第3話 転生(2)

僕が転生した「リッド・バルディア」は前世の記憶にあるゲーム「ときレラ!」に登場する脇役の悪役モブである。


「ときレラ!」はシンデレラストーリーなのでメインヒロインの邪魔をする役目のいわゆる悪役令嬢がいる。


その取り巻きの中にいる悪役モブの一人が僕「リッド・バルディア」だ。


本編だと名前が出てくるだけで立ち絵すら存在しない。


だが、最後は悪役令嬢の共犯者の一員として断罪され、裁かれる、追放される、戦争で戦死する、処刑、と散々な目に遭うのである。


リッドの名前はゲームに内では一文程度しか出ないのに。


僕は乙女ゲームの本編はあまりプレイしてない。


では、何故リッドのことを覚えていたのか?


それは「ときレラ!」のやり込み要素にある。


全クリ、フルコンプするとおまけ要素で「フリーモード」が登場するのだ。


その際「全キャラ開放」ということで本編に「名前があるキャラクター全員」の育成ができるようになる。


通常プレイ時には主人公キャラ達しか使えないという制約があるのだが、やり込み要素のフリーモードでは使えるキャラが大幅に増えるので楽しさが倍増する。


キャラごとに設定されているパワーバランスも絶妙で、これも本編がおまけと言われてしまった原因の一つだ。


そして、ゲームの「ときレラ!」で優先的に育成して使っていたのが、今の僕自身である「リッド・バルディア」だった。


「……リッドなら頑張れば、この先はなんとかなるかも知れない……‼」


布団から少し顔を出して天井を見つめながら、僕は期待に満ちた表情をしていた。


実は「リッド・バルディア」はフリーモードで「化けるキャラ」だからだ。


「ときレラ!」の世界においては「魔法」が存在する。


魔法を使用する為に重要となるのが「属性素質」と言われているものだ。


ゲームではキャラごとに属性素質は決まっており、リッドは初期能力こそ最低の設定をされているが、全種類の属性素質がある遅咲きタイプだ。


主人公達は成長補正があるので、比較的すぐに強くなれる。


彼らは属性素質の数が少なくて、使える魔法の種類が少ないのが特徴だ。


その為、隠し要素の攻略においては属性魔法の種類が足りずに難しい場面が出てくる。


だが、全属性魔法が使える鍛え上げたリッドがメンバーにいるだけで、隠し要素の攻略難度が大分変ってくる。


しかし、初期能力が低いので鍛え上げるのは非常に面倒なので、リッドを実際に使う人はやり込み派しかいなかった。


「地道にコツコツするのは好きだし、リッドなら属性素質も全種類あったはず。まずは、現状確認をして、今後の身の振り方を考えよう。とりあえず、悪役に関わらないようにして真っ当に生きていこう」


僕はそう決心すると、ベッドの近くに置いてあった鈴を鳴らした。


それから少しすると「失礼します」と黒髪でオレンジ色の瞳をした、小柄の可愛いらしいメイドが部屋に入ってきた。


ドアの前で軽く頭を下げて控えるような立ち姿をしているが、その様子は少しの怯えと緊張が伝わってくる感じがした。



「……そんなに、緊張しなくても大丈夫だよ。意識は戻ったけど少し確認がしたくてね。……僕は今年で7歳だったよね?」


「いえ、先月に6歳になられたばかりです」


「そ、そうだったね。あとね……」


自分の年齢、父親、母親、国の名前など確認していくと「ときレラ!」の世界であることを再認識していった。


「……リッド様、やはりお体の調子が良くないのではないでしょうか? よければ、再度お医者様をお呼び致しますが……」


彼女は不安そうな顔で僕を見ていた。


あまりに変な質問ばかりしたので心配させてしまったらしい。


「心配させてごめんね。なんか急に庭で倒れて気を失ったせいか、ちょっと不安になってね。大丈夫だよ。ありがとう」


僕の返事に彼女は、少し安心したようでホッとした表情を見せた。


しかし、やはり何か緊張というか怯えられている印象がある。


どうしたのだろう? 


と思った瞬間、リッドの記憶が蘇る。


軽い頭痛で、額に手をやると彼女が「リッド様?」と近寄り不安そうな顔で俺をのぞき込んだ。


そうだ、そうだった。


僕、リッドは最近だと何かあれば、すぐにメイドやら物に当たっていたことを思い出した。


「……僕は馬鹿だな」と静かに呟くと、彼女を見ながら優しく言葉をかけた。


「……心配ない。大丈夫だよ。それより、今まで辛く当たってごめんね」


僕の言葉を聞いて、彼女は目を丸くして驚いた表情をしていた。


「いえ、そんなことは……」


「ううん、僕が今まで皆にしていたことは、褒められたことじゃないと思うから……」


彼女の言葉に僕は、首を軽く横に振りながら返事をしていた。


「……お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」


言葉に戸惑いを隠せない彼女だったが、最初に僕に対して抱いた怯えと緊張した様子は少しなくなっていた。


「あ、そうだ。名前を教えてもらってもいい?」


「……ダナエと申します」


「ダナエ、いい名前だね。これからよろしくね」


僕は彼女との会話に首を少し傾けて「にこっ」と笑顔を見せた。


ダナエは僕の顔を見ながら「可愛い笑顔……」と小さく呟いたあと「ハッ」としてから頭を下げながら言った。


「し、失礼致しました‼ こちらこそよろしくお願い致します……‼」


可愛い笑顔か…… 確かに鏡台の鏡で見たリッドの顔は可愛かった。


きっと、笑顔も可愛いのだろうなと思うと可笑しさがこみ上げてきて「クスクス」と笑ってしまった。


その様子をダナエはきょとんとした顔で見ていた。


僕はあらかた質問を聞き終えると「ありがとう」と言ってダナエにペコリと頭を下げた。


彼女は僕のその様子に手をバタバタさせて、「頭を上げてください」と慌てていた。


ダナエが退室すると僕は次にすべきことを考えていたが、気付くと深い眠りに落ちていた。

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