第178話 属性素質調べる君
「ふふ……ではまず、僕とアレックスが作成した、『属性素質調べる君』の改良についてご報告します」
相変わらずエレンの発明品の名前は独特だなぁ、と思いながら僕は頷いた。
「うん、お願い」
「では、結論から申しますと……なんと、この『調べる君』に手をかざすだけ、かざした当人の属性素質も応じて色が反応出来るようになりました‼」
「おお、凄い‼ やったね‼ ありがとう、エレン‼」
「いやぁ、大変でしたよ。サンドラさんを中心に研究員の人達とああでもない、こうでもないってひたすら挑戦と調整でした。でも、凄く楽しかったです‼」
エレンは達成感に満ちた表情で楽し気に語ってくれた。
属性素質鑑定機に関しては、サンドラと研究員の皆にも協力をしてもらっている。
以前、サンドラも言っていたけど、この鑑定機の有無は今後の魔法教育には欠かせない重要な装置だ。
これが、奴隷の子達が来るまでに完成して本当に良かった。
僕が安堵した表情を浮かべて胸を撫でおろしていると、エレンが不思議そうな顔をしている。
「ところで、リッド様この『調べる君』はどういう風に使うおつもりなんですか? 持っている属性素質が分れば、魔法の修練には役に立つと思いますけど……」
エレンの問いかけの内容はディアナも気になっていたのか、追随するように僕に視線を送って来た。
「リッド様、私も宜しければ一度、詳しく伺いたいです」
「そうだね……じゃあ、折角だからアレックスも呼んで少し話そうか」
「わかりました。では、私はアレックスを呼んできますね」
僕の言葉を聞き終えたエレンは、返事をするとそのままアレックスを呼びに工房の奥に入って行く。
それから間もなく、アレックスがエレンに引きつられてやってきた。
アレックスは僕を見ると、ペコリと頭を下げる。
「リッド様、すみません。ちょっと、難しい作業をしておりましたのでご挨拶が遅くなりました」
「いやいや、こちらこそ急にお邪魔してしまってごめんね」
アレックスに僕が返事をした後、エレンが彼に先程まで話していた獣人族の子達を手配するという件を嬉しそうに説明する。
話を聞いたアレックスは、エレン同様に興奮した様子で満面の笑みを浮かべると、彼女同様のお願いを僕にしてきた。
その様子に僕は『姉弟らしいなぁ』と微笑むのだった。
それから、簡単にエレンとした話を伝えるとアレックスには納得して嬉しそうな顔を見せる。
「助かります、リッド様。姉さんの言う通り、人手不足はかなり深刻だったので……でも、逆に言えば人手不足が解消出来ればもっと色んな事も出来ると思います。そこは、お約束致します」
「うん、ありがとう。僕も、対応が遅くなってしまってごめんね」
僕とアレックスが話し終えると、エレンが話しかけてきた。
「リッド様、それはそうと『調べる君』で何をするかのお話ですけど、よければ奥の部屋で話しませんか?」
「そうだね。じゃあ、案内してもらえるかな」
「はい、こちらです」
エレンに案内されて、彼女達が打ち合わせに使っているという部屋に案内してもらう。
案内された部屋は机と椅子があるだけの質素な感じだけど、手入れはされて清潔感のある部屋だった。
エレンに促されるままに、僕とディアナが椅子に腰かける、彼女達も椅子に座る。
だけど、すぐにアレックスがハッとして、口を開いた。
「あ、すみません。何か飲み物を用意しますね」
「ありがとう、でも、大丈夫だから、気にしないでいいよ」
アレックスは言いながら席を立とうするが、僕はそれを制止して話を続ける。
「それよりも、『属性素質鑑定機』で僕が何をしたいのか話をするね。それはね……」
僕が説明を始めると立ちかけていたアレックスは椅子に座り、エレンと二人で興味津々な目で身を乗り出す。
隣に座っているディアナも顔には出さないが、とても興味深そうな目をしている。
そんな、三人に僕がこれからやろうとしている事を話し始めた。
属性素質鑑定機はサンドラ達と作った『魔法の教育課程』に必要不可欠だ。
まず、属性素質鑑定機の使い道としては今度、バルディア領にやってくる奴隷の子達全員の属性素質を調べるのに使用する。
そして、属性素質が個人差なのか? 獣人族で言う所の部族によって偏りがあるのかを調べる予定だ。
奴隷の子達の属性素質鑑定結果に応じて彼らに覚えてもらう魔法や、してもらう仕事が当然変わって来る。
後は、属性素質についてもこの機に色々見えて来るものがあるはずだ。
実は、バルディア領に昔から住んでいる人達は『火の属性素質』を持っている事が非常に多い。
だが、違う貴族の領地においては『火の属性素質』を持つ事が珍しい場合もあるらしい。
この点については、サンドラ達が以前から調べたかった部分でもあるとうことだ。
そして、結果的だが獣人族の各部族の『属性素質』を調べる機会に恵まれた。
一般的に、『属性素質』は親が持っている素質を子供が受け継ぐと言われているが、明確な裏付けはないらしい。
だが、今回の調査結果は『属性素質』が基本的に親から受け継ぐ可能性が高いことの裏付けとなる可能性もある。
どの種族においても『属性素質』がどのように決まるのか?
親から子にどのように受け継がれるのか?
これらも、魔法を一般的に普及させる為に、今すぐには無理でも少しずつ解明していく必要がある問題だと思う。
僕は魔法の今後の可能性も含めて、つい熱が入ってしまった。
ふと気が付くと皆は、僕の説明に驚いた様子で唖然とした表情を浮かべている。
「あ……ごめん、熱く語り過ぎたね。と、ともかく、今の話からわかるように『属性素質鑑定機』は人と魔法の未来を大きく、前進させる凄い開発なんだ。もしかすると、エレンとアレックスの名前が開発者として後世に残るかもよ」
エレンとアレックスは僕の言葉にきょとんとして、二人で顔を見合せると笑みを浮かべた。
「ふふ……僕達が開発者で後世に名を残す……ですか? あはは、それはさすがにないですよ。リッド様もご冗談が過ぎます」
「姉さんの言う通りです。それに、開発の指示したのはリッド様ですよ? もし、名前が後世に残るならリッド様ですよ」
二人の言葉に、僕は困ったような表情を浮かべて返事をした。
「僕は後世に名前を残したいなんて思ってないし、そんなことは全力で拒否するよ……けど、二人がした開発は『属性素質鑑定機』はそれだけ凄い可能性を秘めているってことだよ」
僕は再度、エレンとアレックスに凄さを伝えるが二人は「そんなことないですよ」と言ってずっと楽し気に笑っている。
僕はそんな二人に呆れた表情を浮かべるが、ふと言い忘れていた事を思い出した。
「あ……そうだ。属性素質鑑定機だけどサンドラ達も研究用に欲しいって言っているよ。それに、一台だけじゃ心許ないから……奴隷の子達が来るまでの一ヶ月以内に、この属性素質鑑定機を可能な限り『量産』しておいてね」
「え……? えぇええええ‼ 一ヶ月以内ですか⁉」
二人は僕の言葉に驚愕の表情を浮かべている。
そんな二人に、僕は満面の笑みを浮かべながら話を続けた。
「ふふ……『属性素質鑑定機』が量産の暁には、あっと言う間に魔法の研究も進むと思うから……よろしくね」
僕の笑顔と言葉に対して、エレンとアレックスは唖然とした表情を浮かべているのだった。
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