第177話 エレンとの打ち合わせ
今日の僕は、ディアナと一緒にエレンとアレックスの工房に出向いている。
彼等の工房のドアを開けると僕は、作業場にも聞こえるように大きな声で叫んだ。
「エレン、アレックス、今大丈夫かな⁉」
「リッド様ですか⁉ 今すぐ行きますから……少しお待ちください‼」
エレンの声ですぐに返事があった後、奥の工房から慌ただしくエレンが作業服を来て出て来た。
彼女の顔には先程までの作業によるものと思われるスス汚れが付いていている。
「ごめん、忙しい所に来ちゃったみたいだね」
「いえいえ、お気になさらず。それに、近々来るってお手紙も頂いておりましたから。それで、今日はどうされたんですか?」
「うん、実はね……」
僕はエレンに、獣人の子供の奴隷達を一五〇名程度購入して受け入れる予定であること。
その為に『属性素質鑑定機の改良』を確認をしたいということ。
あと、サンドラ達とエレン達にお願いしていた『アレ』の開発の進捗状況を知りたいと話した。
エレンは受け入れる奴隷の数に驚きの表情を浮かべたが、同時に目を輝かせている気がする。
僕が話し終えると、エレンは珍しく『キッ』と目力に力を入れると、力一杯に声を発した。
「リッド様、どうかお願いします‼ 人手を……人手を増やしてください‼」
「あ……うん、そうだよね。サンドラから少し聞いたよ。人手が足りてない件は申し訳ない。だから、奴隷の子達が来る前に少し打ち合わせをしたかった部分もあるんだ」
エレンは僕の言葉を聞くと、嬉しそうに目をかがやせながら身を乗り出して要望を口にした。
「本当ですか⁉ 獣人族ですよね……それでしたら、『狐人族』と『猿人族』は絶対に欲しいです‼ あとは、力要因で『牛人族』や『熊人族』とかも良いですね‼ あ、でも、最優先は『狐人族』でお願いします。あと……もし許されるなら購入した奴隷で『狐人族』がいたら全部欲しいです‼」
あまり見ないエレンの凄い剣幕に、僕は驚きながら少し顔を引きつらせている。
しかし、ドワーフのエレンがここまで『狐人族』を欲しがるなんて思わなかった。
そんなに、凄い人材になのだろうか? 僕はエレンの様子にたじろぎながら、確認するように訊ねた。
「……エレンがそんなに欲しがる人材の『狐人族』ってそんなに凄いの?」
エレンは僕の言葉が予想外だったのか、一瞬きょとんとするがすぐに満面の笑みを浮かべて高らかに言った。
「あれぇ? リッド様ともあろうお方が『狐人族』についてご存じでない? ならば、僕がお教えいたしましょう‼ 『狐人族』と言えば、僕達に勝るとも劣らない、生まれつき武具作成の才能の塊なんです‼」
「そ、そうなんだ……」
その後、エレンは『狐人族』について僕に楽しそうに語った。
何でも、ドワーフの国、ガルドランドにおいても、『狐人族』の武具は認められているらしい。
エレンやアレックスも最初は人伝に聞いていて、半信半疑だったが実際に『狐人族』が製作した武具を見て、その評価が正しい事を認識したそうだ。
その製作技術は、ドワーフとはまた違った考え方や目線で作られており、エレンとアレックスはとても触発されたらしい。
国を出て、実際に『狐人族』の職人に会うこともあったそうで、その職人技にはエレンとアレックスも舌を巻いたということだ。
僕はエレンの話を興味深く聞き終えると、感心した表情でエレンに返事をする。
「なるほどね……でも、『狐人族』が来たとしても、年齢があまり僕と変わらないと思うよ? そうなると、流石に技術とか学ぶ前だと思うし、即戦力は難しいと思うけど大丈夫なの?」
エレンがいくら欲しがる人材とはいえ、奴隷として売られる狐人族の子供達に技術があるとは残念ながら思えない。
でも、僕の言葉にエレンは口元に人差し指を当て、左右に振りながらどや顔をみせた。
「ノンノンノン‼ その考え方はノンですよ‼ 製作に重要なのは『素材』と『閃き』と『地道な努力』です。言うなれば、狐人族という『素材』を僕好み……ではなく、立派な職人に『地道な努力』と『閃き』でしてみせますから、ご心配には及びません‼ なので、どうか『狐人族』を出来る限り僕に回してください‼」
エレンは言い終えると、僕に近寄り、両手を力強く握った。
そして、熱く、切実な眼差しで僕を見つめている。
僕は、彼女のあまりに必死な様子に思わず顔を引きつらせていた。
「わ、わかったよ。『狐人族』がどれぐらい来るかわからないけど、出来る限りエレン達の補佐に就くようにしてみるよ」
「ありがとうございます‼ いやぁ……流石はリッド様ですね。話が早くて助かります。このままだと、僕もアレックスも手が回らなくて困っていたんですよ。『狐人族』の弟子達が来るのを楽しみにしていますね‼」
僕の返事を聞いたエレンは握っていた僕の手を離すと、とても嬉しそう自身の両頬に手を充てて、ご満悦な表情だ。
というか、彼女の中では『狐人族』が弟子になるということが確定しているらしく、ウットリとしている。
その時、ふとエレンの言っていた『猿人族』の事を思い出した。
「そういえば、最初に『猿人族』も欲しいっていったけど、彼等も制作が得意なの?」
彼女の僕の言葉にハッとすると、他の獣人部族についても少し教えてくれた。
「あ、そうでしたね。『猿人族』は制作というよりも『細かい細工』が得意なんですよ。だから、装飾や、細かい部品の制作作業なんかをお願いしたいなと思っています。あと結構、工房作業には力がいるので『牛人族』や『熊人族』の力があると助かるなって感じですね」
「そういうことね。わかった。その辺も、出来る限りエレン達の要望に応えられるように頑張るよ」
「本当ですか⁉ ありがとうございます‼ いやぁ、楽しみだなぁ……」
エレンは、工房にやってくる獣人族の子達にとても楽しみにして、浮かれたような表情をしている。
その時、僕とエレンのやりとりを横で見ていたディアナが咳払いをした。
「コホン……リッド様、差し出がましいようですが、そろそろ別件についても話をされてはどうでしょうか?」
「あ、そっか、そうだね。エレン、人手不足の件はもう少しだけ我慢してね。それで、最初話していた件、『属性素質鑑定機の改良』と『木炭車開発』の件はどんな感じかな?」
僕の問いかけに、エレンにニヤリと自信ありげに不敵な笑みを浮かべた。
そんな様子に、僕は大きな期待を抱きながら彼女の言葉を待つのであった。
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