第34話 昇進

    南雲は、今回のフランス解放については、晃司と忠和の功績が

    多大とし、山本に報告し、書面による詳細文を、二人にもたせ、

    山本は、二人を軍令部の、永野に会わせた。


永野修身「これはかなりの功績だよ。連合国軍を勝利に導いただけでなく、

     我々日本軍の、力と名誉を、世界に広めたんだ」


岡本晃司「ある程度までは、結果的には史実通りの展開でしたので、

     我々も読みやすかったです」


渋野忠和「確かにその場で、詳細は煮詰めましたが、私と晃司はこうなる

     可能性が高いと読み、事前に作戦を練っていたんです」


永野「そういう事か。これは二人とも昇進を考えねばならんが、

   渋野君の方は、我々で何とかできるが、岡本君は佐官である為、

   海軍省に事実と昇進について連絡、要請せねばならん。

   今回だけで昇進かどうかは、まだ分からんが、やってみるとしよう。

   渋野君については、伊藤次長に掛け合ってくる。

   一緒にきたまえ、二人とも」


    永野は、晃司と忠和を連れ、伊藤の執務室へ入った。


永野「伊藤次長、これは山本長官から預かった、南雲中将からの

   詳細報告書だよ。読んで見てくれたまえ、岡本君と渋野君が

   全て二人で考案した作戦の結果だ。

   今回は渋野君の昇進を考えねばならん」


伊藤整一「永野総長、ではお見せ下さい」


    伊藤はじっくり南雲の詳細文を読んだ。


伊藤「これはかなりの出来だ。ここに書いてある様に、史実を予定して

   作戦を立てた様に書かれているが、そうだったのか」


晃司「ええ、今回はある程度、最初結果的には史実通り事が進みました」


忠和「私たちは、最初のある程度の結果的な、史実に基づき、大局を想定して

   いたため、臨機応変の処置がとれた次第です。

   詳細以外は、事前に二人で策を練っていました」


伊藤「そうか、それ以外は君たちが立案した作戦というのだな。

   たいしたもんだ、渋野中尉は昇進確実だ。

   追って辞令を渡す、控室に待機していたまえ。

   岡本少佐のほうは、海軍省に具申しなければならない。

   我々も手を尽くすが、今回については、まだどうにもわからない」


晃司「ええ、それについては、永野総長からも伺っています。

   渋野中尉の辞令を待ってから、大和に帰って待っておきます」


伊藤「そういう事です、永野総長。この二人を待機させておきましょう」


永野「そうだな、とりあえず君には最低限この書面を見せねば

   ならなかったので、寄った次第だよ、伊藤次長。

   ワシらは部屋へ戻るよ」


伊藤「はい、総長」


    永野は、晃司と忠和を、再び自分の執務室へ連れて行った。


永野「まあ伊藤次長には、最低限の事はした。聞いての通りだよ、

   渋野君の昇進は確実だ。

   二人とも待機室で待ちなさい」


晃司「はい、総長。私の事はどうかお気になさらずに」


永野「済まないな岡本君、渋野君は昇進おめでとう。二人とも案内を

   付けるから待機室で待ってくれたまえ」


忠和「ありがとうございます、総長。今回の作戦は当然私だけでなく

   岡本少佐も立案に参加したことを、またもう一度、伊藤次長に

   申告して下さい」


永野「うむ、分かった。では二人とも今から案内を呼ぶから

   待機していなさい」


    永野は案内をつけ、晃司と忠和を、待機室へやった。

    次の日、晃司と忠和は、永野の執務室へ呼び出された。


永野「これが正式な辞令だよ、渋野君。受け取ってくれたまえ」


忠和「ありがとうございます、総長」


晃司「私からも礼を言います、ありがとうございます」


永野「今回も軍用機を用意するよ、今回のワシらの役目は終わったよ。

   気をつけて帰ってくれたまえ」


晃司「ありがとうございました、総長」


忠和「今回もお世話になりました、総長」


晃司「では私たちはこれで失礼します」


忠和「失礼します」


    晃司と忠和は、軍令部を後にして、大和への帰路へ、

    ついたのであった。

    後に山本は、特に突出した参謀の能力として、奇想天外常勝の

    岡本晃司、堅牢堅実不敗の渋野忠和の異名をつけて呼んだ。

    この異名は瞬く間に日本海軍中に広まったが、これには流石の

