第174話 魔障壁
サンドラは飲んでいた紅茶を机の上に置くと、僕をしみじみと見つめて呟いた。
「しかし……リッド様が武術訓練において『魔障壁』を扱う段階まで進んでいると聞いた時は驚きました。普通はもう少し歳を重ねてから覚える魔法ですからね」
「そうなの? でも、確かに最近はレナルーテの件もあったから武術は頑張っているから、その成果かもね」
レナルーテの件とは『アスナ』のことだ。
年齢差や経験などは当然あるだろうけど、わかっていても負けるのは悔しい。
彼女といつか再戦する機会があれば、勝てるようになりたい。
それに、ノリスやマレインのような利己的な悪意を持った輩と今後また出会うこともある。
いきなり武力によって解決をしようとは思わないけど、必ずしも話が通じる相手と限らない。
その時は、バルディアを守るために覚悟を持って、僕は剣を取り立ち向かわなければならないだろう。
サンドラは僕の言葉に納得した表情で頷くと言葉を続けた。
「なるほど、リッド様が『頑張った』という程なら、さぞ凄い『型破りな訓練』をしているのでしょうねぇ……さすがは『型破りな神童』と言ったところですね」
彼女はおどけながら、楽しそうにからかうように僕に言った。
「……ふふ、サンドラ。僕が何を言っても怒らないと思っているのかな?」
だが、さすがにその言葉にちょっとカチンときた僕は、表情はにこやかなままだが静かな怒りの雰囲気を発する。
サンドラはさすがに言い過ぎたと思ったのか、会釈をすると誤魔化すように話題を変えた。
「し、失礼致しました……‼ そ、それよりもリッド様、早速『魔障壁』の話を致しましょう‼」
「……そうだね」
僕はにこやかな表情だが、静かな怒りは継続中だ。
サンドラにしては珍しく、少し動揺しているが『魔障壁』に関しては丁寧にわかりやすく説明をしてくれた。
サンドラ曰く『魔障壁』とは、その名の通り、『魔力で作った障壁』によって魔法攻撃や物理攻撃を防ぐ事ができるそうだ。
その説明を聞いた瞬間、僕は先程までの怒りを忘れて身を乗り出しながら目を輝かせていた。
『魔障壁』というのはサンドラの説明を聞く限り、前世の記憶で言う所の『バリア』という事である。
でも、確かにサンドラに言われてみると、前世の記憶にある『ときレラ‼』のゲーム内においても敵の攻撃魔法のダメージを抑える補助魔法はいくつか存在していた。
その系列が『魔障壁』という扱いになっているのかもしれない。
サンドラは話しながら時折、僕の顔をチラリと覗き見る。
僕の機嫌が直った様子に、少し安堵した表情を浮かべながらサンドラは説明を続けた。
「ただ、『魔障壁』はどんな攻撃も防げるわけではありません。その仕組みを理解していないと、いざという時に大けがに繋がりますので注意してください」
「なるほど……色々と工夫が必要な感じがするね。それで、その『仕組み』というのはどんなものなの?」
僕の興味津々な様子に、サンドラも楽し気に目を輝かせ始めている。
彼女は眼鏡を懐から取り出して身に着けると『先生モード』になって不敵な笑みを浮かべた。
「では、これから『魔障壁』についてさらに詳しい説明と、実際に行ってみる為に訓練場に行きましょう」
「わかった。じゃあ、書類を整理してから訓練場に向かおうか」
僕はそう言いながら、先程までサンドラとの打ち合わせに使っていた書類をまとめると、応接室の外で待機していたディアナを呼んだ。
「ディアナ、今から僕とサンドラは訓練場に行くから、悪いけど書類を僕の自室の机の上に置いといてもらっていいかな?」
「承知しました」
ディアナは僕から書類を丁寧に受けとると、会釈をしてから応接室を後にする。
僕とサンドラはディアナが部屋を出て行くと、残っていた紅茶を飲み干してから訓練場に向かった。
