9 君らしく、私らしく。

 君らしく、私らしく。


「先生。好きです」

 ともう一度、乙女は言った。

 二人は教室の中で、二人だけで、くっつくけた二つの机を境にして、向かい合うようにして、座っている。

「美山さん」古風先生が言う。

「はい」

 乙女は言う。

「僕たちは教師と生徒の関係です」古風先生は言う。

「はい」

「それに君は子供で、僕は大人です」

 そんなことを真面目な古風先生は言う。

 古風先生はいつものようにくせっ毛で(寝癖があって)銀縁の眼鏡をかけていて、よれよれの(いつも、柄の変わらない)ネクタイをしている。

 スーツの上に深緑色のセーターを着ていて、古い腕時計をその手首にしていた。

 乙女は高校の赤いスカーフの紺色の制服を着ている。

 乙女は確かに高校生であり、古風先生は、乙女の通っている高校の古典の先生だった。

 二人は恋をしてはいけない関係だった。

 本当にそうかそうではないかはわからないけれど、乙女もそれはいけないことだと思っていた。(だから、ずっと自分の気持ちを黙っていたのだ)

 でも、今はそんなことはどうでもよかった。

 今、『自分の目の前に自分の世界で一番大好きな人がいた』。

 だから自分の気持ちを相手に素直に正直に真っ直ぐに伝えようと思った。

 本当に、ただ、それだけだった。(もっと早く、自分の気持ちを古風先生に伝えていればよかったと思ったくらいだった)

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