第28話 渡米

    この当時の世界情勢であるが、世界は実質、ソ連とドイツの

    戦争状態であった。

    しかし富国強兵を完全に終わらせたイギリスが、事実上ドイツに、

    軍事攻撃を仕掛けたのであった。


    これはドイツ、イタリアの枢軸国に加盟した中国に対する、

    日本による影響でもあった。


    ただ名目上も中立を確約したアメリカは、連合軍に参戦する

    ことができなかった。

    更には、共産主義に寛大であったアイゼンハワーは、堂々と

    中国に軍用、民間用の航空機の輸出を行っていた。


岡本晃司「山本長官、少し僕に考えがありますので、提案したいのですが」


山本五十六「どうした、なんだ言ってみろ」


晃司「日本に対する、中国の動向もさることながら、世界が混とんと

   してきました。最終的に世界大戦を終結させる為に、

   アメリカの力が、必要であると思います」


山本「それはそうだがな、名目上も中立の立場をとっているからな」


晃司「アメリカに連合国への参加、そして戦争への参入を促してみましょう」


山本「しかし、どうやる?」


晃司「とりあえず僕が、フーヴァー所長に会って来ます」


山本「連合国への参加自体、させれるのか?」


晃司「やるだけやってみます。僕をアメリカにやって下さい」


山本「まあ、やってみてくれるか」


晃司「成功するかどうかは、ほとんど確信がありませんが、

   とにかくやってきます」


山本「うむ、分かった。何かいるか?」


晃司「これにつき山本長官の、直筆の書面を下さい。同じく永野総長の

   書面ももらってきますので、一旦軍令部に行かせてください。

   その足でアメリカに渡ります」


山本「うむ、わかった。ちょっとまっとれ」


    山本はフーヴァー宛に、アメリカの連合国参加と、戦争への

    参入への嘆願書を書いた。


山本「書いたぞ、これをもっていけ。で、一旦軍令部へ寄っていくんだな」


晃司「はい、そうします」


山本「あと、この艦隊は出航する可能性も高いから、この港に潜水艦を

   一隻おいていく。もし出航したらその潜水艦で戻って来い」


晃司「わかりました、長官」


渋野忠和「俺も同行しようか?晃司」


晃司「まあ危険はほぼないとは言え、今回は念のために、俺一人で

   行ってくるわ。忠和、お前は長官についていてくれ」


忠和「そうか分かった、気を付けて行って来いよ」


晃司「なら長官、今から早速、軍令部経由で行ってきます。

   通訳も必要ですし。あと長官からこの件、

   永野総長に一報お願いします」


山本「うむ、わかった。宜しく頼んだぞ」


晃司「行って参ります」


    晃司は、大和を出て軍令部へ向かった。

    そして軍令部へ着き、永野の執務室へ入った。


晃司「岡本です、入ります」


永野修身「おお岡本君、聞いておるぞ。フーヴァーを説得しに

     行くらしいな」


晃司「ええ、まあうまい事行けばいいんですが。今回は大して

   策はありませんから」


永野「まあ無理でも、失敗っていう事は無いだろう」


晃司「ええ、でそのためのフーヴァー所長宛ての書面を、総長直筆で

   書いて頂きたく、こちらへ来たのですが」


永野「うむ、それも聞いておったから、もう書いてあるぞ。これだ」


晃司「ありがとうございます。あと通訳を一人お願いします」


永野「やっぱり通訳だけでも、陸軍になるな。長田大尉か加古川中尉

   あたりが居たら、頼んでみよう」


晃司「長田さんか加古川さんに通訳してもらえるんですか?」


永野「いたらだがな。いまから参謀本部に連絡してみる、

   ちょっとまってくれ」


    永野は陸軍参謀本部に連絡して、長田が任に就ける旨、報告を受けた。


永野「長田大尉が来れるらしい、彼に同行してもらう」


晃司「長田さんにわざわざ、来てもらえるんですね」


永野「うむ、近くに居るらしいから、すぐ来れるらしいぞ」


晃司「分かりました、しばらくどこかで、待機したいのですが」


永野「ここでいいだろ、話をしながら待っておこう」


晃司「はい、それなら」


    永野と晃司は話をしながら、長田を待った。

    そして長田が到着した。


長田仁志「長田仁志入ります」


永野「来てくれたな、長田大尉」


長田「ご無沙汰しております永野総長、岡本さん」


晃司「お久しぶりです、長田さん」


永野「今回は悪いが簡単な通訳だよ。フーヴァー所長との」


長田「フーヴァー所長ですか、渡米ですね。丁度任務もなくて時間を

   持て余していたところです」


永野「そうか、岡本君が説得してアメリカの連合国への参加と、戦争への

   参入を促すということだよ」


長田「そうですか、それは大変な仕事ですね、岡本さん」


晃司「まあ今回は無理でも、仕方ないくらいで行きますんで、

   そんなに責任は無いですよ」


長田「まあそうですけど」


晃司「では総長、我々は早速渡米しますので、行って参ります」


永野「うむ、気をつけてな」


    晃司と長田は、私服に着替え準備を整え、軍令部を後にした。


