第203話 宿舎・医務室にて②
医務室で治療にあたってくれている医者の『ビジーカ・ブックデン』は、サンドラに名前を呼ばれて、診ていた子供が落ち着いたようでこちらにやってきた。
そして、何やら怒った様子で彼女を睨みつける。
「おい、サンドラ。患者が寝ている医務室で、でっかい声を出すな。ようやく一息ついて眠り込んだ子もいるんだぞ」
「あ、はい。ごめんなさい、ビジーカさん」
彼女はビジーカのとげとげしい剣幕に押されて、素直に謝った。
サンドラの普段とは違う感じにも驚くが、それ以上にビジーカの姿は間近で見ると印象的だ。
彼は小柄で身長にすると一五〇も無いのではないだろうか。
体も細いのでより小柄に見える。
そんな、小柄な彼が頭につけている……いや被っているという表現が合っているかもしれないが、額帯鏡がともかくでかい。
いや、正確には額帯鏡自体は普通の大きさなんだけど、彼が頭に被っている額帯鏡が付いた医療器具の一種なのだろうか? それがともかくデカい。
しかも、それには子供が喜びそうな玩具が付いていたり、ぶら下がったりしている。
彼の体格と頭に被っている医療器具の大きさが、あまりにアンバランスな不釣り合いで独特の雰囲気を醸し出していた。
失礼ながら間近で、ビジーカの姿を凝視していると彼が僕の視線に気付いたようで苦笑する。
「はは、恥ずかしながら、これは私が子供を見る時に必ずつけている独自の医療器具なんです。喉や鼻を見る時に子供が嫌がる事が多いんですよ。どうしたら良いかと考えた結果、これに至りました。これを付けていると、子供達が自ら口を開けてぼんやりしてくれるので治療しやすいんです」
「そ、そうなんだ。それは良い考えだね」
いや、それはそうだろう。と突っ込みたくなるが堪えた。
そしから僕は、咳払いをして彼を見据える。
「改めまして、リッド・バルディアです。よろしくお願いします」
「失礼しました。ビジーカ・ブックデンです。サンドラに呼ばれて参りました。それにしても、好きなように研究費を使って良いとは、いやリッド様は豪気な方ですな」
うん? 何やら恐ろしい言葉をビジーカは口にした気がする、僕はギロリとサンドラを睨む。
彼女は顔を逸らして冷や汗を掻いている。
これは、後でたっぷりと話を聞く必要がありそうだ。
ビジーカは、僕達のやり取りで何か察したのか苦笑する。
「ご安心下さい。サンドラの言葉を真に受けてはおりませんよ。リッド様の母上や、その他新しい治療方法などの研究費が必要な時だけ申請いたします」
「そうなの、それなら安心……なのかな? あ、でもビジーカも母上の治療に協力してくれているんだね」
僕は、ビジーカの答えに訝しげに頷くと、そのまま視線をサンドラに移す。
彼女は逸らしていた顔を僕に向けると、少し決まりが悪そうな表情を浮かべた。
「は、はい。魔力枯渇症についての治療は私がしていますが、それ以外の部分は以前からビジーカさんに相談はしていたんです。今は通常の治療も平行していますから、とても参考になっていますよ」
話を聞き終えると僕は、ビジーカに視線を戻して彼の手を取った。
「知らずに申し訳ありません。ビジーカ、母上の件。これからもよろしくお願いします」
「ええ、お任せください。といっても、魔力枯渇症は私の分野外なのでサンドラの補助しかできませんがね。精一杯、彼女の補助をやらせて頂きます」
彼は答えると、僕の手を力強く握り返してくれた。
頭に被っている医療器具の威圧感が凄いけど、サンドラが頼る様子からも良い人なのだろう。
その時、後ろに控えていたカペラがそっと呟いた。
「リッド様、そろそろ本題に進んだほうよろしいかと存じます」
「あ、そうだね。それでビジーカ、運ばれた獣人族の子供達の健康状態を聞いてもいいかな」
「畏まりました。では、こちらにどうぞ」
そういうと、彼はニヤリと笑い医務室の中にある簡易的なソファーと机の場所に移動して、説明を始めた。
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