第141話 実践、炭窯作り
僕は皆を先導する流れで先日、サンドラに見せた盛土の場所に向かった。
元々、サンドラに見せたあと、問題がなければそのまま使うつもりだったのだよね。
盛土を魔法で作った場所に移動したら皆、目を丸くした。
何の変哲もない草原にいきなり、高さ2メートルの盛土。
明らかな人工物が目の間に現れたからだ。
皆を代表するようにルーベンスが呟いた。
「これ、リッド様が作られたのですか……?」
「うん。魔法でね」
僕の言葉に騎士団の皆が少しざわついたが、気にせずに話を続けた。
「魔法で基礎となる盛土は作れたのだけど、細かい部分まではまだ具体的なイメージが難しくて、魔法では作れなかったんだ。だから、エレン達と僕の知識を組み合わせてこれからは手作業をしないといけなくてね。それで、皆の力を借りたかったの」
「わ、わかりました。我ら、精一杯務めさせて頂きます‼」
「うん、無理しないようによろしくね」
騎士団の皆に汚れてしまうからと、動きやすい服装になるように伝えた。
その後、エレン達に作ってもらったシャベルを渡していく。
それから、僕とエレン達で盛土の上に登って短軸5m、長軸6m程度の楕円のような線を印として書いた。
「じゃあ、大変だけど、この線に沿ってこの盛土を掘ってくれるかな? 線より内側に掘るようお願いね。線の外に出てしまうとうまくいかないかもしれないから」
「わかりました。早速作業に取り掛かります」
ルーベンス達は僕とエレンからの説明を聞くと、作業に取り掛かり始めた。
だけど、皆やる前から大変そうな顔をしている。
何せ、硬く踏みしめられた地面をシャベルだけで掘り起こすのだ。
身体強化を使いながらだとしても、かなりの重労働になると思うから申し訳ない。
その中で、ルーベンスがシャベルを地面に深々と突き刺した時「サクッ」と軽い音がした。
ルーベンス自身も思っていた手応えと違っていたようで「ん?」と首を傾げている。
他の皆も次々に地面にシャベルを刺すがどれも「サクッ」と軽い音で簡単に地面深くに突き刺さった。
その様子を見ていたエレンが声高らかに言った。
「どうですか? 僕達の特製シャベルは? これなら地面はサクサク掘れるはずですから、頑張りましょう‼」
「お、おお‼」
皆はエレンの言葉に驚嘆しながら、表情が明るくなった。
エレン達が作ったシャベルは先端が三角になっており、地面に突き刺しやすいのは確かなのだろう。
それにしても、地面に良く刺さっている。
おかげで思った以上に作業が早く進んで、早々に盛土の真ん中に楕円の大きな穴が出来上がった。
さらに、人の出入りが出来るように前側に焚口と、後側の下に小さな排煙口とそれに繋がる煙突も作った。
煙突もエレンとアレックスの特製品で、お願いした時は「木炭の為なら喜んで作ります‼」と、二人共やる気満々だった。
細かい部分もエレンと僕で都度確認を行い、ほぼ形を作ることが出来た。
今回作る予定の木炭の種類は「黒炭」になる。
黒炭の作り方は「木材を酸素の少ない状態で加熱させる」ことが重要だ。
通常の酸素が多い状態で火を付けると木材は普通に燃えてしまい、黒炭は作れない。
でも、木材を「酸素の少ない状態で加熱する」と、木材の主な成分が分解される。
こうして、分解した物質はほとんど煙となって出ていってしまう。
最後に黒色の個体として残ったものが「黒炭」となるわけだ。
これを「炭化」というらしい。
エレン達と僕がした細かい調整は、煙突と繋がる排気口の大きさや、煙が後にある排煙口に流れやすいように窯の地面に少しだけ傾斜を付けるなど結構細かい部分が多い。
この細かい調整をちゃんとしないと「良い黒炭」が作れないからだ。
確認作業中のエレン達の目が真剣そのものだったということは、言うまでもない。
ドワーフの火に対する情熱はすごいなぁと、僕は内心でエレン達の姿に感心していた。
