第131話 サンドラとの魔法研究

「母上、今日の体調はどうでしょうか?」


「ふふ。毎日ありがとう、リッド。サンドラと魔力回復薬のおかげで大分良いですよ。それに、新しい薬を飲み始めてから気持ち、少し楽になっている気がします」


母上は僕の言葉にニコリと笑顔で答えてくれた。


僕はバルディア領に戻ってきてから、毎日必ず母上に部屋を訪れている。


「良かったです。父上も今回の帝都訪問は少し長くなるかもしれないと、母上を心配しておりましたから」


「そう、あの人がそんなことを言っていたのですね。ふふ」


母上は父上が以前と少し変わったと感じているようで、今度は嬉しそう笑っている。


すると、母上は思い出したようにハッとして僕を見ると言った。


「そうでした‼ ファラ王女を含めてお三方からのお手紙を読みましたよ。レナルーテでは、大活躍だったようですね……何をしたのか詳しく話を聞かせてもらえるかしら……?」


「……母上、申し訳ありません。今日はこの後、サンドラ先生と魔法の授業がありますので、また日をあらためてもよろしいでしょうか……?」


話をしている時、母上の表情に少し黒いオーラを感じた僕は、逃げるようにサンドラの名前を出した。


実際、この後にサンドラと授業の予定があるのでゆっくり話せる時間がないのも事実だ。


母上は少し残念そうな顔を浮かべた。


「そう……それなら、しょうがないですね。ですが、今度ゆっくりと聞かせて頂きます」


「は、はい。承知致しました……」


一体、ファラ達が母上に充てた手紙には何が書いてあったのだろうか? 


母上の様子を見る限り、悪いことが書いてあった感じはしない。


その時、後ろから女性の声が聞こえて来た。


「お話中に申し訳ありません。リッド様、そろそろお時間ですので、訓練場に移動致しましょう」


「あ、うん。わかった、サンドラ」


僕に声を掛けてきたのはサンドラだ。


彼女は今、母上の魔力枯渇症に関する主治医のような立場になっている。


その為、最近は母上の部屋に居る事も多い。


僕はサンドラの言葉に頷き、母上に「では、行ってきます」と一礼した。


母上からは笑顔で「いってらっしゃい」と言われ、サンドラと二人で母上の部屋を後にして訓練場に向かった。



訓練場の近くの黒板がある部屋に辿り着くと、僕はサンドラに向かって言った。


「サンドラ先生、今日は土と樹の属性魔法について教えて下さい‼」


「……リッド様、また何か企んでいますね?」 


今日は、久しぶりのサンドラの魔法授業の日だ。


彼女は今、母上の主治医のような状況になっているが、ちゃんと合間を見て僕の授業も怠らない。


本人が恐らく楽しんでいることも大きいだろうけど。


彼女は僕の目を見据えると小さくため息を吐いた。


「はぁ……まぁ、いいでしょう。しかし、土と樹の属性魔法とは難しい属性を聞いてきますね」


「難しい属性ってどういうこと?」


サンドラは僕の質問に楽しそうに目を光らせると、黒板に文字を書きながら説明を始めた。


「私からは説明しておりませんが、リッド様は魔法には『変質魔法』と『操質魔法』の二種類に分けられることはご存知でしょうか?」


「うーん……。知りません‼」


僕は考える素振りを見せた後、ハッキリとわかるように答えた。


彼女はそのようにニコリと微笑みながら『変質魔法』と『操質魔法』について語り始めた。


「魔法の属性素質は無属性を含めて十種類だと言われています。そのうち『操質魔法』と言われているのが『土』と『樹』の二種類です。この二種類の属性は攻撃魔法などで外部に発動する際に、間接的にでも大地に接している必要があると言われています」


「え? そうなの?」


サンドラの説明を聞いて僕は呆気に取られた。


思い返すと確かに以前、全属性の発動を試した時、他の属性魔法はすべて差し出した手先から発動できた。


だが、「土」と「樹」だけは、僕の足元の大地から発生していた気がする。


僕が考えに耽っていると、サンドラが咳払いをした。


「ゴホン……何をお考えになっているのか気になりますが、説明を続けます。土と樹以外の属性魔法は『術者の魔力をそのまま属性変質』して発動します。土と樹は『術者の魔力で存在する物を操つり変質』して発動致します」


「……つまり、『変質魔法』は魔力を糧にして発動できる魔法。『操質魔法』は魔力を糧にして存在している物を任意に操る魔法。という認識を持てば良いのかな?」


僕の言葉にサンドラは頷きながら返事をした。


「仰る通りです。とはいえ、樹も土も使える人が少ない上に、高度に扱える人は見たことがありません。まだまだ、研究の余地がある属性魔法ですね」


「なるほど……」


説明を聞いた僕は、新たに得た知識の『操質魔法』について考えていた。


土魔法に関しては、サンドラの言う通り魔力で大量にある土を魔力で動かしているのだろう。


だが、樹はどうなのか? 


僕が以前、試しに発動した「樹槍」は確か、僕の足元から先端の尖った木が生えながら目前に進んで行った記憶がある。


だけど、僕の足元は草原で木なんてなかった。


その時、僕はハッとした「魔力は生命エネルギー」という言葉を思い出したからだ。


草や木に魔力という生命エネルギーを注ぎ込んだら『成長促進』させて操れるというのが樹の属性魔法の根本ではないだろうか? 


さらに言えば、闇属性魔法で影に潜れるのだ。


樹属性魔法で出来ることも多いはず。


俯きながら考えに耽っていると、サンドラの声が聞こえた気がして顔を上げた。


「きゃぁああああ⁉」


「うわぁああああ⁉」


顔を上げた瞬間、目の前にサンドラの顔があり、二人同時に驚いて悲鳴を上げてしまった。


前にもこんなことがあった気がする。


「お、驚きました…… 以前のように話しかけても、全く反応が無いので心配しましたよ……」


「アハハ……驚かせてごめんね。考えに耽っていて、サンドラ先生の声に気付かなかったんだ……」


僕は彼女の言葉に、乾いた笑いをしながらバツの悪い感じで返事をしていた。


サンドラは僕の返事を聞きながら胸に手を当て、深呼吸をして心を落ち着かせているようだ。


彼女は気持ちが落ち着くと、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「で……何を企んでいるのですか? リッド様?」


「うん、ちょっとね。サンドラ先生にも意見を聞きたいし、手伝って欲しいかな。試したい事があるから、人気の少ない屋敷の裏に一緒に来てもらってもいいかな?」


サンドラは目を爛々とさせながらも、わざとらしく悩む仕草をみせたあとおどけた様子で言った。


「畏まりました……ですが、愛の告白なら謹んでお断りいたしますよ?」


「……そんなことするわけないでしょ? 僕にはファラがいるのだから……あ」


僕は自分が言った言葉に対して「しまった‼」と思った。


別に事実だから良いのだが、言った相手が悪い。


僕はそっとサンドラの顔みると、とってもニヤニヤしていた。


その後、屋敷の裏に移動する間、サンドラに「熱々で羨ましい限りございますねぇ……」と散々言われる羽目になった。


僕がどっと疲れたのは言うまでもない。


※補足

魔法の属性素質10種類=火、水、氷、風、土、樹、雷、光、闇、無

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