第127話 闇魔法と魔法の可能性
「では、これから私達がよく使う闇属性魔法の『潜影術』をお見せ致します」
「うん、お願い」
先程まで自室でカペラと話していたが、彼の使っている魔法について教えて欲しいと伝えたら「それなら、実際に見るのがわかりやすいでしょう」と、訓練場まで移動することになった。
訓練場に今いるのは僕、ディアナ、カペラの三人だけだ。
カペラはゆっくり、僕に近づいてからしゃがむと僕の影に手を触れて呟いた。
「……影潜術」
カペラが言い終えると、彼は一瞬で僕の影の中に吸い込まれていった。
僕とディアナはその様子に目を丸くして驚いた。
彼が入り込んだ影は普段通りのままだ。僕はその影を見ながら話しかけた。
「……すごいね。今、カペラは僕の影の中にいるの?」
僕が言い終えると、影に目と口がニヤっと浮かび上がった。
ちょっと怖い。
「そうです。私は今、リッド様の影の中に潜んでおります。影の中に潜っている間は周囲の音や状況を見ることができますので、ダークエルフの諜報術の一つです。影の中から、魔力によって攻撃することもできます。こんな感じに……‼」
「うわぁ……⁉」
カペラが言い終えると、僕の影から黒い手がうにょうにょと生えてきた。
沢山はやすことも出来るようで最初はⅠ本だったがだんだんと数が増えていき、今は6本の腕が僕の影から生えている。
まるでホラーだ。
ふと、ディアナを見ると珍しくサーっと青くなっている。
ひょっとして、この手のものがダメなのだろうか?
そう思った時、手が全部影の中に戻った。
それと同時にカペラが僕の影からヌッと現れた。
うん、不気味だ。
彼が影から現れると同時にディアナは顔を引きつらせて「ヒャ⁉」と悲鳴に似た声を上げた。
彼女はお化け系が苦手っぽい。
影から出てきたカペラは僕を見据えると言った。
「これで、よろしいでしょうか?」
「うん。ありがとう。凄い術だね。これは誰にでも出来るのかな?」
「そうですね……闇魔法で影に潜れることを知って、明確イメージと一定以上の魔力量。そして、闇の属性素質があれば出来ると思います。ただ、この魔法はレナルーテでは秘術扱いされておりますので、お二人の胸に秘めて頂きたいです」
彼は言い終えると僕達に頭を下げた。
なるほど、闇の属性素質を持っていても、影に潜れるという発想を持たなければそもそも扱うことはできない。
「魔法は属性素質を持っていても、想像出来ないことは発動出来ない」ということなのだろう。
……ということは僕にも出来るかもしれない。
そう考えた僕は、カペラに頭を上げてもらうと尋ねた。
「わかった。その魔法の存在については僕とディアナの心にだけ留めるよ。ちなみに、潜影術を発動する時に他に意識している事とかあるの?」
「そうですね……あとは影の理解でしょうか? 光があれば影はできます。それが夜を照らす星や月の光でも出来るということを知って理解していることが重要と私たちは習います。それと、自分の影には潜れませんね」
ふむ。影の仕組みは前世の記憶もあるから理解は出来る、あとは僕が明確なイメージを持てるかが問題だ。
これについてはさっきカペラが見せてくれたからいけるかな? そう考えた僕は、ディアナの影に、彼が僕の影にしたのと同じように手を触れた。
先程の彼の様子と影に潜るイメージを始めた。
そんな僕を、ディアナが怪訝な表情で見ると呟いた。
「……リッド様、何をされているのですか?」
「潜影術……‼」と呟くと同時に僕はディアナの影に吸い込まれた。
いや、影に落ちたと言ったほうが正しいかもしれない。
地面がいきなり無くなって、ガクッとした感覚に襲われる感じだ。
気付くと僕は真っ暗な世界から、ディアナを見上げていた。
彼女は驚愕した表情で、影に入り込んだ僕を見ているようだ。
すぐにカペラもディアナの影をのぞき込んできて、珍しく驚きの表情を浮かべている。
