第213話 獣人族を導く存在に求められるもの
「いいぜ、教えてやるよ。御託はいい、あんた自身の『力』をあたし達に示してみろよ。そこに並ぶ、騎士やメイド達の力じゃねぇ。リッド様自身の力だ。力なき者に獣人は従わない……なぁ皆、そうだろ‼」
彼女が獣人の皆に問い掛け、扇動するとディアナに問題児と称された子達が一斉に声を上げ始める。
それに続くように他の子達も声を上げ始めた。
ダイナス達やディアナが止めようとするが、僕は首を横に振って制止する。
そして、扇動者のオヴェリアに視線を向けた。
「わかった。なら、僕が君達に『力』を示せば協力してくれるんだね?」
「ああ、獣人に……いや、兎人族のオヴェリアに二言はない。あんたがあたしよりも強ければ、あたしはリッド様に生涯忠誠を誓ってやるぜ。なぁ、ミアもそうだろ」
「な、なんで、あたしに振るんだよ。まぁ、でもそうだな。私達に勝てるなら忠誠を誓ってやってもいいんじゃないか? あの貴族のボンボンが私達に勝てるわけがないけどな」
僕はオヴェリアとミアの言葉に内心で少し驚いた。
ディアナに問題児と称される子達の中心は、オヴェリアとミアだ。
恐らくそれだけの実力もあるのだろう。
そんな彼女達が僕を認めるとなれば、問題児達を含めて獣人の子達はある程度落ち着くはずだ。
もしかして、オヴェリアはそれも見越して僕を挑発しているのだろうか? だとすれば、中々に頭が切れる感じがする。と思ったその時、横に居たダイナスが僕に耳打ちをしてきた。
「リッド様、ディアナを中心にそろそろ我慢の限界が近づいています」
「へ……?」
ダイナスの指摘にハッとして周りを見渡す。
すると、ディアナ、カペラ、ルーベンス、クリスは勿論、騎士達やメイド達が表面上笑みは浮かべているが、獣人の子達の振る舞いに怒り心頭の様子で震えているようだ。
僕は、咳払いをすると獣人達を見据えて微笑んだ。
「わかった。なら、全員参加の模擬戦で『鉢巻戦』をしてみようか」
「は、『鉢巻戦』だと……なんだそれ?」
『鉢巻戦』という言葉に、オヴェリアやミアを含み獣人の子達はきょとんとしている。
『鉢巻戦』はクロスに教えてもらった訓練の一つで、ルールは簡単。
単純に額にしている鉢巻を取った者が勝ちとなる模擬戦だ。
いくら獣人とはいえ、闘いが得意な子ばかりじゃないだろう。
そんな子でも、僕の鉢巻だけを狙うなら出来るはずだ。
それに、逆に言えばそんな子達であれば、僕も鉢巻を取るだけで勝つことが出来る。
僕はそんなルールを説明していく。
「……と、こんな感じかな。まとめると、武器は使用禁止。鉢巻を取られたら負け。魔法は使用可能。それに、鉢巻を取る為の攻撃であれば、ある程度は許容するよ。あと、そうだな……折角だから、僕の鉢巻を獲った子の要望を出来る範囲で聞いてあげようかな」
説明を終えると、獣人の子達は様々な反応しているが『要望を聞く』という僕の言葉で色めきたった。
同時に、オヴェリアが不敵な笑みを浮かべて僕を見据える。
「リッド様……その言葉を忘れるんじゃねえぜ。それと、模擬戦の当たり方はどうすんだ? 各部族から代表を出すのか、順番に各部族と総当たりにするのか」
「ん? そんなまどろっこしいことしないよ。さっき言ったでしょ。『全員参加の模擬戦』だってさ。君達、全員を一度に、僕一人で相手してあげるって言っているんだよ」
「な、なんだと⁉」
僕の答えが意外だったのか、彼女は驚愕した面持ちを見せた。
先程、色めきあっていた獣人の子達も驚いている子が多い。
どよめきが起きる中、シェリルが挙手をしてその場で立ち上がる。
「私は……狼人族のシェリルです。リッド様、失礼ながら申し上げます。それはいくら何でも、私達を見くびり過ぎではありませんか? 私達は、子供とは言え獣人です。人族の子供とは違います」
恐らく彼女は、僕を心配して言葉を選んで言ってくれているのだろう。
でも、見くびっているわけじゃない。
ここに居る子達の魔力はすでに『魔力測定』を行い、―大体の魔力量を把握している。
その上で、ここにいる皆には勝てる算段は付いているというわけだ。
僕はシェリルの問いかけに不敵な笑みを浮かべて見せた。
「ご忠告ありがとう。でも、さっきオヴェリアが言ったでしょ? 僕が勝てば彼女は『生涯忠誠を誓う』ってさ。だから、僕もそれ相応の覚悟を示すだけだよ。兎人族の君に二言はないんでしょ? オヴェリア?」
シェリルに答えると、僕は視線をオヴェリアに向けて挑発するようにニコリと微笑んだ。
「……⁉ ふふ、あははは‼ その通りだ。その意気こそ、獣人を導く存在に求められるものだぜ」
「決まりだね。じゃあ、鉢巻戦は会場の準備に加えて、君達も体調を万全にして欲しいから三日後に開催しよう。ただ、その間も君達には、宿舎での生活規則と食事のマナーはメイド達から学んでもらうよ。ここでの生活には最低限必要になることだからね」
こうして僕と獣人達の皆で三日後に『鉢巻戦』が開催されることになるのであった。
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