第39話 海戦の続き

    残ったアメリカ艦隊は、空母ホーネット、ヨークタウンを含む艦艇で

    あったが、晃司は、この撃滅に思案し悩んでいた。

    それは南雲、草鹿も同じであり、この戦果を暗号で聞いた山本を

    始め宇垣、黒島等も同じであった。


    しかし、この艦隊の将校で恐らく一人だけ、はっきりとした意見を

    持っている者がいた。

    渋野忠和であった。


渋野忠和「山口少将、ここは一旦引くべきです」


山口多聞「えっ、なんと言った今、渋野大尉」


忠和「このまま攻めるにしても、敵の位置等が分からず、また零戦の

   数が、より多いほうがより消耗が少なく、長期的に見て戦争が

   続くならそのほうがいいです」


山口「と言うと?」


忠和「攻めるにしても、もっと零戦の数を補給してからでありますが、

   防御なら直掩に、零戦を全て使えます。

   また、このまま残敵を逃がし、残りのアメリカ艦隊を殲滅まで

   しなくても、もしトルーマンが大統領の地位にいるなら、

   アメリカだけで日本に勝利するには、アメリカ国力を

   もってしても一年以上かかるため、その間にトルーマン政権は

   フーヴァーなりに覆されるでありましょう。

   ゆえにこのままトルーマンが、大統領の座にいるつもりならば、

   世論の問題もあり、少数でも攻めてこざるを得なくなり、

   この場合、先に述べたとおり、徹底して防御に多勢が回ればよく、

   自ずと勝ちが転がって来ます。

   もしフーヴァーなりが、政権の実権を奪回するなら、戦力は少し

   でも残しておいた方が日本国のためであり、やはりここは

   攻める必要はないと思います」


山口「うーん、そうか。そう考えられるか、にしても引くべきとは、

   よくこの局面で思いつくものだな。

   ここは南雲中将に、一旦このことを伝えよう」


    この事を直接南雲に伝えるため、平文電報では流石に傍受される

    恐れがあり、山口は忠和を連れ、第一航空艦隊旗艦赤城に行った。


南雲忠一「どうした山口少将、渋野大尉」


山口「南雲中将そして皆さん、これは渋野大尉の案ですが、この提案を

   聞いていただけますか」


    山口は忠和の意見を、赤城の司令官、作戦参謀の皆に話した。


南雲「ここで引くと?草鹿参謀長、源田中佐、岡本少佐君たちはどう思う」


草鹿龍之介「逆転の様な発想ですが、私はこの意見に反対はありません」


源田実「私もこの渋野大尉の引くと言う所には、驚かされましたが、

    よくよく聞いてみると、その通りであり、反対のしようが

    ありません」


岡本晃司「私もまた、この案に賛成です。ここで引くと言う皆と違った

     発想を考えたのが、渋野大尉らしいと思います」


南雲「そうか、皆がそういうなら私も賛成しようではないか。

   この意見を山本長官の所へ、伝えなければならないが、暗号は

   使わない方がいいだろう。

   私が直接、渋野大尉を連れて大和まで行ってくる」


忠和「宜しくお願いします」


    このため南雲は、これを山本に伝えるべく、一旦水上偵察機で、

    主力部隊の大和まで、忠和を連れて行った。


山本五十六「どうしたのだ、南雲中将、忠和まで」


南雲「山本長官、これは渋野大尉の提案らしいのですが、

   聞いてもらえますか」


山本「なんだ?聞こうではないか」


    南雲は宇垣や黒島がいる中、山本に忠和の意見を述べた。


山本「ここで引くと言うのか。宇垣と黒島はどう思う」


宇垣纒「ここで引くと言うのは考えて見なかったですが、これも

    もっともな理屈でしょう。私は賛成です、長官」


黒島亀人「私も賛成ですね。ここにきて引くと言うのは、今岡本少佐が

     いないと言う事では、彼でも思いつかなかったことでしょう。

     また今の所や全面的には、肯定していい物か分からない

     ですが、その後の理屈も宇垣参謀長のおっしゃる通り、

     最もな気もします」


南雲「山本長官、黒島首席参謀も言う様にこれは、岡本少佐でも思い

   つかなかった見解で、第一航空艦隊の司令官、参謀もみな賛成です。

   もちろん、岡本少佐もです」


山本「そうか皆もそうか、黒島も晃司もそうなんだな。ではわかった、

   忠和の意見を取り入れ、ここは全軍撤退する」


    山本はこの忠和の意見を是とし、早速全軍撤退、日本への

    帰路についたのであった。


    日本への帰路についた連合艦隊であったが、その途中、

    主力部隊旗艦大和作戦室に晃司たちの正体を知る者たちが

    全員揃って話をした。


    晃司が到着するとほぼほぼ皆集まっていた。


晃司「山本長官、ただ今もどりました。皆集まっていたんですね」


山本「晃司、今すぐお前も会議に参加しろ」


黒島「岡本少佐、君はどう思う?このまま待つにしても、それまでに

   中国での一件がおさまってしまったらどうするんだ。

   どこにも全軍で出撃出来ないと思うが。

   渋野大尉に聞いたんだが、アメリカは近々攻めてくるか、

   政権が転覆するかなので、待っていれば九割方こちらの

   勝機が高まると言っている。

   しかし俺ははいわゆるその残りの、一割の可能性について

   思案を補完しておかなければならないと思うんだ」


晃司「確かにそうですね。言われてみれば特に完璧を期して作戦の

   完了ですもんね、黒島首席参謀」


黒島「例えばトルーマンは、中国の状況をもう知ることになり、

   このかたが付くまで攻めてこず、更に日本に勝つためには国力により

   戦力を増強されてからでなくてはならず、それまでを生産過剰の

   大国の資源の豊富さを生かし、その輸出入や、果ては密売等によって

   国民の支持を得、政権を維持する等の可能性が考え得るんではないか」


晃司「確かに。すぐにはアメリカ政権は転覆する可能性は、必ずしも高くは

   ないし、その間中国の情勢が穏やかになるまで攻めてくる可能性が、

   少ないのと違うか?忠和」


忠和「それならそれで、受けにこだわらず、こちらからアメリカを攻めれば

   いいんだ。

   皆が戦術レベルで、攻めに固執して考えがまとまらないところへ、

   俺が受けを提案してみたに過ぎず、これが政戦略ともにも

   完璧ではるはずはないだろ。

   そこは、後は、一人より二人、更には皆で考えたら

   いいんじゃないか?」


晃司「まあそれも最もやな」


山本「そういうことだ。皆で今後のこのについて、完璧な作戦になる様に、

   議論しよう」

 

  とすれば攻めるなら、いつどの国のどこを攻めるのが、最良の

  策かと言うのが、論点となったのであった。

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