その時、ディアナは僕が潜った影に対して心配そうに叫んだ。
「リッド様、大丈夫ですか⁉」
影の中はまるで水の中にいるような感覚だ。
息も出来るけど、外からの声は少しくもっている。
これも、水の中に潜っている時に聞こえてくるような感じだ。
なるほど、これは諜報活動では恐ろしいほど効果的だと思う。
その時、今度はカペラの声が聞こえて来た。
「リッド様‼ 影から出る時は、私達が見えている世界に向かって、飛び込んでください‼」
カペラの声が聞こえると同時に僕は言われた通りにした。
だが、飛び込むと言うより、泳いで水面に顔を出すという感覚に近い感じがする。
水面に手を差し出した瞬間、また吸い込まれるような感覚を感じた。
気付くと僕はディアナの影の上に立っていた。
二人は驚愕の表情で目を丸くしていた。
僕はそんな二人にハッとしておずおずと言った。
「ア、アハハハハ……‼ 出来ちゃった……」
二人はそのまま少し無言で僕を見つめたあとに、揃ってふか~いため息を吐いた。
そして、カペラが口を開いた。
「……まさか、闇の属性素質までお持ちとは思いませんでした。頭目の言っていたことが少しわかった気がします……」
「そんなことより、リッド様にお怪我はありませんか⁉」
ディアナはしゃがみこんで僕をぎゅっと抱きしめたあと、体に異常がないか見てくれている。
そんな彼女に僕は安心させるように微笑みながら返事をした。
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね、ディアナ」
「それでしたら、良かったです……」
彼女は安堵のため息を吐いた後、「失礼致しました」と言って、スッと立ち上がって一礼した。
その様子に僕は慌てて顔を上げさせた。
何も言わずにいきなりやってみせた僕が悪い。
次からは気を付けよう。
彼女が顔を上げると僕はカペラに振り向くとニコリと微笑んで言った。
「カペラ、他の魔法もおしえて‼」
「……承知致しました」
カペラの顔は無表情だが、その雰囲気は引きつったような感じがしたのは多分気のせいだろう。
この日、僕はカペラから闇魔法を色々と教わるのだった。
◇
「……リッド様は常識では測れないですね。まさか、こんなに容易く私の術を覚えられるとはおもいませんでした」
「いやいや、カペラの教え方が上手だったからだよ。それに僕は、魔法が好きだからいつも勉強していたから出来たのだよ? 普段のからの積み重ねの結果だからね?」
カペラにまで常識外れの扱いはされたくない。
しかし、彼から学んだ魔法はとても興味深かった。
特殊魔法の部類なのだろうが、闇の属性素質がないと使えない。
つまり、魔法の属性素質の特性を生かした特殊魔法は、想像と発想力次第では様々な形のものを創ることが出来ると言うことだ。
ダークエルフで闇の属性素質があれば「影に潜れるかも」という発想をした人は天才だと思う。
魔法は固定概念にとらわれず、想像してやってみることが大事ということだ。
今度、サンドラにも伝えて色々と魔法を創ってみよう。
僕が考えに耽っていると、ディアナが忠告するように僕に声を掛けた。
「……リッド様、あまり無茶なことはなさらないで下さい。何かなさる時には『自重』という言葉を思い出して頂きたく存じます」
「え? 大丈夫だよ、ディアナ。僕がそんな無茶で常識外れなことをするわけないでしょ? ちゃんと、新しい魔法を創るときはサンドラ先生と一緒にするからさ」
「……新しい魔法を……創れるのですか……?」
あ、失言したかもしれない。
僕の言葉にディアナとカペラは目を丸くしていた。
その後、二人から詳細について色々と質問を受けた僕は、誤魔化すのが大変だった。
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