第209話 鳥人族の少女

「お兄ちゃん、みぃーつけた‼」


突然、鳥人族の少女が大きな声を医務室に響かせた。


彼女は嬉々とした表情を浮かべながら、勢いよく僕に向かって飛んでくる。


そのまま抱きついてきたことに僕は少し驚くが、すぐに馬車の荷台で魔法を放った子だとわかった。


しかし、抱きついて来た時の衝撃が意外に強くて、思わず後ろに倒れそうになる。


だが、そんな僕をカペラがそっと支えてくれた。


「ありがとう、カペラ」


「いえ、問題ありません」


「えへへ、やっぱり優しい瞳をしたお兄ちゃんだぁ」


鳥人族の少女は僕に抱きつきながら顔をスリスリしてくる。


鳥人族だけど、ちょっと猫っぽい。


僕は彼女の肩に両手を添えて少し離すと、メルを叱るように優しく諭す。


「えっと、確かアリアだったね。医務室……というか建物の中で飛んじゃ駄目だよ」


「えぇえ……それじゃあつまんないよ」


アリアは僕の言葉を聞くと、そっぽを向いて口を尖らせた。


メルを彷彿させる彼女の言動に、僕は思わず微笑する。


「ふふ、でも、他の人にも迷惑がかかるからね。それに、アリアには妹達がいるんでしょ? 皆がお姉ちゃんの真似したら、僕達はアリアを怒らないといけなくなっちゃうよ」


「えぇ⁉ じゃあ、お兄ちゃんも怒るの……?」


「そうだね。アリアが言う事を聞いてくれないなら、怒らないといけないかも知れないね」


優しく答えると、彼女は口を尖らせながらシュンとする。


それから少しの間を置いてから、僕の目を少し怯えたように見つめた。


「お兄ちゃんも……他の人もやっぱり怒ったら私達に酷い事するの?」


「え? そんなことは絶対にしないよ。その、君の言う『酷い事』についてはまた今度聞かせて欲しいけど、少なからずここでは悪い事をしたら言葉で叱るぐらいだと思うよ」


彼女は僕の答えを聞くと、顔がパァっと明るくなり可愛らしく微笑んだ。


「そうなんだ……ふふ、わかった。じゃあ、お兄ちゃんの言う事聞くから頭撫でて‼」


「う、うん。わかった」


少し戸惑いつつも僕は、アリアの言う通り彼女の頭を、メルにするように優しく撫でる。


すると彼女は、安堵したように顔を綻ばせた。


「お兄ちゃん、本当に優しいんだね。えへへ、皆が起きたら教えてあげようっと」


「あ、そうだ。君と妹達のことも今度、教えてもらっても良いかな?」


「うん。妹達が目を覚ましたら、お兄ちゃんに紹介するね」


僕はニコリと微笑んで彼女の答えに頷く。


「ありがとう。アリアの妹達とも話せるのを楽しみにしているね。ところで、ご飯は食べた?」


「ううん。皆、起きた時に私がいないと不安になると思うの。だから、皆が起きるまでは私はここにいるつもり」


彼女は首を小さく横に振ると、妹達を思う強い意思を目に宿してから答えた。


アリアは、明るく無邪気な表情をしていたけど、妹達の事になると一転して顔つきが少し真面目なものに変わる。


その時、『パチッ』と静電気が弾けるような音が聞こえた気がした。


「ん……今、何か聞こえなかった?」


「いえ、私は特には聞こえませんでしたが……」


「私も、特に何も聞こえませんでしたよ」


音が聞こえた後、傍に居たカペラとサンドラに尋ねてみるが、二人共きょとんとした顔を浮かべている。


どうやら特に何も聞こえなかったらしい。


僕の気のせいか。と思い、アリアに視線を戻すと何やら彼女は満面の笑みを浮かべている。


「えへへ、やっぱり思った通りお兄ちゃんは、私達と一緒なんだね」


彼女はそういうと、僕に顔を近づけてそっと耳打ちをする。


「……その音の秘密も今度教えてあげるね」


「う、うん。わかった楽しみにしておくよ」


少し戸惑いながらも笑みを浮かべて僕が頷くと、彼女はまた嬉しそうに笑みを溢している。


しかし、音の秘密とはなんだろうか? と僕は、彼女の笑みを見ながらきょとんと首を傾げるのであった。






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※表紙のイラストを見て頂ければ物語がより楽しめますので、是非一度はご覧頂ければ幸いです。


近況ノート

タイトル:書籍化のお知らせ&表紙と情報の公開!!

https://kakuyomu.jp/users/MIZUNA0432/news/16817139557186641164


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