それからしばらくして、確認作業も終わり、僕は皆に声をかけた。
「皆、ありがとう‼ 第一段階はこれで終わりだから、一旦休憩しようか」
「承知しました」
僕が休憩の合図を言い終えるとディアナとカペラがすかさず手伝ってくれた皆に、飲み物を配ってくれる。
皆、嬉々としてコップを受け取るとすぐに「グイッ」飲んでいる。
ディアナがルーベンスにコップを渡すと、すかさず騎士団の皆が「ああ、独身の俺には目の毒だ」とか、「早く結婚しろよな」など冷やかしの声が飛んでいる。
ルーベンスは顔を赤らめながら反論しているが、ディアナは黙って笑顔のままだ。
……いや、違う、黒いオーラが少しずつ滲み出ている感じがする。
察した僕は、少し慌てた感じで、皆に次の動きについて説明して話題を変えた。
「ゴホン‼ み、皆、この後の作業なのだけど、黒炭となる木を切ってもらう予定だよ。力仕事になるけど、この後もよろしくね」
「……? 承知しました。でも、この辺りには木なんて生えていませんよ? どこかに移動するのですか?」
僕の言葉に皆揃って首を傾げている。
その中でルーベンスが僕に尋ねてきた。
確かに、炭窯を作っている場所の周りに大きな木はない。
でも、僕には「樹の属性魔法」がある。僕にはニコリと笑顔を彼に向けた。
「大丈夫、木が無いなら、生やせば良いだけだから」
「はぁ……? 良くわかりませんが、あまりご無理はされないで下さいね」
ルーベンスは僕の言葉の意図がわからず、きょとんとした後、心配そうな表情を浮かべていた。
ちなみに、ディアナ、カペラ、エレン達は僕の言葉の意図をなんとなく察したようで、呆れたような顔をしている。
何故?
休憩の時間が終わり、僕達は少しだけ炭窯から離れた場所に移動した。
そして、クリスにお願いして手に入れた「物」が入っている袋を僕は取り出すと、皆に袋の中身を見せながら言った。
「タララ、ラッタラーン♪ 黒炭の元になる木の種~♪」
僕の明るい雰囲気の言葉に興味を持った騎士団の皆が、こぞって袋の中を「なんだろう?」と覗き見た。
だが、袋の中を覗くと同時に何とも言えない、怪訝な表情を皆浮かべている。
そんな皆を、代表するようにネルスが僕に申し訳なさそうに言った。
「……リッド様、楽しそうなところ申し訳ないのですが、言葉通り『木の種』となる『ドングリ』を見せられても反応に困るのですが……」
「大丈夫だって‼ まぁ、見ていてよ」
不安そうな顔をして「ザワザワ」と、ざわついている騎士団の皆をよそに僕は「どんぐり」を土に埋めると、深呼吸をした。
そして、ドングリを埋めた地面に手を付くと、集中する。
「……樹木成長」
僕が言葉を呟くと同時に以前、巨木を成長させた時と同様に魔力を「どんぐり」に持っていかれる。
でも、今回は魔力量を調整しており、成長期間10年のイメージだ。
種子を埋めた地面から「にょき」と芽吹いたかと思った瞬間、激しい葉音を響かせながらみるみる育って、目の前にあっという間に樹木が出来上がる。
立派になった樹木はゆうに10m以上はある感じだ。
僕は皆に振り返るとニコリと笑みを浮かべた。
「ね? 無ければ生やせば良いって言ったでしょ?」
騎士団の皆やエレン達は僕が行ったことを目の当たりにして、度肝を抜かれて唖然とした表情を皆並べていた。
僕が以前、ムクロジの巨木を生やしたことを察しているだろう、ディアナやカペラは呆れた表情を浮かべて、力なく「やれやれ」と首を横に振っている。
皆の様子を気にせずに僕は言った。
「さぁ、どんどん生やすから、どんどん切ってね‼」
「……えぇええええ⁉」
騎士団の皆は、僕が今からしようとしていることをようやく察してくれたらしく、屈強な騎士達が驚きの表情を揃って浮かべるというちょっと面白い構図が出来ていた。
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