第147話 次の動き向けて

「……うむ、木炭に間違いないな。良くやった、リッド。これは、我が領地においてとんでもない快挙になるだろう。制作過程や仕組みなどについては出来る限りの間は秘匿事項とする」


「ありがとうございます。父上」


僕は完成した「黒炭」を父上に早速見せて、今後の動きについて相談をしている。


場所はいつも通りというか、屋敷の執務室で机を挟んで向かい合って座っている状態だ。


父上の言葉に謝意を述べると僕は笑みを浮かべながら言った。


「これで、先日の事業計画のお許しは頂けると言う認識で良いでしょうか?」


父上は僕の言葉を予想していたのか、そこまで驚いた様子はないが眉間に皺を寄せながらため息を吐いた。


「はぁ……こうなれば、止める理由もない。だが、奴隷の件に関してはクリスティ商会を通すと言っていたが、慎重に動く必要がある事案だ。奴隷を買う算段がついたら、必ず私に報告と確認をしてから判断をするようにする。これは絶対だ。よいな?」


「はい。かしこまりました」


僕は返事をしながら内心では歓喜してガッツポーズを取っていた。


サンドラやディアナ、カペラにお願いしていた教育課程はまだ完成には至っていない。


けれど、まずは第一歩だ。


父上から了承をもらった僕は父上にニコリと笑みを浮かべると言った。


「では、早速ですが、炭窯近くの土地に宿舎を併設したいのですが、よろしいでしょうか?」


「……それは、奴隷用の宿舎という認識で良いのか?」


父上は僕の言葉になにやら怪訝な表情を浮かべた。


ちゃんと事業計画書にも書いていたのだけどな。


僕は頷きながら返事をした。


「はい。奴隷用になりますが結構な人数が必要になるので、大きめの宿舎を建設したいです。人数で言うなら……200人ぐらいでしょうか?」


「なんだと‼ 200人も奴隷を買うつもりか⁉」


僕の提示した人数に父上の表情は厳格なままだが、驚愕した様子の声を出した。


僕は慌てて付け加えるように言った。


「え、えーと、最終的にはその規模を考えておりますが、少しずつ買っていく予定です。木炭以外にも色々と考えていることがありますから……」


「どちらにしても、200人規模を用意するつもりか……」


父上は言葉を呟くと、額に手を当てながら俯いた。


でも、これから僕がしようと考えている事にはどうしても人手がいる。


それに、奴隷を買った時点では属性素質がどうなるかわからない部分もあるから、一定以上の人数はどうしても必要だ。


僕は改めて必要性を説明すると、父上は僕を見据えるとおもむろに言った。


「わかった……宿舎建設の許可しよう」


「ありがとうございます‼ では早速、こんなこともあろうかと宿舎の設計希望図をお持ちしておりますので、ご確認願います」


「……随分と準備のいいことだ」


父上は僕が差し出した書類を呆れながらも目を通してくれる。


その後、宿舎をどのようにするかについて、二人でしばらく話し合いを続けることになった。


父上と話し合いする中で、改めていつも向き合ってくれる父上に僕は心の中で感謝をしていた。



話し合いの結果、父上は僕がお願いした希望をほぼ承認してくれた。


教育課程を奴隷に施した場合の可能性について、父上は投資のする価値があると認めてくれたのだ。


ただ、渋々と言った感じでの承認だったので、父上は今もかなり渋い顔はしている。


「ふぅ……リッド、承認はするが『資金』のこともちゃんと考えるのだぞ? 奴隷の購入資金に加えて、宿舎の建設費用ともなれば初期投資が相当かかるだろう。資金倒れにならないようにするのだぞ?」


「はい。その点については化粧品関係の利益をすべて回そうと思っております。それから、クリスに事業計画の相談をした時に、父上の許可をもらえれば資金提供してもらえるように話はついております」


僕は父上の言葉を聞き終えると、ニコリと笑みを浮かべて返事した。


父上は僕の笑みを見ても、渋い顔のまま何か呟いた。


「ふぅ……クリスも大変だな……」


僕は父上の言葉が良く聞こえずに、思わず聞き返した。


「え? なんですか父上?」


「いや、何でもない。クリスと打ち合わせをして、問題があれば必ず私に相談をしろ」


何を父上が呟いたのか、気になるところではあったけど特に気にすることではないのだろう。


それよりも僕は父上の言葉に頷きながら、今後のことで考えていたことを父上に思い切って伝えることにした。


「畏まりました。父上、それとは別に相談したいことがあります」


「うん? また、私のあずかり知らぬところで何かやらかしたのか……?」


僕の言葉を聞いた父上は、怪訝な雰囲気を醸し出して眼光鋭く僕を見据えた。


その様子に僕は慌てて首を振りながら否定をしながら言った。


「な、何もしていませんよ。ただ、今後の事を考えて僕が前世の記憶から得た、特殊な知識を持っている事を数名に伝えようと思っております」


「……数名とは誰を考えているのだ?」


父上は表情がいっきに険しくなったが、僕は冷静に誰に伝えるつもりか丁寧に理由も含めて説明した。


今後の動きが成功していけば、僕が持っている知識を活かして出来ることは多義に渡る。


その時に、皆と今より深い連携をしていく為にも、僕が持っている知識について説明をすべきだ。


話を聞き終えた父上は、しばし考え込んでから言った。


「……わかった。ただし、その話をする時には私も立ち会おう。その方が説得力も出るだろうからな」


「畏まりました。では、お伝えした数名を後日、集めますね」


厳格で険しい表情を浮かべたままの父上は僕の返事を聞いて「はぁ……」とため息を吐いて、額に手を当てて俯いた。


僕はそんな父上を心配しながら声をかけた。


「父上、大丈夫ですか? もし、具合が悪いなら症状を伺えればレナルーテのニキークに連絡をして、何か良い薬草でも探してもらいましょうか?」


「……いらん。余計な心配だ。それよりもまだ、話があるのだろう?」


「は、はい。では次の件なのですが……」


父上はおもむろに顔を上げると、何とも言えない迫力を醸し出しながら僕を見据えて返事をした。


その迫力に押された僕は、父上に言われた通り次の議題に切り替えて話しを続けるのだった。

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