第201話 宿舎にて③
「うんぎゃあああ⁉ 尻尾が擦れるから、だから引っ張るなぁああ…………‼」
ディアナに強制的に猫人族のミアは連れて行かれた。
一連のやりとりと、引きずられるミアの姿を目の当たりした他の獣人族の少女達は、顔を引きつらせている。
僕は咳払いをしてから、視線を少女達に移すとニコリと微笑んだ。
「えーと、他にあんな感じで運ばれたい子はいるかな?」
少女達は僕の言葉を聞いて首を横に勢いよく振っている。
うん、ディアナの抑止力は抜群に聞いたようだ。
だけど、まだ数人は鋭い目で僕を睨んでいる。
その中の一人、ミアと同じ猫人族の少女が口を開いた。
「おい……湯浴みさせて何させるつもりだよ」
悪態を付く少女に対して、控えていたカペラが無表情で僕の前に出ようとしたので制止する。
カペラが本気になると、恐らくディアナ以上の威圧感が出る気がしたからだ。
僕は、猫人族の少女にニコリと笑みを見せた。
「そうだね。湯浴みした後は、綺麗な服に着替えてもらう。それから、健康状態の確認を行って、問題が無ければ暖かい食事を用意しているよ。だから、早くしないと食べ損なっちゃうかもよ?」
『暖かい食事』という言葉に、少女達の顔が色めき立った。
僕に悪態を付いている猫人族の少女も例に及ばず目を輝かせている。
「暖かい食事……飯がもらえるのか⁉」
「うん。結構な量を用意しているから皆食べられると思うけどね」
「それならそうと先に言えよ‼ 湯浴みでも何でも早くしてくれ‼」
その後、少女達はディアナの抑止力と暖かい食事という言葉で大人しくなり、メイド達の言う事に素直に従ってくれたようだ。
色んな種族の少女達が連れて行かれる中、兎人族の少女が二人だけこちらを見ている。
一人はオヴェリアだけど、もう一人は知らない。
その時、僕の視線に気付いたオヴェリアは目を輝かせながら話かけて来た。
「なぁ、さっきのメイドみたいあんた……いや、えーと、リッド様も強いのか?」
彼女の予想通りというか、発した言葉に僕は思わず苦笑する。
すると、オヴェリアの隣にいる兎人族の少女が呆れ顔を浮かべてオヴェリアに注意を促した。
「また始まった……やめなよ、オヴェリア。ミアみたいに引きずられたいの」
「いいじゃねぇか、アルマ。聞くだけだから、問題ねぇよ。なぁ、それより、どうなんだ」
そうか、彼女は『アルマ』というのか。二人の様子から、恐らく以前からの知り合いなのだろう。
それにしてもどう答えたものかな。僕は少し思案してから呟いた。
「僕は、ディアナにはまだ勝てたことは無いね。でも、日々勝てるように彼女とも訓練しているよ」
「……⁉ あは、そいつは良いね。楽しみにしておくよ、リッド様」
オヴェリアは僕の答えに満足したようにニヤリと笑みを浮かべるが、アルマはその姿にため息を吐いた。
そして、彼女達もメイドに連れられて湯浴みに向かって歩き始める。
それから間もなく、宿舎の前に集められていた少女達は全員、メイドに連れられて湯浴みに移動した。
「……それにしても、まさか湯浴みを嫌がられるなんて思ってなかったよ」
「ここに来た子供達は、ほとんどが孤児でスラムなどから来たと思われます。今後も様々な問題発生やマナー教育なども必要になると存じます」
僕の呟きにカペラが心配そうな雰囲気を出しつつ、無表情で淡々と答えてくれる。
「うん、そうだね。でも、それも覚悟の上さ。母上の病を治す為、バルディア領の発展の為、通らないといけない道でもあるからね」
そう、すべては覚悟の上でしていることだ。
だから、彼女達の悪態や起こす問題も想定内だし、気にもしていない。
まぁ、あの元気な感じと口の悪さの面白さは想像以上だったけどね。
その時、今回の獣人族達の中でも重要となる存在の子供達の事を思い出して、まず彼らがいる場所に向かう事にした。
「さて、まず狐人族と鳥人族の子達が運ばれた医務室の様子を見に行こうか」
「承知致しました」
ミア達の事をディアナに任せた僕達は、宿舎の中にある医務室に向かって足を進めて行くのであった。
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