第142話 黒炭に向けて、次なる作業

「よし、大体こんなものかな?」


樹の属性魔法を使いドングリからクヌギを一定の間隔である程度、生やした所で僕は一息ついた。


魔法を使っている間、ずっと僕の隣に控えていたディアナが僕の生やしたクヌギを見ながら呆れた様子で呟いた。


「……ただの草原があっという間にクヌギ林に早変わりしましたね」


「そうだね。でも、皆に全部切ってもらって黒炭にするから、切り株しか残らないよ」


僕の言葉を聞いたカペラが、気になることがあったようで僕に尋ねてきた。


「リッド様、伐採した後の切り株はどうされるおつもりですか? そのままにしておくとさすがに、見栄えが悪そうですが?」


「うん? ああ、切り株に『樹木成長』の魔法を発動すればクヌギは、また生えてくるからね。これは、このままにする予定だよ」


「……なんと、凄まじい生産力になりますね」


カペラは驚嘆した様子で呟いた。


そう、クヌギを選んだ理由は実はそこにある。


クヌギは成長も早いので、切り取った後の切り株に「樹木成長」を行えばすぐに再度、木材収穫が可能となるはずだ。


今回はそれも試す予定にしている。


それと、木炭の制作にあたって、エレン達に事前に相談した時に「木の種類」についても指摘があった。


何でも、木の種類によって燃え方などにも違いがあるらしい。


「一般的に使うならクヌギ等の堅木で作れる堅炭、文字通り堅くて火持ちが良い炭なので、お勧めですよ」とエレンとアレックスの二人から教えてもらった。


他にも、いずれ武具製造で一番欲しい炭の「松炭」も作って欲しいと二人から要望をもらっている。


それについては今回の「黒炭」の出来次第かなと伝えたら、二人共やる気満々になったので驚いた。


僕がエレン達との会話を思い返していると、ネルスが恐る恐ると言った様子で僕に話しかけてきた。


「……リッド様、この木を切る前に一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「うん? どうしたの?」


ネルスはどこか不安というか、心配そうな表情をしていた。


どうしたのだろう? 


僕はネルスに対して、不思議そうな顔を浮かべている。


彼はそんな僕の顔を見ながら言葉を続けた。


「いえ、この木はリッド様の魔力を糧に大きくなりました。つまり、そんな木を切るなんてある意味、リッド様の命を刈り取るような気がしまして……まさか、木を傷つけたらリッド様にも被害があるとかないですよね?」


「……そんな話、あるわけないよ」


僕は思いもよらぬ言葉に、力が抜けて呆れた顔をしながら返事をしていた。


彼には申し訳ない表情だったかもしれない。


ネルスは彼なりに心配してくれたのだろう。


恐らく、魔法で急速成長させた樹木を刈り取る作業なんていうことはここにいる誰もしたことがない。


少し、不安になるのはしょうがないのかもしれない。


そう思った時、僕はあることを思いついて笑みを浮かべた。


「……でも、そうだね。初めて行う作業になるから、不安になる気持ちはわかるよ。それなら、ルーベンスにまず一本目を伐採してもらおうよ」


「え……? 私ですか⁉」


ルーベンスはいきなり名前を呼ばれて少し驚いた表情をしていたが、すぐに表情を引き締めると言った。


「わかりました。じゃあ、まず一本目を私が伐採してみますね」


「うん、お願い」


彼は、ネルスが言ったような不安などは何も感じさせずにエレンから「特製の斧」を受け取ると肩に背負うように振りかぶった。


そして、思いっきり斧をクヌギに目掛けて振った。


斧と樹木がぶつかる鈍い音が周りに響いたその時、僕は脇腹を抑えながら悲痛な声を上げた。


「う、うわぁあああああ‼」


「……⁉ リッド様‼ 大丈夫ですか⁉」


「リッド様⁉」


「……え⁉ えぇええ‼」


僕の悲痛な声を聞いたディアナとカペラが血相を変えながら大声を上げた。


エレン達も続けて驚きの声を上げている。


皆の声を聞きながら僕はその場にパタリと倒れるとその様子を見ていた、この場にいる皆は慌てふためいている。


特にルーベンスの表情が真っ青になっており「お、俺はなんてことを……」と顔を両手で覆っているようだ。


僕は皆の様子を見て、「あ、やり過ぎたかも……」と思いながら、即座にスッと立ち上がった。


そして、何事も無かったように、ニコリと可愛らしい笑顔を浮かべた。


「皆さん、冗談です‼ 僕は何ともありませんからご安心下さい‼」


「……」


立ち上がった僕の声を聞いた皆は、目を丸くして唖然としている。


思っていた反応と違ってしまい、僕は戸惑いを隠せずに思わず声が出た。


「あ、あれ……?」


その時、僕の後ろから凄まじいまでの威圧感を感じた。


「ハッ⁉」とした僕が恐る恐る振り返ると、そこに佇んでいたのは、真っ黒なオーラを包まれながら、怒りを隠そうともしていないディアナだった。


僕はその姿を見て慄きながら、たじたじと言葉を口にした。


「ディ、ディアナ、どうしたの? そ、そんなに怖い顔をしなくても、良いんじゃないかな? ただの、冗談だから……ね?」


「リッド様、冗談だとしても、これは悪ふざけが過ぎます‼ ……ライナー様からお許しも頂いておりますから、お目付け役として、この件は諫めさせて頂きます……‼」


「……ご、ごめんなさい」


この後、僕が行った悪ふざけは質が悪すぎると、ディアナを中心にカペラ、ルーベンス、エレン達を含めた皆から激烈に注意されて、叱られた。


ルーベンスに至っては怒りながらも、僕の身を案じて泣き出してしまった。


本当に申し訳がない。


「今後、人の不安などを利用した悪ふざけは、しないよう気を付けよう」


僕は反省して心の中で呟いたが、皆からのお説教はその後もしばらく続いた……

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