
バルディア家はバルストにおいて、獣人族の子供達が大量に奴隷売買される情報を得た為、『救済』という名目で彼らをバルストの法律に則り購入。
その後、奴隷として排出された子供達を国に帰すわけにもいかず、止む無くバルディア領で受け入れる。
さらに、保護した子供達には奴隷解放に使用した資金分、領内で働いて返してもらう。
その為の教育施設がここなのだ。
「……つまり、君達はバルディア領において正確には奴隷ではないんだよ。ただし、君達を奴隷から解放するために使った資金は、こちらが提示する方法で働いて返してもらうよ。それが結果として、バルディア領の発展にも繋がるからね」
「それで『保護』というわけか……しかし、『ものは言いよう』とはよく言ったものだ。あんた、良い人だけど、考えることは悪どいな」
カルアは説明を聞き終えると呆れ顔を浮かべている。
どうやら彼は、僕の言わんとしていることを粗方理解したようだ。
すると、また別の獣人が挙手したので、そちらに視線を移す。
「君も質問かな、種族と名前を言ってね」
「兎人族のアルマです。その借金を貴方に返し終えたら、私達はどうなるんですか?」
「勿論、晴れて自由の身となるかな。ただ、この施設で教える事は外部には出せない。だから、領内から出て行くことは難しいけどね。その時は、この施設から出て領内のどこかに住んでもらっても良いよ。もっとも、この施設より良い暮らしが出来るか現状わからないけどね」
『自由の身になれる』その言葉が思いがけないものだったのか、アルマの表情に困惑が見て取れる。
良い機会だから、少し釘を刺すか。僕は凄むと悠然と言葉を口にした。
「……君達はどのような過程であれ、バルストで『奴隷』になったのは事実だ。その時点で、君達の人生は一度終わったんだよ。だけど、幸いな事に君達はもう一度、人として生きる機会にここで恵まれたんだ。その意味をしっかり考えてほしい」
言い終えると同時に、大会議室に静寂が訪れる。
しかし、その中で声を発しながら挙手する者が現れる。
「兎人族のオヴェリアですが、リッド様、いいですか?」
「良いよ。じゃあ、君で最後にしようか」
彼女はその場におもむろに立つと僕をギロリと睨む。
「説明はわかった。ところで、さっき食堂であたし達に聞いたよな? 獣人族が自ら進んで協力する者についてだ」
何かするつもりかな? まぁ、誘いに乗るのも一興かもしれない。
彼女の問いかけに頷き答えた。
「……そうだね。是非、教えて欲しいと思っているよ」
僕の言動にオヴェリアは不敵にニヤリと笑った。
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