「春山先生。私、一年生のころから、ずっと春山先生のことが好きでした」

 乙女は言う。

 その乙女の真っ直ぐな言葉を聞いて古風先生は驚いた顔をしてその体の動きが固まった。

 まさか自分が自分の教室の生徒に告白されるとは思っても見なかったのだろう。

 真面目な古風先生に思いつくのは、せいぜい、もしかして僕の転勤を悲しんで、教室のみんながサプライズのイベントでも計画しているのかもしれない、くらいのことだったのかもしれない。

 小学生、あるいは中学生くらいまでなら、確かにそうかもしれない。(乙女もそうだったかもしれない)

 でも、乙女は今、高校生であり、もう『自分は子供ではない』と思っていた。(古風先生はそうは思っていないと思うけど)

 ばさっという音がして、机の上から、古風先生が(せっかく)用意してくれた乙女のためのなにかしらの資料が床の上に落ちた。

「あ」

 と言って、その音をきっかけに金縛りから溶けた古風先生はその資料を拾い集めると、それを綺麗に整頓して、机の上に元の状態そっくりにして戻した。

 そんな古風先生の動きを椅子に座っている乙女はずっと、ただ見つめていた。

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