第139話 土の属性魔法

父上に事業計画書を提出してから数日、僕は土属性魔法についてしばらく研究していた。


研究の目的は「炭窯」を作るために、土属性魔法が有効ではないか? と考えた為だ。


そして、今日はサンドラの魔法の授業の日なので、その点について僕は質問する気だった。


サンドラの授業が始まり、彼女は僕の表情を見ると察した様子で僕に尋ねてきた。


「……リッド様、今日はどんな魔法を考えているのですか?」


「サンドラ先生、今日は土の属性魔法を研究しようと思っています」


「は……?」


僕の言葉にサンドラは唖然とした表情になった。


火、水、樹ときて、土の属性素質を持っていることをさらっと伝えたのだが、彼女はちゃんと反応して、僕の言葉の意図を理解した彼女は呆れた様子でため息を吐いた。


「はぁ……一体どれだけの属性素質を持っているのですか? まさか、全属性を持っているとかじゃないですよね?」


「……さすがにそれはないと思うよ?」


サンドラにはまだ、属性素質鑑定機の試作機が出来たことは伝えてはいない。


エレン達がサンドラに捕まると、彼女から色々制作依頼が来て、僕のお願いが滞りそうな気がしたからだ。


エレン達の下にもいずれ人員を用意して上げたい。


だからこそ、この間の父上との話し合いでまとまった「木炭制作」を失敗するわけにはいかない。


メモリーのおかげで作り方は把握している。


でも。より良い木炭を作る為にも、土の属性魔法を使いこなせると良さそうと考えた結果、炭窯作りの前に土の属性魔法を研究しようと思い立った。


サンドラと相談をして魔法研究をする件は、父上には書面で提出している。


言った、言わないにならない為だ。


でも、あれだけ事務仕事の多い父上が僕の書類をちゃんと確認しているかは少し疑問だけど。


考え込んでいる僕の表情を見たサンドラは怪訝な表情を浮かべると、僕に尋ねた。


「……リッド様、今回の実験については、ライナー様にはちゃんと事前に確認を取っていますよね? 私、先日の巨木の件でお叱りを受けましたので……その点は問題ないのですよね?」


「うん、書類で提出しているから、言った、言わないにもならないよ」


「本当ですか? 書類仕事で忙しいライナー様に、書類で知らせるというのは少し悪意を感じますよ?」


サンドラは僕の返事に珍しく怪訝な表情を浮かべたままだ。


父上に相当怒られたのだろうか? そんなことを思いながら、僕は彼女に笑みを浮かべて言った。


「サンドラ先生は、土の属性魔法に関しては興味がない?」


「はぁ……興味がないわけではありません。わかりました。書類でちゃんと提出しているなら良いでしょう。考えていることを教えてください」


彼女は呆れた表情を浮かべたが、最終的には土の属性魔法に関しての興味が勝ったようで、僕の話を聞いてくれた。


木炭製造の為に、炭窯を作らなければならない。


その際、土を使うので土の属性魔法を使い、効率的で良い炭窯を作りたいと説明した。


「そこで、サンドラには僕が試してみるから、気付いた点や助言をもらえると助かるなと思って」


「なるほど、わかりました。リッド様ほど魔法を高度に扱える人は、私は会ったことがありません。この機会に研……じゃなくて、土の属性魔法の可能性をみさせて頂きますね」


また、研究って言おうとしたよね? 僕はそんな彼女の様子に少し呆れながらも、屋敷から少し離れた場所に二人で移動すると、気を取り直して集中を始めた。


土の属性魔法は「操術魔法」と呼ばれているだけに、ある程度は術者の想像に合わせて動いてくれる。


僕はその場でしゃがみ、地面に両手を付いて炭窯の大きさのイメージを固めると呟いた。


「炭窯生成……‼」


唱えた瞬間、僕は魔力を大量に持っていかれる感覚を味わう。


それと、同時に地響きを轟かせながら土が盛り上がって「炭窯」の元になる正方形の盛土が出来上がった。


ちなみに大きさもしっかりイメージしてある。


高さ ニメートル

奥行 七メートル

横幅 七メートル


木炭を大量に作るための大窯をイメージしてあるので、結構大きい感じだ。


出来上がった、盛土を見たサンドラは驚いた様子で呟いた。


「これは、凄いですね……⁉ 土の属性魔法を使いこなすとこんな物まで作れるのですね」


「サンドラに見てもらう前に、何度か事前に練習していたけど、明確なイメージがないと全然うまくいかないから大変だったよ。ちょっと、盛土を触ってみて」


「……? わかりました」


彼女は僕の促すままに盛土を触った。


すると、盛土の状態に一驚した様子で振り返ると僕に尋ねた。


「これ、めちゃくちゃ頑丈じゃないですか? まるで、何年も踏みしめられたような土になっていますね……」


「良かった、ちゃんと出来ているね。ただ、盛土にするだけじゃ駄目らしくてしっかり、踏みしめられたような、固めた土にしないといけないらしいから、魔法を発動する時にその辺もイメージしたんだ」


メモリーに炭窯の知識を探してもらった時、現状で一番作りやすそうな炭窯は土で作る物だった。


仕組みさえ解れば、魔法で結構簡単に盛土を生成することは出来た。


ただ、盛土にするだけでなく、土を固める「圧縮」の工程も入ったから、思った以上に魔力消費量が多くなった感じはする。


「盛土の上の状態も見て欲しいのだよね……よっと‼」


「え⁉ リッド様⁉」


僕は身体強化を使って、高さが二メートルある盛土に向かって飛び上がった。


その様子にサンドラは呆気に取られていたが、僕が盛土の上から手を差し出すと、察した彼女はため息を吐きながら盛土の上によじ登った。


「はぁ……これは、凄いですね。盛土の上も踏みしめられた地面と変わらない感じです。リッド様ほどの使い手になると、土の属性魔法の有用性が凄そうですね……」


「そう? 頑張れば誰でも使えるようになると思うよ?」


僕の言葉を聞いたサンドラは力なく首を横に振っているが、その様子に気にせずに僕は話しを続けた。


「どうかな? 新しい魔法『炭窯生成』って感じなのだけど」


「良いと思いますよ。特別な問題もなさそうですからね。でも、これを使う時は必ずライナー様に相談してからにしてくださいね? これは無暗に人に見せて良い物ではないですからね」


サンドラに釘を刺されて、僕は笑みを浮かべながら頷いていた。


サンドラにも了承をもらえたから、炭窯作りに必要な魔法は出来た。


後は、父上に相談して作って実践するだけだ。


「よし‼ 近日中に炭窯を作るぞ‼」


僕は、空に向かって力強い声を出していた。

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