第36話 密談

    岡本晃司と渋野忠和は、大和に戻って来た。

    ここでまた、世界情勢が動き出した。

    晃司と忠和は、史実以上にナチスドイツが降伏するのは、

    目に見えており、これより中国に、侵攻するよう提案した。

    

    しかしその頃、政治的に内戦状態にあったアメリカでは、

    トルーマンの勢力が拡大し、フーヴァーをカリフォルニアに

    追い込んでいた。

    ルーズベルトの思想を、強く受けていたトルーマンは、

    フーヴァーにとって代わり、事実上アイゼンハワーを傀儡

    として、これを牛耳った。

    

    それどころか更に、トルーマンは、アイゼンハワーはフーヴァー

    の息がかかっており、政治面でも思想面でも、アメリカ大統領

    としてふさわしくないと、世論を動かし、半ば強引に大統領選を

    行い、自ら出馬してアメリカ中地区、東地区で勝利をおさめ、

    アメリカ大統領に、就任したのであった。


    そして彼は、名目は枢軸国に参加しないまでも、実質ドイツ、

    中国に見方したのであった。

    政権を奪取したトルーマンは、再び軍事的にも、日本に攻勢の

    姿勢をとってきた。


    トルーマンの呼びかけで、オーストラリアは中立の立場をとった。

    アメリカは国力の大きさのため、この時期にも空母を主体に、

    軍艦の建造をすすめて、日本海軍連合艦隊とほぼ互角に渡りあう

    戦力にまでなっていた。


    日本海軍はトルーマン政権下の、アメリカと戦う方針をとった。

    晃司と忠和も中国攻撃の提案を撤回、日本軍の方針に率先して

    従った。


    ただし、今回は史実とは違い、日本の暗号は外務省から海軍、

    陸軍に至るまで解読は、されていなかった。

    晃司たちは、フーヴァーを信じ、日本の海軍暗号をフーヴァーに

    教えていた。


    これまでは、アメリカは中立のため、日本は連合国に軍勢を

    派遣でき、枢軸国の息は風前の灯であったが、日本軍は

    ヨーロッパへの艦隊派遣も出来なくなり、枢軸国はまた

    徐々に息を吹き返してきた。


    日本海軍はアメリカ海軍に備えなければならなかったが、

    力を盛り返してきた、枢軸国の中国の動きが気になり、

    どうしても全面的に、アメリカ海軍に戦力をあてることが

    出来ず、軍令部や連合艦隊は頭を悩ませていた。


    そこで晃司は、山本にある提案をした。

    この作戦は、晃司自身だけでなく、忠和も好むような内容では

    なかったが、日本の置かれた情勢上、思いつく手は、他に

    なかったのであった。


岡本晃司「山本長官、早速通訳を一人、こちらへやってくれませんか?」


山本五十六「いいだろう、では軍令部にすぐ連絡する」


渋野忠和「晃司、やはり軍隊っていうのも、綺麗ごとばかりでは

     事が運ばないな」


晃司「そうやな、でもこのくらいしか、今回は思いつかん。

   一花と井上さんが聞いたら、嫌われるかな」


忠和「2人には俺からもちゃんと、事情を説明しておくよ」


    そして山本は永野を通して、イタリアからムッソリーニを

    日本に連れてきた。

    忠和がムッソリーニの身辺調査や下調べ等を行っていた。

    ムッソリーニは飲んだっくれていた。


晃司「どうや忠和、この男使えそうか」


忠和「今回の作戦には、適任だろうな」


晃司「これからは、そのまま通訳して下さい」


ベニート・ムッソリーニ「最初からあの男、ヒトラーは俺を餌に、

            自分は世界征服を企んでいたんだ。

            なのに俺だけ捕まって、あいつは逃げ延びて

            のうのうとしてやがる」


晃司「いいかムッソリーニ、よく聞け、今回の作戦が成功すれば

   我々日本は、その権威の元において、お前に連合国として、

   イタリア首相の座につけてやろう。

   現在においては、連合国としてのほうが、より実質的だろう」


ムッソリーニ「連合国イタリア首相か、ふん、悪くはないな」


晃司「これから作戦を言う、よく聞いておけ。ムッソリーニ、お前の役目は、

   中国に赴き、近衛文麿と毛沢東の仲をさき、中国内部で内乱を

   おこさせろ」


ムッソリーニ「そんなことが出来るはずがない。あんた正気で言ってるのか?

       大ぼらを吹くのもたいがいにしなよ」


忠和「嘘ではない。ここに計画書がある。よく読んで見ると言い」


    ムッソリーニは半信半疑もいい所で、計画書を読んだ。


ムッソリーニ「こ、これは・・嘘だろ、こんな、こんな事が出来る

       はずがない。本当か?しかし、もし失敗すれば俺は

       殺される」


晃司「その時は・・死ね。よく聞けムッソリーニ、今のお前に生きる価値が

   あると思っているのか。かつてはイタリア首相まで上り詰めた

   お前だ、よくわかるだろ。

   毎日いつ処刑されるか分からない身で、アルコールに走り、

   ヒトラーの陰口ばかり叩いていて、何の意味がある。

   一時は汚名を背負うことになっても、またイタリア首相として、

   手腕を振るったほうがいいのではないのか?」


ムッソリーニ「・・そうだな、こうなったら徹底的に悪人になってやる。

       ははははは、やってやる、やってやるぞ、俺は」


晃司「もうこれ以上の通訳は、しなくていいです。ありがとうございました」 


    山本の元で、宇垣は連合艦隊参謀長として、この作戦書を

    ムッソリーニに手渡し、約束を保障した。


 戦時さなかだが、日本と中国の間で、連合国と枢軸国を代表して、

    中国からは、鉱物等の資源と連合軍の捕虜、多くは元ソ連兵、

    日本からは、かねてよりの枢軸国の捕虜、半数以上が、

    ニコバルの戦いにおいて日本が獲得した捕虜、これらを

    交換する調印がなされ、実行された。

    

    日本は捕虜を食わせる食料が少しでも減り、更に資源が獲得でき、

    一挙両得であった。

    

    そして、その捕虜の中にムッソリーニは紛れ込み、中国へ到着し、

    毛沢東と近衛一派を、政治的に対立させた。

    近衛派はクーデターを起こし中国は軍事的にも、内乱状態に突入する

    のであった。


    その内乱を起こさせる作戦は事前に山本、宇垣、黒島、晃司、忠和

    によって立案されていた。

    この内容は、主に黒島と健司が立案し、他の将校が補完した

    ものであった。


    日本側にとってはこのクーデターは、アメリカとの海戦のための、

    後顧の憂いを断つ為のものであり、別に成功する必要はなかった。

    つまりは、少なくとも今回の、アメリカとの大規模な海戦が、

    終わるまで続けばよく、クーデターによる国力の低下が期待でき、

    あわよくばアメリカの政権の実権が、アイゼンハワーなり、

    フーヴァー自身なり、トルーマンから奪回出来れば

    よかったのであった。

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