第140話 炭窯づくり
僕は今、父上がいる執務室に向かっている。
事前に相談したいことがあるとガルンを通して連絡済みだ。
執務室の前に辿り着くと一息おいてからノックする。
父上からの返事を聞いた後、中に入るなり僕は、元気よく言った。
「父上‼ 炭窯を作る準備が出来ました‼ なので、騎士団員を貸してください‼」
「……はぁ……リッド……騎士団員に何をさせるつもりだ?」
僕の声を聞いた父上は、眉をピクリとさせて視線を書類から僕に移すとため息を吐いていた。
最近、話す相手が僕に対してため息が多い気がする。
少し、失礼じゃないかな?
……話は少し変わるけど、父上と前回の打ち合わせ後にサンドラと土と樹の属性魔法の研究を僕は行った。
そして、「木炭作り」に必要な「炭窯づくり」の準備が出来たので、後の問題は人手だ。
結構な重労働になると思うから騎士団員達を父上に貸して欲しいとお願いをしに来たのである。
僕はその事を丁寧に説明すると、父上は頷きながら言った。
「わかった。騎士団員の中でも、口の堅い者を選別しよう。人数は何人ぐらい必要だ?」
「そうですね……10名ほど貸して頂ければ大丈夫だと思います」
僕は少し考え込んでから必要人数を伝えた。あまり多くても、余ってしまうので10名が妥当だと思う。
もし足りないようならまた父上にお願いをすれば良いからね。
父上は僕の返事を聞くと、頷きながら言った。
「ふむ、10名か。作業はいつから行うつもりだ?」
「ありがとうございます。それでしたら早速、明日から作業を行いたいと思います。作業工程としては10日ぐらいの予定ですね」
「わかった。明日までには人員を用意しておこう」
「ありがとうございます‼」
僕は父上にお礼を伝えると、話が終わったので一礼して執務室を後にした。
その後、自室に戻った僕は簡単な手紙を書くとカペラを呼んで、エレンとアレックスに今日中に渡して欲しいと伝えた。
カペラはガルンから執事の指導教育を受けて数日だが、ある程度のことはもうこなせるようになっている。
この間、ガルンが逸材だとカペラを褒めていた。
「……承知致しました。今日中であれば、私が直接行って参りましょう」
「そうだね。それなら、カペラから『エレン』に直接渡してね。多分、その方が喜ぶと思うから」
「……? 承知致しました」
カペラは無表情で返事をすると、すぐに僕の部屋を後にしてエレン達の所に向かった。
あの様子だと僕が何故、エレンに渡して欲しいと言ったかについてはわかってなさそうだ。
そんなことを思いながら僕は呟いた。
「……エレン、頑張ってね」
◇
翌日、僕は訓練場に父上の指示で集まってくれた騎士団員達に挨拶をしていた。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。父上から聞いているかも知れないけど、今日行うことは他言無用でお願いします」
集まってくれた、皆の顔ぶれを確認しながら挨拶を言い終えた後、僕はペコリと頭を下げた。
騎士団員達の顔ぶれは、見覚えのある人が多かった。
レナルーテに行った時に同行してくれた人がほとんどだ。
集まってくれた騎士団員の中にはルーベンスとネルスもいた。
ちなみに、ディアナは僕の隣にメイド姿で控えてくれている。
僕が頭を上げると、ルーベンスがニコリと笑みを浮かべた。
「リッド様、有難いお言葉ありがとうございます。ですが、我々はバルディア領の騎士団員ですので遠慮は不要です。存分にお使い下さい」
「……そう? そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ、遠慮せずに色々とお願いするね」
これから彼等にはかなりの重労働をお願いするので申し訳ないなと思っていたけど、ルーベンスが言ってくれた言葉で僕は大分気が楽になった。
彼の言う通り遠慮せずにお願いをしていこう。
そう思った矢先、荷台を引っ張る馬車が近づいてくるのが見えた。
馬車に乗っているのはカペラとエレン。そして、アレックスだ。
カペラ達は僕達の近くまでやって来ると馬車を止めた。
同時に、馬車から降りたエレンがニコリと笑みを浮かべて元気よく言った。
「リッド様‼ お待たせ致しました‼ 以前、お話を頂いた際から、僕達が作っていた道具をお持ち致しました‼」
「昨日来てくれたカペラさんに、結構量があることをお伝えしたら馬車と荷台まで用意して頂けたので助かりました」
エレンに続いて、アレックスも笑みを浮かべながら言葉を続けた。
その様子に僕は昨日、エレンとアレックスにカペラを使いに出して良かったと思い、顔が綻んだ。
だけど、荷台がいるほどの道具量になったのか。
荷台を引く馬車から降りたカペラは、僕に軽く会釈をすると言った。
「まさか、あのような道具をドワーフのお二人に作らせているとは思いませんでした。お二人の技術もさることながら、とても素晴らしい逸品でございます」
カペラは無表情ながらも、言葉には少し驚嘆の色が混じっていた。
その様子に怪訝な表情を浮かべたディアナが僕に尋ねた。
「リッド様、差支えなければ何をお二人に作らせたのですか?」
「え? シャベル、大槌、斧とか色々と炭窯づくりに必要な道具だけだよ」
僕の言葉にディアナと騎士団が呆気に取られたような表情を浮かべた。
僕の言葉に続けるようにエレンが自信満々と言った雰囲気を出しながら咳払いをした。
「ゴホン‼ リッド様、ただの道具ではないですよ。僕とアレックスの二人の技術を集結した道具です。ちゃんと鉄も全部鍛錬していますから、そんじょそこらのシャベルとは物が違いますよ‼」
「ドワーフお手製の特製シャベル……」
騎士団員達が、驚きの表情を浮かべて呟いていた。
その様子に僕は不思議な表情を浮かべて首をかしげていた。
そんなにシャベルが珍しいのだろうか?
そう思っていると、ディアナがそっと耳打ちして教えてくれた。
どうやら、ドワーフが作る道具というのはどれも高級で金額が張るらしい。
その為、シャベルなどの道具をドワーフに依頼することは、ほとんどない。
なので、僕が作成してもらった道具は結果としては珍しい逸品になるそうだ。
ディアナから聞いた僕は心の中で「そんなの、知らないよ……」と呟いていた。
そんな中、エレンがご機嫌な様子で僕に話しかけてきた。
「僕達、リッド様から『木炭』と『炭窯』作ると聞いて今まで一番というぐらい頑張って作ったのですよ‼ 今日もバッチリお手伝いさせて頂きますね‼」
「そ、そうなの? あ、ありがとう。二人の協力に感謝するよ」
エレンとアレックスは今まで一番、やる気に満ち溢れている。
そういえば、始めて炭窯づくりの事を伝えた時も二人はやる気に満ちていたな。
その時、僕の考えていることを察したのか、エレンが僕を見据えて笑みを浮かべた。
「リッド様、武具でも何でもそうですけどね、僕達が何かを作るには火がいるのです。注文をもらった武具作成する時には、燃料代金も含めるのですけどね。僕達自身が作りたい武具にかかる燃料費用は全部、実費です。安くて品質がよくて、大量に気にせずに火が使える可能性があるなんて最高じゃないですか‼」
「そ、そう……確かに武具作りにも火は重要だよね……何はともあれ、喜んでもらえて嬉しいよ」
僕はエレンの勢いにたじろいで返事をした後、咳払いをして騎士団を含めた皆に聞こえるように言った。
「ゴホン……さて、それじゃあ、炭窯作る予定地に移動しようか」
こうして、炭窯づくりが始まった。
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