晃司「ここが国際船の手続きを行う所ですね」


長田「ですね、行きましょう」


晃司「ええ」


    晃司と長田は船に乗り、一週間程かけて、

    カリフォルニアまで渡米した。

    港から陸路をたどってスタンフォード大学の、

    フーヴァー研究所まで行ったのであった。


長田「ここは久しぶりですね」


所員「待ちなさい(Wate)」


長田「あなたは、お久しぶりです。私たちを覚えていないですか?」


所員「お前たちか、久しぶりじゃないか。どうしてここにいるんだ?」


長田「丁度良かったです、私たちフーヴァー所長に用があって参りました」


所員「フーヴァー所長に?」


長田「ええ、宜しければ、お取次ぎ願いたいのですが」


所員「お前たちなら問題ないだろう、ちょっと待っていろ、

   フーヴァー所長なら、中にいるはずだ」


長田「ありがとうございます」


    所員が中に入って、フーヴァーに連絡して、以前の日本の

    若者たちが来たと伝えた。

    フーヴァーは仕事中であったが、晃司達が来たと思い、今会おうと

    伝えるよう、所員に言った。


所員「所長は今仕事中だったが、以前の日本の若者たちが来たと

   言ったら、早速会うと言われた」

    

長田「お連れして頂けますか?」


所員「いいだろう、こっちだ」


    所員は休憩室で待機していたフーヴァーに、

    晃司と長田を引き合わせた。


晃司「ありがとうございます」


長田「お久しぶりです、フーヴァー所長」


晃司「お久しぶりです、フーヴァー所長」


ハーバード・フーヴァー「おお、君たち久しぶりだなあ」


晃司「長田さん、通訳お願いします」


長田「はい」


晃司「フーヴァー所長、申し訳ありませんが、お人払いをお願いできますか」


フーヴァー「うむ、君は下がっていいぞ、問題ない」


所員「大丈夫そうですね、では失礼します」 


    所員は退室していった。


フーヴァー「久しぶりではないか、岡本君。どうしておった」


晃司「元気してましたよ所長。所長もお変わりないようで」


フーヴァー「まあな、なんとかやっている」 


晃司「フーヴァー所長、今回はお願いがあって、参りました」


フーヴァー「聞こうではないか」


晃司「はい、単刀直入に申し上げます。アイゼンハワー大統領に

   アメリカの連合国への参加、そして戦争への参入そして、

   中国への航空戦力や武器弾薬の輸出の全面撤廃の説得を、

   お頼み申し上げたいと思います。

   これは世界大戦の終結に我々は尽力しようと、思っていると言う

   理由です、所長」


フーヴァー「うむう、私も以前君に、核戦争の危機を訴えられてから、

      色々考えていたんだよ。何かアイゼンハワー大統領を、

      説得できるものはないかなと」


晃司「それなら所長、我が日本国の海軍軍令部総長永野修身大将と、

   海軍連合艦隊司令長官山本五十六大将の書面があります。

   是非こちらをお読み下さい」


フーヴァー「これか」


    書面にはドイツ、イタリアに攻勢にでる様、日本がイギリスや

    ソ連に艦隊等の軍を、派遣することを、永野や山本が吉田首相に、

    具申する内容が書かれていた。


フーヴァー「こういう内容か」


晃司「以前からフーヴァー所長にお聞き入れ頂いている様に、

   ドイツやイタリアが核兵器を持ち、世界が

   核戦争状態へ突入しては、大変です。

   それ以前に、手を打たなくてはなりません」


フーヴァー「うむ、私も同じことで頭を悩ませていたよ、岡本君。

      この内容には、私は肯定するよ。

      アイゼンハワー大統領には更に核戦争の危機を訴えて

      公言する様、言ってみる。

      世論が動けば、アメリカも連合国に参加できるかもしれん」


晃司「それに先立ち、我々は吉田首相をこの案に賛成する様して、

   日米英ソ豪加首脳会談を行う様に説得してみますので、

   フーヴァー所長は、まずこのアイゼンハワー大統領の、

   日米英ソ豪加首脳会談の説得にあたるようお願いできます

   でしょうか」


フーヴァー「日米英ソ豪加首脳会談か。それが開催出来ればアメリカ合衆国の

      連合国参加も、そう難しくないだろう。

      アイゼンハワー大統領の説得をやってみよう」


晃司「宜しくお願い致します、フーヴァー所長」


フーヴァー「こちらこそ、また有意義な時間を過ごせたよ、岡本君」


晃司「ありがとうございます。お互い全力を尽くしましょう」


フーヴァー「うむ、帰りは港まで車を手配するよ」


晃司「またお世話になります」


フーヴァー「では私は、仕事にもどるがいいかね」


晃司「はい、では私共も、失礼します」


    晃司と長田は手配してもらった車で港まで行き、船に乗り

    日本への帰路についた。

    その際、晃司は長田に礼を言い、別れたのであった。

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