古風先生が学校からいなくなる理由は転勤だった。

 古風先生は(どんな理由なのかは知らないけれど)乙女のいる山奥の高校から、もう少し先にある海沿いの町にある高校に転勤になる、と言うことだった。

 それは春のころの話で、今が十二月だから、あと、大体三ヶ月くらいしたら、古風先生は学校から、(つまり乙女の前から)いなくなってしまうと言うことだった。

 そんなこと、乙女は全然知らなかった。

 乙女は勝手に自分が高校を卒業するあと一年間は、ずっと古風先生は(古典の先生として、乙女の教室の担任の先生として)学校にいるものだと思っていた。

 その話を纏から聞いた夜。

 乙女は自分の部屋でたくさん泣いた。

 とても、とても悲しかった。

 でも、次の日の朝がやってきて、いつものように朝起きて、学校に行って、そして古風先生と出会って、そして乙女は決心をした。

 それは絶対に言わない、と心に決めていた自分の『本当の気持ち』を、古風先生に伝える、というものだった。

 乙女は古風先生に、『あなたのことが好きです。ずっと、ずっと大好きでした』と、自分の気持ちを伝えて、もしできるのなら、古風先生と真剣なお付き合いをして、そして、古風先生の引っ越しをする海沿いの町にまで自分もついていこうと思ったのだ。

 そう決心をしたのは、古風先生の古典の授業を聞いているときだった。

 乙女の心臓はずっと、どきどきとしていた。

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