雪かきをしたあとの夕焼けの校庭の中をその長い黒髪をポニーテールにしている纏が陸上部のみんなと一緒に走っている。

 そんな風景を帰り支度をした乙女は、校庭の隅っこのほうから、ぼんやりと見つめていた。

 纏は小学校、中学校、高校とずっと陸上部に所属していた。

 纏は走ることが大好きだった。

 走ることが(というか運動全般が)苦手な乙女とは大違いだった。

 世界は夕焼けの日差しを大地の上に残っている真っ白な雪に反射をして、(目を細めてしまうほど)きらきらと輝いて見えた。

 その風景は乙女の今の気持ちとはまったく違うものだった。

「乙女。待ってなくてもいいよ」

 陸上部の練習をこっそりと抜け出して乙女のところにやってきた纏が乙女に言った。

「大丈夫。それに久しぶりに纏の走っているところ。もうちょっと見ていたい」とふふっと笑って、乙女は言った。

「本当? じゃあ、応援してくれる人がいるなら、今日はいつもよりも頑張っちゃおうかな?」

 乙女の言葉を聞いて、嬉しそうな顔をして纏は言う。

「うん。頑張って」

 乙女は言う。

「うん。頑張る」

 そう言って、纏は乙女に手を振りながら、陸上部のみんなのいるところに戻っていった。

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