第204話 狐人族と鳥人族の子供達
狐人族の子供達は、恐らく貧困による栄養失調が多かれ少なかれ見られると言う。
その結果、簡単な風邪でも重症化しやすい状況らしい。
実際、すでに数人はその初期症状ともみられるものがあるそうだ。
「狐人族の子達がリッド様に拾われたのは、幸運だったかも知れません。通常、奴隷落ちした者達にここまでの待遇をすることなんてありえません。可哀想な話、ここに来なければ亡くなった者も大勢いたでしょうな」
ビジーカは特に感情を込める事もなく、獣人族の子供達の状況を淡々と事実を説明してくれた。
奴隷として売られた子供達、という時点で想像出来ていた事ではある。
でも、目の前で改めて説明されると僕には胸に刺さるものを感じた。
経緯はともかく、彼らはここにやってきたのだから出来る限りの事をしてあげたい。
彼の説明を聞き、おもむろに答える。
「そうか……でも、ビジーカの治療で皆助かるんだよね……いや、必ず助けて欲しい。彼らはこれからのバルディア領に必要な人材なんだ」
僕は言葉を紡ぐと同時に、彼を力強い面持ちで凄みをもって見据えた。
彼は僕の表情の変化を見て、ニヤリと笑みを浮かべる。
「勿論です。彼らを助ける為に私はここにいるのです。必ず、子供達皆を元気にしてみせますよ。まぁ、流石に個人差はあると思いますがね」
「ありがとう、ビジーカ。狐人族の子供達の治療をお願いね」
「畏まりました。しかし、なんですな。奴隷の子供達にここまでの事をするとは……私も変わっていると良く言われますが、リッド様はサンドラの言う通り随分と型破りですな。失礼ながら、親近感を感じます」
(サンドラめ、余計なことを……)
ビジーカに型破りと言われて僕は心の中で悪態と付いた。
親近感が感じると言われたことは嬉しい。
ただ、目の前にいるビジーカの姿を見ると、何とも言えない気分になってしまい思わず苦笑する。
「あはは……、褒め言葉として受け取っておくよ。あ、それと鳥人族の女の子達はどうだった? 受け入れの時に大分混乱していたから、気になってはいたんだけど」
僕の問いかけに初めてビジーカの表情が少し重くなった。
何やら話して良いか悩んでいるようにも感じる。
それを察したのか、サンドラが彼に声を掛けた。
「ビジーカさん、リッド様なら大丈夫です。すべて、お伝え願います」
「……わかった。では、今回の受け入れにおいて、鳥人族の姉妹達と狼人族の男の子が問題となりましょう。まず、リッド様からご質問のあった鳥人族についてご説明致します」
「うん、わかった」
サンドラの言葉で、ビジーカは真剣な顔つきで僕を見据えている。僕はそれに答えるように頷くと、彼は説明を始めた。
まず、鳥人族の少女達は沢山の姉妹がおり、そのうち十六人がやってきたらしい。
アリアが意識を少し取り戻した時、ビジーカが尋ねたところ、『父親』は同じだが『母親』は違うという。
つまり、異母姉妹であるということだ。
ビジーカは説明しながら険しい面持ちを浮かべている。
「強化血統については聞いた事はありましたが、間近で見たのは初めてです。彼女達の容姿が異母姉妹にも関わらず似ているということは、恐らく母親達も皆、強化血統の血筋なのでしょう」
「ここにいる鳥人族の十六人は皆姉妹、そして父親は同じだけど母親が違うか……より強い子供を求めた結果なんだろうけど、聞いていてあまり気分の良い話じゃないね」
説明を聞いた僕は、思わず嫌悪感を顔に出しながら答えた。
言っている事は理解できるが、想像すると嫌な感じがする。
恐らく、母親が大量にいるのは貴族や王族が国の繋がりや、後継者の為に抱えるような『側室』などの考えではない。
強化血統を用いて、強い子供が生まれる可能性を上げる為に数を増やす。
言ってしまえば『量産する為の手段』としてなのだろう。
それなのに、この子達は売られてここにいるのだ。
子供の、いや人の命をなんだと思っているのだろうか。
憤りを感じていると、ビジーカが頷きながら説明を続ける。
「そうですな。恐らくこの子達は、強化血統において親達から『失敗作』とみなされて、口減らしで奴隷に売られたというところでしょう。ですが、見る限りは他の子供達と変わりありません。まずはしっかりと栄養を取って、体力を付ければ問題はないと存じます」
「うん、わかった。彼女達を必ず守るって約束したんだ。だから、大変だと思うけど彼女達に出来る限り、寄り添ってあげてほしい」
僕は彼の頷くと、アリアを通して彼女達と交わした約束を伝えた。
すると、彼はニコリと微笑む。
「承知しました。彼女達が、大空を自由に飛べるように尽力致します」
ビジーカは答えた後、僕に一礼する。
僕は彼に「ありがとう。よろしくね」と謝意を伝えた。
彼は、謝意を受けて少し照れたような表情を浮かべている。
しかし、すぐにビジーカは何やら真剣は顔つきに戻った。
「では、リッド様、最後に狼人族の少年についてなのですが、こちらについてはサンドラからお伝えさせて頂くべきかと存じます」
「え、なんで?」
予想外の言葉に僕はきょとんとなる。
その間に、ビジーカが席を立つと、空いた場所にサンドラが席に着く。
そして、今まで見た事の無い真剣な面持ちを、彼女は浮かべていた。
「リッド様、狼人族の少年はナナリー様と同じ『魔力枯渇症』と思われます」
「え……?」
サンドラの口から出た病名に、僕は茫然となってしまうのであった。
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