第175話 リッドの新たな魔法『魔障壁』

僕はサンドラから『魔障壁』を実際に学ぶ為、訓練場の部屋から広場に移動していた。


「では、私が今から『魔障壁』を実演致します。魔障壁の属性は『無属性』なので魔法を扱う事が出来れば、基本的に誰でも使う事が出来るのも利点ですね」


「無属性か『特殊魔法』とかではないんだね」


『魔障壁』は相手の攻撃魔法や物理攻撃を防ぐ事の出来る、言ってしまえば『バリア』だ。


でも、使用する魔力量が大きいそうなので、乱用は禁物ということらしい。


僕は、サンドラが魔力障壁を見せてくれるという事で、目を輝かせている。


サンドラは目を瞑り、ゆっくり深呼吸をして集中をすると呟いた。


「……では、お見せします。魔障壁‼」


「おお……⁉」


サンドラは魔障壁を発動させたようだが、目の前のサンドラには何も異変はおとずれない。


僕がその様子にきょとんとした表情を浮かべると、サンドラは意味深な笑みを浮かべた。


「ふふ、『魔障壁』はちゃんと発動されていますよ。試しにリッド様、私に触ろうと近づいてみてください」


「え? うん。わかった」


僕は、サンドラに言われた通りに歩いて彼女に近づくと、顔に『何か』がぶつかり思わず声を上げた。


「痛っ‼」


「ね? ちゃんと発動しているでしょ?」


サンドラは僕の反応が面白かったようで、悪戯な笑みを浮かべている。


対する僕は、痛みの走った部分に手を充てながら再度、ぶつかった何かがある場所に手を伸ばした。


すると、ぶつかった場所には確かに壁のような物があるのがわかる。


僕は魔力で作られた壁に直接触れられたことに、先程の痛みも忘れて感動した。


「おお⁉ 触れる……これが魔力で作られた障壁かぁ……」


魔障壁は触ると少し冷たく、そして硬い。


言うなればガラスのようなものだろうか? 魔障壁は正面にだけに発生するのかな? 僕はそう思いながら、魔障壁に手を充てながらサンドラの周りを歩いてみた。


その様子にサンドラが怪訝な表情を浮かべている。


「……? リッド様、何をされているのですか?」


「え? 魔障壁がサンドラをどんな形で覆っているのかなと思ってさ。正面だけなのか、球体上なのか、はたまた正面だけなのかなって」


僕は、サンドラに返事をしながら魔障壁の形を手探りで調べてみると、どうやらサンドラを球体で覆っている感じがする。


形の指定などがなければ自然と球体上に魔障壁が生成されるのだろうか? でもそうすると、必要のない範囲まで魔障壁が発生していることになる。


ひょっとして、これが魔力を大量に消費する原因なのかな? などと、考えを巡らせているとサンドラから声を掛けられた。


「リッド様、すみません……そろそろ、解除しても良いですか?」


「あ、そうだね。もう大丈夫だよ。実演、ありがとう」


サンドラは僕の返事に頷くと『魔障壁』を解いた。


その瞬間も僕は、どんな変化があるのだろう? と目を興味に輝かせながら魔障壁に手を充てていた。


彼女が魔障壁を解くと同時に今まで手にとった感触が消えて、僕の手は空を掴むような動きをしている。


「……⁉ 魔障壁は面白いね‼ これが、扱えるようになったら何か色々と試してみたいと思うよ」


サンドラは僕の楽しそうな表情を見ると嬉しそうに微笑むがハッとして顔を引き締めると、彼女は僕に釘を刺すように言った。


「何をお試しになるつもりか想像もつきませんが、その時はちゃんと私の傍でして下さいね。リッド様はやり過ぎる所がありますからね。それに、気を付けないとまたライナー様に叱られますよ……『圧縮魔法』の件みたいに」


「う……わ、わかっているよ」


僕はサンドラの言葉にバツの悪い表情を浮かべた。


レナルーテで以前、怒りで我を忘れて『圧縮魔法』を発動させて大事にしてしまったことがある。


『圧縮魔法』の詳細については、レナルーテからバルディア領に帰って来た後。サンドラと一緒に父上に報告した。


結果的に事後報告になってしまい、父上の額に手を充てながら俯いている姿が印象に残っている。


その際、これから新しい魔法は発見した時点ですぐに父上に報告するようにと、僕とサンドラの二人はきついお叱りを受けた。


なお、その際に父上にも『圧縮魔法』を体験してもらっている。


父上は自身でも発動出来たこと、つまり誰でも仕組みを理解すれば使用可能な事に驚愕していた。


そして、『圧縮魔法』は父上から当分の間、口外禁止。


余程のことがない限り使用禁止のお達しが僕に下されさている。


でも、僕がバレないようにこっそりと、『圧縮魔法』について練習と研究をしている事はサンドラと父上も気付いていない。


サンドラは疑うように、目を細めて僕を見つめてから呆れたように呟いた。


「まぁ、いいでしょう。では、改めて『魔障壁』に発動ついてご説明しますね」


「う、うん。わかった。よろしくね」


僕がサンドラの言葉に頷くと、彼女は『魔障壁』の発動方法について説明を始める。


基本的な発動手順は攻撃魔法と一緒だが、『魔障壁』の場合は『術者自身を魔力で覆い守る壁』を強くイメージする必要があるらしい。


イメージが出来れば、あとは術者に必要な魔力量が備わっていることが重要だという事だ。



「……と、こんな感じですね。『魔障壁』を習う場合、魔法経験者であれば会得は比較的簡単です。重要なのは魔力量ですが……リッド様なら多分すぐに出来ると思いますよ」


「なるほど……じゃあ、早速やってみる‼」


サンドラの説明を聞きながら目を輝かせていた僕は、深呼吸をして集中する。


それから、サンドラが実演してくれた『魔障壁』をしっかりとしたイメージを固めていく。


イメージが固まると、次はそのイメージに魔力を集中させる。


僕は心の中で『イケる‼』と思った瞬間、発動させる魔法の名前を口にした。


「魔障壁‼」


その瞬間、僕の周りを魔力が球体状に覆っていく感覚と、魔力が消費されていく感覚が同時に伝わって来くるのがわかった。


僕の視界は何も変わらないけど、感覚的には発動している実感を得られている。


これが魔障壁か……と思っているとサンドラが微笑みながら話しかけてきた。


「どうですか? 発動出来ました?」


「うん……発動出来たと思う。魔力を消費していく感覚と何かに覆われている感覚があるよ」


サンドラは少し驚いた様子を見せるが、すぐに嬉しそうな笑顔になった。


「さすが、リッド様ですね。術者以外が見る分には、魔障壁が発動できているかどうかがわかりにいのですが、術者には感覚的にしっかりとわかるのも魔障壁の特徴ですね」


「確かに……さっきはサンドラが発動させていた魔障壁は僕が見てもよくわからなかったけど、自分で発動してみるとすぐに発動の有無がわかるね」


僕が問題なく『魔障壁』の発動が出来ている事を確認したサンドラは、楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。


「ふふ……それでは、次の段階として『魔障壁』で実際に私の攻撃魔法を受けてみましょうか」


「……へ?」


彼女の予想外の発言に、僕は呆気にとられた顔をしていた。

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