第64話 御前試合 第二試合

「リッド様、どうか私の護衛である「アスナ・ランマーク」と試合して頂けないでしょうか⁉」


「へ……?」


先程終わった御前試合の審議が終わりエリアス陛下達と部屋の外に出るとファラ王女と護衛の少女が出待ちをしており、僕達に衝撃の一言を言った。


御前試合を護衛の少女として欲しい? 


どういうことだろうか? 


すると、僕と同様のことを思ったのだろう。


エリアス陛下が怪訝な顔をしてファラ王女に尋ねた。


「ファラ、何を言っているのかわかっているのか? 御前試合は王女の遊びで行うようなものではないぞ?」


「はい。仰る通りです。ですが、聞いてください。今、この御前試合に悪意に満ちた、吹聴が蔓延しております。それを、取り除く為に必要なことなのです」


ファラは毅然とした態度で父親に物申した。


その姿はとても凛々しく可憐だった。


そして、ファラの言葉を聞いたその場の面々は全員、怪訝な顔になった。


その中で父親であるエリアスが彼女に対しておもむろに質問をした。


「悪意に満ちた吹聴だと? ……詳しく聞かせ」


「はい。では、恐れ入りますが今この場にいる面々で再度お部屋によろしいでしょうか?」


「うむ。よかろう」


終わった、と思われた審議は予想外の訪問者で再開されることになった。


エリアスはすぐさま兵士を呼び、もう少しだけ時間がかかることを華族とバルディア家の面々に伝えるように言った。


兵士は一礼してすぐその場を去っていた。


兵士が去ったのを確認してからエリアスはファラに鋭い眼光を見せ王として彼女に言葉を紡いだ。


「では、聞かせてもらおうか? 悪意に満ちた吹聴とやらを……」


「承知致しました」


ファラは一礼をして返事をすると説明を始めた。


母親のエルティアの指示でエリアスに会いに向かっていたところ、華族のダークエルフと男達がしていた密談の内容を伝えた。


ノリスが中心となっている反対派の派閥が、先ほどの御前試合の見方を悪意に満ちた内容にしている。


それにより、リッドとレイシスの名誉を貶めている。


このまま、御前試合が終わってしまっては彼らの思うツボであると伝えた。


娘の話を聞いたエリアスは思慮深い顔をしながらもどこか嬉しそうである。


対して王妃とレイシスは苦虫を嚙み潰したように険しい顔をしていた。


王妃はノリスと血の繋がりがあるので、今のノリスは彼女にとって身内の恥ともいうべき存在だ。


さらに、王妃の子供すら利用している点で、彼女がノリスに対して抱く嫌悪感は想像に難くない。


レイシスも心酔していたノリスの言動に救われた面もあるので、どこかに彼に対する希望もあったのだろう。


しかし、レイシスは自分なりにリッドに対して挑戦をした。


その挑戦は、間違った方向で結果も伴わなかったかも知れない。


だが、悪意に満ちた吹聴で間接的でも貶められる理由にはならない。


レイシスは改めて自分はノリスにとっての駒であったことを自覚した。


その様子を見ながらも、ファラは説明を続けた。


「リーゼル王妃と兄上においては辛い立場と存じます。ですが、このままではノリスの思うつぼになってしまいます」


「そこまで言うのであれば、策があるのだろう? それが、御前試合でアスナとリッド殿で試合を行うことにどう繋がるのだ?」


ファラは父親の言葉にニコリと笑顔になると、物怖じせずに説明をした。


兄上であるレイシスに最初の御前試合の内容について、何故長引いたのかを説明してもらうことで吹聴の根本を否定する。


そして、リッドの実力が本物であり、レイシスの言葉に嘘や誇張が無いことを華族達に知らしめる。


それにより、リッドとレイシスの名誉は守られる。


ファラの説明を受けたエリアスは表情を崩さなかったが、娘の見せた予想外の才覚に内心驚愕していた。


エリアスはアスナにも目線を向ける。


その視線に気づいたアスナは一礼するのみだ。


恐らく、華族から聞いた話を二人で整理して対策を考えたのだろう。


短時間で効果的な対策。