◇
僕とサンドラは訓練場で黒板のあるお馴染みの部屋にやってきた。
サンドラは部屋に着くなり黒板に早速、色々と書き始めて座学を開始する。
僕もその様子を見ながら、椅子に座り彼女の説明を今か今かと待ちわびた。
黒板にあらかた必要な事を書き終えたらしいサンドラは、眼鏡の中心にあるブリッジを右手の人差し指で軽く「クイ」っと持ち上げると、満面の笑みを浮かべている。
「リッド様、では『魔障壁』について座学をさせて頂きます。座学の後は訓練場で実際にやってみますので、よろしくお願いします」
「わかった。サンドラ、改めて説明をよろしくね」
彼女は僕の言葉に頷くと、黒板に書いた内容から順番にわかりやすく説明を始めてくれた。
「先程、応接室で少し説明をしましたが『魔障壁』は『魔力で術者が意図的に作り出す障壁』です。文字通り魔力で作った障壁なので、魔力で生成された魔法に対しては優れた防御力を持った壁となってくれるわけです」
「つまり、魔法を扱う術者からの攻撃を防ぐ『盾』というわけだね」
サンドラは僕の言葉に頷くと説明を続けた。
「仰る通りです。ですが、魔障壁の素晴らしい所は使用する魔力量次第で耐久度と言いますか、防御力が変わります。使用する魔力量次第ではお伝えした通り、斬撃や飛んでくる弓矢などの物理攻撃も防ぐことができます」
僕はサンドラの話を聞きながら、目を輝かせていた。
説明の内容はまさしく『バリア』だったからだ。
魔力量次第で、相手の攻撃を無力化出来るかもしれない。
使い方に関しても、研究すれば面白い使用方法が見つかりそうだ。
だが、サンドラは曇った表情浮かべると言った。
「ただ……使ってみるとわかるのですが『魔障壁』は発動中にずっと魔力を消費します。おまけに魔力消費量も激しいので、気を付けないとすぐに魔力切れになりかねないんです。かといって、使用する魔力量を少なくし過ぎると、相手の物理攻撃や魔法が『魔障壁』を貫通する場合もあるので注意が必要です」
「貫通か……それは怖いね。ちなみに、貫通される条件って決まっているの」
サンドラは僕の質問に対して、俯いて「うーん……」と唸った後、顔を上げて呟いた。
「そう……ですね。まず、単純に相手の攻撃魔法に使われている魔力が、『魔障壁』を生成した魔力より多い場合が考えられます。後は、持続的に衝撃を受け続けると『魔障壁』の再生が追い付かず、やがては貫通されることもあると聞いています」
「……なるほどね」
僕はサンドラの言葉に頷きながら、魔障壁について考えを巡らせていた。
彼女からの話から察するに、魔障壁に使用する魔力量次第では様々な攻撃を無力化出来る可能性がある。
だけど、魔障壁を生成するのに使った魔力量を、攻撃魔法の魔力量が上回った場合には耐え切れずに貫通してしまう可能性がある。
後は、持続的に魔障壁を攻撃されると障壁が耐え切れなくなって貫通に繋がるということだろう。
だけど、それでも攻撃魔法や物理攻撃を防ぐ事が出来るというのは素晴らしい魔法だ。
これから覚える『魔障壁』という魔法が楽しみで僕はニヤリと笑みを浮かべるながらサンドラに言った。
「ありがとう、サンドラ。大体わかったよ。それじゃあ、早速『魔障壁』を教えてもらってもいいかな?」
「……私もですが、リッド様も本当に魔法が好きですよね。先生をさせて頂いている身としては嬉しい限りです」
彼女は僕の言葉を聞くと、にこやかな笑みを浮かべて嬉しそうに返事をしてくれた。
その後、黒板のある部屋を出て訓練場の広場に移動するとサンドラは僕に『魔障壁』を実践して見せてくれるのだった。
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