第130話 料理から見える世界の繋がり

「アーリィ料理長、このレシピと考えはどうかな? 将来的にバルディア領の名物料理とかにしたいのだけど……」


「バルディア領の名物料理をお考えなのですか? リッド様は型破りな事をお考えになられますねぇ……しかもそれを、料理長の私に意見を求めて頂けるなんて大変光栄です」


彼は言い終えると、僕が渡したレシピを見ながら、「ふむ……」と唸っている。


僕はアーリィに補足説明をしながら、ここに来るまでの事を思い出していた。


レナルーテと帝国の食材、メモリーとの連携、そして、これから行おうとしている事業を考えた時、料理についても色々と出来ることが増える。


折角なので、この世界で広まっていない「食文化」を広げればそれも莫大な利益を生むはずだ。


そう考えた僕は、何個か料理のレシピをまとめた。


その後、ガルンに相談に乗ってくれそうな人を聞いた所、僕達の料理を作ってくれている「アーリィ料理長」が良いだろうと紹介してくれた。


善は急げと、早速彼に説明をしているわけなのだが、彼の顔色は険しい。


何か問題があったのだろうか? 僕は気になって恐る恐る彼に質問をした。


「……何か問題があったかな? 気になることがあれば、怒らないから何でも意見を言って欲しいのだけど、どうかな?」


「そうですね……では、率直に言わせて頂きます。このレシピの商品はすべて、名物料理には出来ないと存じます」


「へ……?」


僕は予想外の言葉に茫然としてしまった。


全部とはいかないがさすがに一つや二つは出来ると思っていた。


まさか、全部ダメと言われるとは思わなかった。


彼は僕の茫然とした顔を見ると、苦笑いしながら付け加えた。


「リッド様、このレシピの料理がダメと言っているわけじゃないのです。ただ、バルディア領の名物料理としては現状だと難しいという意味で申し上げております」


「商品がダメではなくて、難しいってどういうこと?」


アーリィは僕の質問に答えるように説明を始めた。


そして、その難しい理由を聞いた時に僕は衝撃を受けた。


理由が「火」、正確に言えば「燃料問題」だからだ。


アーリィからの話はわかりやすかった。


この世界における「火」を起こす燃料は主に「薪」と「木炭」が使われている。


木炭は貴族が使う事が多く、平民の一般家庭ではあまり使われない。


木炭を作るには技術と手間に加えて輸送費がかかるので当然、価格は高くなる。


その為、お金を持っている貴族が薪に加えて木炭を使用する。


平民は薪となる枝を森や山で集める、木こりや商人から薪を買うなどが主らしい。


「リッド様、この『ラーメン』という料理ですが、非常に面白いです。ですが、スープを作るのに長時間煮込むということはそれだけ『燃料』を使います」


アーリィの言葉を聞いて、僕は唖然としていた。


火を使うのに「燃料」がいるというのは当たり前だが、その「燃料」をこの世界では主に何を使っているのかを考えたことはなかった。


彼はそんな僕を見ながら説明を続ける。


「加えて、スープを暖かい状態で保つということは、火を使い続けることになります。さらに、スープとは別に、『麺』ですか? これを茹でる為にも火を使い続けるとなっては、薪や木炭がいくらあっても足りません。リッド様や皆様に出すのであれば、月に一回ぐらいは出せると思います。ですが、平民も食べるような名物料理には燃料の原価が高すぎて難しいと存じます」


「そっか、燃やす為の『燃料』が問題になるとは思わなかったよ……そういえば僕達、バルディア領の燃料はどうしているのかな?」


僕は少し肩を落として彼に返事をした。それと同時に、ふと気になった事も質問した。


アーリィは少し考えに耽ると思い出すように言った。


「確か、バルディア領では薪や木炭は木こりや商人とレナルーテから仕入れているはずです。リッド様が生まれる前に薪や木炭の価格が少し上がったことがあるのですがね。数年前かな? レナルーテから薪や木炭を少し安く買えるようになったと聞いております」


「え⁉ レナルーテから薪や木炭を買っているの? 数年前から?」


何やら不穏な物を感じ取り、僕は思わずアーリィに食い気味に再度質問をしていた。


彼は少したじろぎながら答えた。


「は、はい。レナルーテは森林や山が多いですからね。あの国は薪や木炭などの燃料には困りにくいと思いますよ」


「……帝都だと薪とかってどうしているのかな?」


アーリィの言葉である仮説が僕の中に生まれた。


それを確認するようにおもむろに尋ねると、彼は少し考えてから言った。


「うーん……確か帝都の燃料事情は、国外や商人達からの輸入と国内に点在する貴族領地から仕入れていたと思いますよ。帝都は発展に合わせて人も増えていますからね。あ、そういえば、帝都の友人が手紙で薪の価格が上がったと嘆いていましたね」


「……そっか。お友達も大変だね」


僕は彼の言葉を聞いて、帝国がレナルーテを属国にした理由が燃料と資源問題のような気がしてならない。


人の発展に合わせて、森林資源を使うは当然だろう。


だが、発展を続ける帝国内の森林資源はいつまで持つのか? 


その問題点に帝国が気付いていたのだとしたら、今後の国力増加に向けて森林資源が豊富なレナルーテは絶対にバルストに渡したくはなかったはずだ。


僕が考えに耽っていると、アーリィが申し訳なさそうな声を出した。


「……リッド様、申し訳ありませんが料理の仕込みをそろそろしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「あ⁉ そっか、ごめんね。今日はありがとう‼ 晩御飯、楽しみにしているね‼」


僕の言葉にアーリィはとても嬉しそうに微笑んでいた。


バルディア領の名物料理を作るつもりが、思いもよらない問題に直面してしまった。


僕は気持ちを切り替えて自室に戻るとメモリーを呼び出して、何か良い方法はないかメモリーに相談しながら考え込むのであった。

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