第35話 特殊魔法と記憶

僕は母上の魔力回復薬の試薬の騒ぎが終わった後、サンドラに新たな特殊魔法を創りたいと相談。


いまは二人で訓練場の黒板がある部屋にいる。


「でも、リッド様、さすがにナナリー様にあんなことがあったばかりなのに、新しい特殊魔法を考えていて大丈夫なのですか? ご家族との時間とか……」


「心配してくれて、ありがとう。でも、今日は家族と言うより夫婦水入らずにしてあげようとおもって」


「ああ…」とサンドラは納得したような顔をするがすぐ、怪訝な顔をする。


「…リッド様の年齢で言うことじゃないですよ? 夫婦水入らずとか。普段の様子とか見ていると、何でしょう……そう、魂だけ成熟している感じですよね‼」


「ビシッ‼」とサンドラは腰に手を当てながら、僕に人差し指を向けている。


相変わらず、変に鋭くてヒヤッとすると思いつつ、僕は言った。


「そんなバカみたいなこと、あるわけないでしょ?」


「……そうなのですけどね。リッド様は規格外だからそういったこともありそうな気がするのです」


僕は平常心を保ってスルーに徹する。


「そんなことより今回、考えている魔法のことなのだけど、「思い出す」ことを魔法に出来ないかって」


「リッド様、私の発言を無視しましたね? まぁ、いいですけど。それより、面白いこと考えますね。「思い出す」ことを魔法にですか?」


サンドラは目がキラキラ輝きだした。


彼女は元々、魔法研究をずっとやってきている。


この手の話が大好物だ。


早速、僕は思い出す魔法について説明する。


 前世の記憶の知識で、脳に一度記憶されたものは永久に忘れることはない。


あくまでも脳の奥深くに眠っているだけという話があった。


それが真実かどうかはさておき、少なからず、人間は自らの体験を忘れることはない。


だけど、僕は転生したのに過去の記憶を持っている。


ということは、人の記憶は脳だけではなく魂にも前世の記憶が眠っているのではないか?と考えたわけだ。


では、どうすればその記憶を引っ張りだせるのか?


それを考えた結果、魔法で何とかできないか? という結論に至った。


そこで、試す前にサンドラにも意見を聞こうと思ったわけだ。


僕の話をサンドラは興味深く聞いている。


もちろん前世の記憶などの話はしていない。


ただ、人の記憶は頭ではなく魂にも刻まれるのではないか? 


魂の記憶を見る方法、もしくはそれに近い方法はないだろうか?


という投げかけをした。すると彼女は、眉間に皺を寄せながら呟いた。


「……生魔神道みたいな考え方ですね」


「せいましんどう?」


聞いたことがない。


道がついているから何かの宗教だろうか?


わかっていない僕に対して、サンドラは説明をしてくれた。


「生魔神道というのは、魔法学の中にある考え方のひとつなのですが、マイナーな部類になるので、一般的には知られていません」


そういうと彼女は、黒板に文字を書き始めた。


生魔神道とは


生命力は


魔力の源であり


神々に続く果てしない


道を示す



「こういう文字の書き方をするので、頭の部分を呼んで「生魔神道」って言うのですよ」


「へー、面白いね」


うーん。


こんな言葉はゲームの記憶にない。


そしてリッドにもゲーム以外の記憶にもない。


恐らく、魔法が昔から存在しているこの世界の哲学的なものだろうか?


でもこれが、相談したことにどう繋がるのだろうか? 


僕の不思議そうな顔に気付くと、サンドラはさらに説明を続けた。


「どんな考え方にも、その考え方に至る理由があったはずです。この「生魔神道」は魔力の源になる生命力が神に繋がる道にもなっていると考えています。つまり、リッド様の言う魂に一番近いかなと」


「なるほど……つまり、魔力変換をするときの逆をしてみるってこと?」


「考えもしなかったから、したこともないですけどね」


彼女は説明が終わると、僕の質問に肩をすくめて返事をした。


つまり、変換して作った魔力を生命力に戻すと、戻った生命力はどこにいくのか?


それが魂のある場所ということだろうか?


「とりあえず、やってみるか。魔力を生命力に戻す。その戻った、生命力の行く先が魂のある場所ってことだよね?」


「……どうなるか想像もつきません。無理はされないでくださいね」


「うん。わかった」


僕は何となく、地べたに座って座禅を組む。


その様子にサンドラが怪訝そうな顔をしていた。


僕は気にせず通常通りに魔力を作る。


魔力を感じたらそれを体の奥に入れ込んでいく、生命力に変換するために魔力を体の奥深くに入れ込んでいく。


だが、これといった変化は感じない。


とりあえずしばらく、してみることにした。


座禅を組み、前世でいう所の瞑想をしているみたいだ。


どれほど時間が経ったのか、ある変化が生まれた。


今までは魔力が何かに弾かれていたような気がしていた。


だが、魔力がほんの少し、本当に小さな穴に入っていく。


そんな感じがした。


これかな? そう思い、その穴に集中した瞬間、僕は意識を体の中に吸い込まれていく感覚に襲われた。


(あ、これやばい‼)


直感的にそう感じるも、何もできずに僕はその穴に吸い込まれていった。



「……ここは?」


僕が意識を取り戻して回りを見渡すと、そこは高い天井が吹き抜けており、辺り一面は円を描くように本棚で埋め尽くされていた。


恐らく建物は円柱の塔みたいな感じだろうか。


なんだろうここは?