そして、物怖じせずに父である自分にハッキリと告げる。


ファラが提案した内容は片方だけではなく両者の立場と名誉を考えた案であり、今できることで考えれば上出来である。


エリアスはファラの表情を見定める。


その表情は物怖じせずに王としての父親に意見をだしている。


思慮深い顔になるとエリアスは小さく呟いた。


「……惜しいな」


「? ……父上?」


エリアスの言った言葉を聞き取れなかったファラは怪訝な顔をする。


それに気づいたエリアスは、ファラを含めこの場にいる全員に対して言った。


「よかろう。ファラ、お前の策に乗ろう。レイシス、アスナ。そしてリッド殿、よろしいか?」


レイシスとアスナは二人そろってエリアスに「はい。承知致しました‼」と返事をする。


リッドも「承知致しました」と言ってから一礼をした。エリアスは三人の返事を聞くと力強く言った。


「うむ。では会場に戻り早速、華族達に説明を行うぞ」


その後、御前試合を行った場所に全員で移動するとエリアス陛下は華族達を集めて、先程の行われた試合内容について説明を行った。


そして、レイシス自身からも圧倒的な実力差があることがわかっても、すぐに負けを認められなかった自分が恥ずかしい。


試合の時間が長くなったのは自分のせいであり、リッドには非はないと説明した。


だが、話を聞いて納得した様子の華族は少ない。


ここまではノリスが描いた通りだろう。


レイシスの説明が終わると、王であるエリアスが華族達に向けて威厳のある声で言った。


「皆が納得いかないのはわかる。そこで、これも急遽ではあるが、ファラの専属護衛であるアスナ・ランマークとリッド殿による第二試合を行う事に決めた。これにより、リッド殿の真の実力を改めて見ることができるだろう」


エリアスの言葉にその場にいた華族達はどよめいた。


王女の専属護衛となるまで、レナルーテの天才剣士と言われた少女を辺境伯の息子と試合させる。


華族達は皆、エリアス陛下は正気だろうか? と疑った。


一時期、天才剣士として有名だった彼女の酔狂で奇傑な性格は華族達の中でも知れ渡っていた。


普段は普通の少女だが、試合などの剣術に関わる事においては目の色が変わり情け容赦を一切かけない無慈悲で豪気な様子に変貌していく。


彼女の才能目当てに、将来を見据え婚約を申し込んだ男達を「弱い男に興味はありません」と、自身との試合を強要。


そして、悉く婚約話ごと擦り寄ってきた男達を葬り去った話はあまりにも華族内で有名である。


彼女が帝国に嫁ぐ王女の専属護衛となったのはこの事件がもとで、兄弟の怒りを買ったせいとも噂されていた。


そんな、彼女を辺境伯の息子に当てようというのか? 


国際問題にでもなるのではないか? 


華族達は違う意味でも動揺が広がっていた。


その中で、意地の悪い笑みを浮かべている初老のダークエルフがいた。


ノリスである。


御前試合の第二試合と言われ、レイシスの発言を聞いた時にはどうなるかと思ったが、アスナがリッドを叩きのめせば当初の計画通りトラウマを与えることが出来る。


そして、アスナが勝った時にはレイシスの仇を取ったと吹聴できるだろう。


リッドの実力がどの程度かわからない。


だが今度こそ、何がどう転んでもリッドは負ける。


そして、その結果はノリスにとっては都合が良いものになる可能性が高い。


その時、エリアスが華族達に向けて声を発した。


「では、アスナ、リッド殿。準備が出来次第、御前試合を開始する」


その言葉を聞いた当事者の二人は、エリアスに一礼するとリッドは父親の所に状況を説明しにいった。


ライナー辺境伯は御前試合の二試合目を行うと聞いて、厳格ながらも引きつった表情をしてリッドの説明を聞いている。


アスナは王女に声をかけると屋敷の中に入っていった。


ノリスはアスナの様子を見るとそっとその場からいなくなるのだった。

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