    黒島亀人も、少し嫉妬せざるを得なかったくらいであった。


山本五十六「帰ったか、晃司、忠和。どうだ二人とも昇進の方は」


忠和「自分は大尉に正式に昇進しました。辞令も受け取ってきました」


晃司「僕は海軍省の管轄なので、軍令部からは出来るだけ、後押しして

   くれるらしいです」


山本「そうか、忠和は大尉に昇進したか。晃司の方は海軍省からの

   連絡待ちという事だな」


晃司「はい、長官。僕の方はそう簡単には行かないでしょうね」


忠和「今回の作戦立案は晃司と自分が、二人して立案したもので、

   晃司の功績も、大々的に軍令部の方に、言ってきましたが」


山本「そうか、しかしお前らが組むと、世界まで動かすんだな、

   いやはや、大したもんだ」


晃司「長官、結果的に今回はある程度、史実通りになりました。

   それを知っていたから事前に、手を打てただけですよ」


忠和「連合軍の方にも、我々日本には未来が予知出来る人間が、

   現場に二人いることを、改めて通達しましたし」


山本「そうか、晃司の方はまだ分からんが、忠和の件についてだけでも、

   皆に挨拶してこい」


晃司「はい、長官」


忠和「では行ってきます、長官」


    晃司と忠和は、艦橋の人間に、挨拶をしに行った。

    二人が歩いていると、宇垣が声をかけてきた。


宇垣纒「どうかね、大尉に昇進したかね?」


忠和「はい、宇垣参謀長、正式に大尉になりました。辞令も受け取りました」


宇垣「そうか、おめでとう渋野大尉。で岡本少佐の方は

   どうなったのかね」


晃司「私の方は海軍省の反応待ちです、宇垣参謀長」


宇垣「そうか、でも今回は二人で作戦を立案したんだろう。

   長官も言っていたよ」


忠和「そのことについても、軍令部の方へ、私から念を押しておきました」


宇垣「そうか、岡本少佐も、昇進出来ればいいんだけどね」


晃司「私の方はまだ分かりませんが、そこまでは甘く考えていません。

   まあ他の方々にも挨拶してきますので、この辺りで

   私たちは失礼させて頂きます、宇垣参謀長」


宇垣「そうだね、他の人にも宜しく言っておくといいよ」


忠和「では失礼します、宇垣参謀長」


    晃司と忠和は、宇垣に挨拶を済ませた後、艦橋内を歩いていると

    黒島が声をかけてきた。


黒島亀人「よう渋野元中尉、大尉に昇進しただろ?もちろん」


忠和「どうも、黒島首席参謀。ご挨拶に伺おうと思っていたところです。

   今軍令部より戻ってきて、ありがたく大尉への昇進の、辞令を

   受け取ってきたところです」


黒島「そうか、渋野大尉。堅牢堅実不敗の渋野忠和殿だもんな、

   これには俺も下をまいたぞ」


忠和「恐縮ですよこれには、それに黒島首席参謀にも」


黒島「いやいや、で奇想天外常勝の岡本晃司殿の方はどうかな」


晃司「私も恐縮しますよ、黒島首席参謀。私の方は、海軍省の連絡待ち

   ですが、そう甘くはないと考えていますよ」


黒島「そうなのか、岡本少佐。今回は二人して作戦立案に

   あったったんだろう」


忠和「その辺は私の方からも、軍令部へは後押ししておきましたが」


黒島「そうか、今回もし昇進が見送られてもかなりの実績に

   なっただろうな。まあ二人ともこれからも頑張ってくれよ」


晃司「ありがとうございます、では私たちは、この辺で失礼させて頂きます」


忠和「失礼します」


    晃司と忠和は、その場を離れ、艦橋内を一通り挨拶に回ってから

    山本の元へ戻った。


山本「艦橋内の挨拶は、終わった様だな。二人とも今度も、園田中尉と

   井上少尉に、挨拶を兼ねて会いに行ってきたらどうだ」


晃司「お気を使ってくださりましてありがとうございます、長官」


忠和「いつも色々考えて頂き、ありがとうございます、長官」


山本「なあに、部下の精神的健康面も考えるのも、仕事と思って

   いるからな。では行ってこい二人とも」


晃司「ありがとうございます、では行って参ります」


忠和「では失礼します」


    晃司と忠和は、時間を合わせて大和を後にして、海軍兵学校へと

    向かったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る