そう思っていると、後ろから人の気配を感じて振り返ると、そこには銀色の髪と紫の瞳をした小さな子供がいた。


少しメルに似ているかもしれない。


そう思っていると子供はにこりと笑い、挨拶をしてくれた。


「やぁ、こんにちは」


「こ、こんにちは……ぼ、僕はリッド。き、君の名前を聞いてもいいかな?」


僕も慎重に言葉を紡ぎなから、様子を見る。


「うーん、そうだなぁ。じゃあ、「メモリー」でいいよ。記憶って意味だから僕にぴったりな名前でしょ?」


メモリーと名乗った子供は「クスクス」笑っていた。


「メモリーか、君は何者なのかな?」


「僕は君の記憶の化身。リッドは前世の記憶を出し入れしに来たのでしょ?」


なんだろう、メモリーはとても親近感を感じる。


少し懐かしい友人にあったようなそんな感じがした。


とりあえず、協力してくれるかな? と考え相談することにした。


「うん。記憶を好きに呼び出して使いたい。前世で言うネットみたいなイメージなのだけど、どうすればいいかな?」


ネット検索的な感じで、自分の記憶を検索できればかなり便利で良さそう、そんなことを思ってメモリーに話を聞いた。


僕の前世の記憶をもっているなら伝わるはずだ。


「ネットみたいは難しいけど、僕を通してくれれば大丈夫だよ」


「へ?」


メモリーの話を聞くと、この世界は本来入ってくることはできない。


だけど今回、僕は偶然この世界にいるメモリーを認識できた。


なので、次回からはメモリーを呼べばこの世界と繋がれる。


その時に必要なのはやっぱり魔力らしい。魔力でメモリーと繋がれば、この世界の情報をメモリーが僕にくれるということだった。


「この世界はリッドの魂の中にある世界で凄く繊細な場所だから、二度と来てはだめだからね? 必要なことがあれば、特殊魔法を使う感覚で僕の名前を呼んでくれればいいから」


メモリーはとても真剣にそして心配そうな顔で僕を見つめていた。


「わかった、ありがとう。じゃあ、そろそろ帰ろうと思うんだけど、どうしたらいいかな?」


僕はメモリーの言葉通り、この世界には来ないほうがいいそんな気がした。


メモリーは僕の言葉を聞いてにっこり笑うと別れの言葉を言ってくれた。


「うん、じゃあね」


その瞬間、僕は意識がなくなった。



「うわぁぁあああ‼」


「きゃあああああ⁉」


「ハァ…ハァ…あれ、ここは…?」


僕はメモリーに別れの挨拶をして、意識がなくなって……混乱していると、僕は目の前に尻もちを付いて目を丸くしたサンドラがいることに気付いた。


「……サンドラ、どうしたの?」


「……‼ どうしたの? ではありません‼」


サンドラは立ち上がると顔を真っ赤にしながら、言葉をまくしたてた。


 「実験を開始してからリッド様がずっと、静かにされていたので大丈夫かと思って、様子を見ていたら急に大声を出されたのでびっくりしたのです‼」


「そ、そうか、心配かけてごめんね」


彼女は僕の顔をまじまじと見てから、心配そうな顔して言った。


「お体は大丈夫ですか? かなり長い時間、静かに集中されていたのであえて声はかけなかったのですが、とても心配でした」


「そうか、心配かけてごめんね。でも、今回はさすがに失敗みたいだね」


僕は嘘をついた。あの体験はうまく説明できない。


生魔神道は多分、危険だ。


下手したら現実世界に戻れない。


そんな感じのする危ういところだった。


「……そうでしたか。お力になれず申し訳ありません」


「いやいや、大丈夫だよ‼ もともと出来ない可能性も考えていたからさ」


僕はシュンとする、サンドラにお礼を言うと、今日はここまでにしようと伝えて解散した。


その後、一人部屋に戻ると新しい特殊魔法を発動した。


(メモリー)


心の中でそう呟いてから、少しすると頭の中に明るく元気な声が響いてきた。


「やっほー、リッド。ちゃんと帰れたね。よかった~」


「メモリー、本当に繋がるのだね……」


自分で体験しておきながらなんだけど、本当に繋がると思っていなかったからびっくりだ。まさか、僕の中にいるメモリーと会話が本当に出来るとは思っていなかった。


「その感じ、信じてなかったでしょ~。まぁ、いいや。それで何を調べるの?」


「いや、メモリーに繋がるかなと思って、使ってみただけだから、今日は大丈夫」


「わかった。じゃあまた何かあれば呼んでね~」


「……」


通信が切れると僕は「ふぅ」とため息を吐いた。


そして、メモリーの存在について、少し思うこともあった。


でも、それは口に出さずに胸にしまうことにした。


こうして僕は、新しい特殊魔法で記憶を好きに引き出せる「メモリー」を人知れず使えるようになった。

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