第211話 大会議室
「さてと……、獣人族の食事はこの子達で終わりかな?」
「はい。メイド達にも確認したところ、この子達が最後になるそうです。他の子達は、当初の段取り通り、『大会議室』に集められております」
大会議室は宿舎の中にあり、かなりの人数を収容できる部屋となっている。将来的には文字通りの使い方をする予定だ。
僕はディアナの答えに頷く。
「わかった。じゃあ、僕は先に大会議室に行くから、彼女達をお願いね」
「承知致しました」
僕は、食事をしている獣人族の皆にニコリと微笑むと食堂を後にして、そのまま大会議室に移動する。
その途中、カペラが珍しく怒気を纏い話しかけてきた。
「リッド様、流石に彼らには、いずれ立場をわからせる必要があると存じます。今のままでは増長するかと……」
「うん。それも何とかしないといけないね。でも、彼女達はカペラやディアナに対応してもらっても、性根は変わらないと思うんだよなぁ」
勿論、カペラの言う事も正しい。彼女達をこのまま放っておくわけにはいかない。
でも、先程のオヴェリアが僕に言った言葉『獣人族が自ら進んで協力する相手』というのが彼女達を本当の意味で導く存在になるのだろう。
さて、どうしたものかな。
そんなことを考えながら僕達は大会議室に辿り着くと、すでに大勢の獣人族の皆が集められて床に座っている。
よく見ればその中には、シェリルの姿もあった。
皆、湯浴みのおかげか、馬車で初めて出会った時よりも綺麗だし、獣耳や尻尾が心なしかふんわりしている。
あと、表情も少し明るくなっているみたい。
恐らく、宿舎の待遇を見て、想像していたよりも良い環境で安心したのだろう。
大会議室には、メイド達の他にクリスとエマ。それにダイナスやクロス、ルーベンスといった騎士達も揃っている。
全体を見回すと、小学校の体育館で、先生たちに引率される生徒のような状況を彷彿させる光景だ。
僕は会議室の奥側、獣人族の皆が見える正面に移動する。
そこにはすでに、クリスやダイナス達がいて、獣人族の皆に大人しくするように指示をしているようだ。
僕は、クリスに話しかける。
「クリス、皆、お待たせ。遅くなってごめんね」
「いえいえ、先程大体集まりましたから問題ないですよ。あとは、あの問題児達だけですね……」
彼女は僕に答えながら、額に手を添えて頭が痛いような仕草を行う。
しかし、その姿を横で見ていたダイナスがニヤリと笑い僕に視線を向けた。
「いやいや、あれぐらい元気な方が鍛えがいもありますよ。リッド様、彼らが手に余る時を私が面倒をみますので、是非お譲り下さい」
「譲るも何も、物じゃないんだから……それに駄目だって言っているでしょ」
僕達が談笑していると、ディアナがクリスの言う問題児の一団を引き連れて大会議室に入室してきた。
大会議室の広さや様子にミアやオヴェリアの一団は陽気な様子を見せるが、その度にディアナに怒られているようだ。
その様子はさながら、ディアナが引率の先生のようにも見える。
彼女達を座らせるとディアナが僕達のところにやってきたが、さすがに疲れた表情を浮かべていた。
「ふぅ……リッド様、お待たせいたしました。彼女達には近いうちにお灸を据えないとダメですね。ミアは少し丸くなりましたが、それ以外の子達はまだまだです……」
「あはは、みたいだね。対応してくれてありがとう、ディアナ」
ディアナの珍しい表情に僕は苦笑しながら答えると、彼女は僕に畏まった様子で一礼する。
すると、横からダイナスが僕に問い掛けた。
「リッド様、全員揃ったようです。そろそろ始めますか」
「うん。そうだね、お願い出来るかな」
僕が頷くと、ダイナスは大きな咳払いをしてから大声を発した。
「騎士団、正面に整列‼」
「はい‼」
彼の声が轟くと、大会議室の端で、獣人の子達を見ていた騎士達が正面に綺麗に整列する。
さながら軍隊のようであり、大会議室の雰囲気はガラッと変わり緊張感と威圧感に包まれた。
騎士達が直立不動の姿勢で整列すると、ダイナスがまた声を轟かす。
「休め‼」
「は‼」
指示された騎士達は直利不動から左足を横に出して足を広げ、後ろで手を組む姿勢となる。
騎士達に指示を出すダイナスは、普段僕に見せるおどけた様子はない。
彼は悠々と整列した騎士達の中心に移動すると、獣人族の子供達に向かって声を轟かせた。
「ここは、マグノリア帝国、バルディア領である。諸君は知っての通り、バルストにて我々によって保護された子供達である。そして、今後はこの地の領民となってもらう。只今よりそのことについて、バルディア領、領主ライナー・バルディア様のご子息、リッド・バルディア様からお言葉を頂く。リッド様、お願い致します」
ダイナスの言葉に、獣人族の皆は驚いた表情を見せたり、少し萎縮している子もいるようだ。
僕は少し緊張しながらダイナスの横に立つ。
彼は視線を僕に向けると、ニヤリと笑いウィンクをしてみせた。
『場は作りましたよ』と言わんばかりである。
僕は思わず吹き出すと、『やれやれ』と首を横に軽く振った。
ダイナスのおかげで緊張がほぐれた僕は、獣人族の皆に見渡して、言葉を発する
「改めて、リッド・バルディアです。皆さん、バルディア領ようこそ」
こうして、獣人族の皆に僕は説明を始めるのであった。
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