第128話 屋敷建造の情報収集

その日、僕はファラをバルディア領に迎える為の屋敷建造について、働いている皆の意見を聞く為にメイドの皆に集まってもらった。


彼女達に働く中で気になっている事を教えて欲しいと頼むと、最初は戸惑った彼女達だったが、「何でもいいし、怒らないから」と僕が伝えると、おずおずと一人が言い始めた。


後は流れるように意見が出てきて動線から始まり、彼女達の過ごす部屋の問題、井戸水、掃除洗濯など小さいことから大きいことまで様々だ。


「さすがに全部は無理だけど、出来る限り働きやすい環境を整えられるようにするよ」


「それでしたら、結婚後もここで働けるようにして頂きたいです……」


その時、ダナエがおずおずと手を上げながら意見を言った。


僕は言葉の意味が理解出来ずに怪訝な表情を聞き返した。


「……どういうこと? 結婚後は働けないの?」


「いえ、正確には『子供』が出来たらなのですが……」


ダナエの言葉に周りのメイド達も微妙に頷いていた。


どういうことだろうか? 


僕は彼女達に詳しく話を聞いた結果、衝撃の事実を知った。


彼女達は結婚して子供が出来ると仕事を辞めざるを得ないらしい。


一番の理由は、育児にかかりきりになってしまうからということだった。


町には子供を預かってくれる所はあるが、バルディア家のように働く時間が長い場合はさすがに預けるのが難しくなる。


それに、出産から初期の育児に加えて、出産後の体調が回復するまでは働けない。


結果、長期間休む必要になるので仕事を辞めることになる。


ようやく体調が戻った時には、新しい人員が入っており復職は基本難しい。


バルディア家は退職金が用意される他、最近ではクリスティ商会を通じて仕事を斡旋してもらえるのでまだ良いらしい。


僕は彼女達が悩んでいる問題と似た話を知っており、考えに耽ってしまった。


その時、可愛らしい声が聞こえた。


「にーちゃまにみんな、なにしているの?」


「んん~」


そこに登場したのはメルと彼女の肩に乗ったクッキーとビスケットだった。


メイド達はメルが肩に乗せている二匹を見るとサーっと青ざめて一様に「あ⁉ 仕事に戻らないと……失礼いたします‼」とわざとらしく声を出してクモの子を散らすように去ってしまった。


残ったのは僕、ディアナ、ダナエ、メル達だけだ。


メルはその様子に不思議そうな顔をした。


「みんな、どうしたの?」


「うーん。クッキーとビスケットが怖かったのかな?」


「えぇええ⁉ こんなにかわいいのに‼」


僕の言葉に驚いた様子のメルは、肩に乗せている二匹を撫でながら微笑んでいる。


ダナエを見ると彼女も平気というよりは少し怖がっているような気がする。


二人の様子を見たディアナが説明するように呟いた。


「……バルディア領に魔物はほとんどおりません。それに、魔物と言えばダンジョンに存在して、人を襲うイメージが強いのです。クッキーとビスケットはそのような魔物ではないと、私達は知っております。ですが、皆それでも怖いのでしょう」


「むぅう‼ クッキーとビスケットはひとをおそったりしない、よいこだもん‼」


メルはディアナの言葉にむぅーっと頬を膨らませて抗議の顔をしている。


彼女の可愛い仕草に僕を含めてこの場にいる皆が微笑んだ。


その様子を見たメルは余計に怒って頬を膨らませている。


僕はメルを見て、微笑みながら呟いた。


「うーん、クッキーとビスケットのことも、皆と仲良く出来るように何とかしないといけないね」


「……リッド様、差し出がましいようですが私からもお願いがございます」


ディアナの声に気付いて、彼女に振り向くと真剣な顔をして僕を見据えているので少し驚いた。


僕はその迫力に少したじろぎながら声を出した。


「な、何かな?」


「是非、屋敷建造と合わせて、温泉もしくは大浴場のお風呂もお願い致します……‼」


彼女にしては珍しく期待と必死さがある気がした。


それにしても、温泉もしくは大浴場か。


ファラも可能なら欲しいと言っていたので何とかしたいがどうしたものかな。


そう思った時、メルがまた不思議そうな顔で話しかけてきた。


「にーちゃま、おんせんってどんなものなの?」


「うん? そっか、メルは温泉をまだ知らないのだね。温泉っていうのはね……」


僕はメルに温泉について説明をすると、彼女は目が爛々となり顔がパァっと明るくなった。


「にーちゃま、ずるい‼ わたしもおんせんはいりたい‼」


「ず、ずるいって言われても……温泉はレナルーテにしかないから、難しいよ……」


「むぅ‼ それならおんせんつくってよ‼」


「えぇええ⁉」


僕がメルの言葉にタジタジになっていると、メルの肩に乗っていたクッキーがスッと降りた。


彼はそのまま、歩いてどこかに向かい移動を始めた。


その様子に僕はきょとんとして、メルに尋ねた。



「メル、クッキーがどこかに行こうとしているけど、いいの?」


「うん、クッキーとビスケットはたまにどちらかがいなくなるけど、かならずもどってくるんだよ。それに、ぜったいにどっちかがわたしのちかくにいてくれるの」


メルは話しながらその場で手を広げてクルっと回った。


ビスケットはメルの動きに合わせて遊ぶように、腕の上を走り回っている。


メルの可愛い仕草を見た僕達はまた微笑んだ。


クッキーが居なくなるのと温泉の話題も落ち着いたので、僕はメルとダナエの二人と別れてガルンの元に向かった。


「……屋敷建造に向けての要望でございますか? 屋敷の者に尋ねるとはリッド様はまた型破りなことを致しますな」


「そう? でも、僕よりも皆が使う事が多いでしょ? それなら、皆の意見を聞くべきかなって思ったんだ」


ガルンは僕の話を聞いて、嬉しそうな顔をしていた。


彼は少し考えに耽ると、おもむろに言った。


「折角ですので、少し考えるお時間を頂いてもよろしいでしょうか? 明日にでもまとめておきます。良ければカペラも呼びましてお話させて頂くのはどうでしょうか?」


「うん、わかった。じゃあ、続きは明日話そうか」


彼の言葉に僕は頷いて返事をした。


ガルンも心なしか少し楽しそうである。


誰よりも屋敷のことを知っているガルンが、屋敷建造の話に加わってくれれば間違いないだろう。


それに、カペラもいればレナルーテ目線の話も聞ける。


僕は期待を胸に膨らませて、翌日を待った。

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