第26話 提供

    一花と胡桃は女性士官、女性下士官の教育に明け暮れていた。

    そこに週末、講義が終わった後、二人は草鹿に呼び出された。


草鹿任一「今日もお疲れの所、呼び出してすまない。二人に話がある」


園田一花「はいなんでしょうか、校長」


草鹿「実は命令書にもあったように、軍令部から二人へ静岡の

   牛尾実験所への、出向命令がでたんじゃよ」


一花「ああ以前から伊藤次長に言われてましたから。

   でも出向ですか?」


草鹿「出向といっても、二人が要件を伝えて任務を果たせばいつでも、

   もう帰ってきていいと言う事じゃよ」


井上胡桃「例えば、一日でもですか?」


草鹿「まあそうなれば、そういう事じゃな」


一花「分かりました。それで私たちは牛尾実験所の場所もわからないですし、

   伊藤次長に、軍令部から案内の方が来られるようなことを、

   伺っていますが」


草鹿「そうじゃな、軍令部より案内の下士官が静岡駅まで来るらしい。

   静岡駅で待ち合わせということじゃよ」


胡桃「で、いつからと言う事ですか?」


草鹿「もう早速来週から、ということじゃよ」


胡桃「急ですね。私たちも学校のほうが急には、なかなか手が

   離せにくいんですが」


草鹿「まあそこは変わりの教官がなんとかするよ」


一花「なんとかそれで間に合わせてもらえれば、来週すぐにでも

   ここをたてますが」


草鹿「出来ると思うよ。だからそういう事で頼むよ、二人とも」


一花「分かりました、私はそれで大丈夫です。胡桃はどう?」


胡桃「まあ私もなんとかなるかな」


草鹿「じゃあ月曜の朝、ここをたってくれんかの」


一花「はい」


胡桃「いいですよ」


草鹿「では、軍令部の方に一言入れとくから、待ち合わせの下士官と、

   落ち合ってくれ」


一花「わかりました」


胡桃「承りました」


    一花と胡桃は、次のあくる週の月曜に出発して、次の日に

    静岡駅についた。

    そして待ち合わせていた下士官と会い、島田市の牛尾実験所に

    向かい到着した。


津田真「初めまして、牛尾実験所所長の津田真と申します」


一花「初めまして、海軍兵学校所属の園田一花中尉です。

   軍令部の命によりこちらに参りました」


胡桃「同じく井上胡桃少尉です、お初にお目にかかります」


一花「どうか私達のことは津田所長を始め、みなさんに階級ではなく

   さん付けくらいで、呼んで頂くようお願いします」


津田「そうですか、では園田さん、井上さんこちらです、

   中にはいてってください」


   一花と胡桃は、機密にあたる箇所以外の実験所の中を、案内された。 


津田「まあざっとこんなもんです」


一花「私たちにはとても難しい事やってるように見えますよ、所長」


津田「そうですか?お二方は軍令部の命で、こちらに派遣されたんでは

   ないんでしょうか」


一花「そうですね、軍令部で技術試験も受けました」


津田「そうなんですね。では何か案があれば承りたいのですが」


一花「現在の軍では電波兵器の向上等の要望が高まっています」


津田「それは一応存じています」


胡桃「では提案したいのですが、これから言うことは私たち二人の発案だと

   言う事を、津田所長の権限で一筆書いて母音も押して

   頂きたいのですが」


津田「ええいいですとも、何なりと書きましょう」


胡桃「では提案します。マイクロ波を用いた電波兵器の開発を

   提案します」


津田「マイクロ波?」


胡桃「はい。かなり高周波の事です所長」


津田「高周波ですか」


胡桃「人体に向け照射し、人体の発熱により、その行動力を

   低下させる、非殺傷兵器としての開発や、電子機器へ照射し、

   過電圧・過負荷により電子チップを破壊する方式です」


    ここで、現在におけるマイクロ波の、平和利用について

    述べておきたい。

    マイクロ波の平和利用の代表例に電子レンジがある。

    まず物には、固有振動数と言うのがあり、これは構造物が

    持つ固有の共振周波数のことである。

    この周波数では、一旦外力が生じると、外部から力を

    加えなくても、自分自身だけで振動し続けると言うものである。

    電子レンジでは、水の固有振動数と同じ周波数のマイクロ波を

    照射して容器を透過し、中の水分を沸騰させ温める。

    このため食器に入れた、中の食べ物だけ温まり、それ以外は

    そのままと言うものである。 


津田「これはかなりの高周波ですね。その出力装置の開発も、

   必要になってきますね」


一花「これが私たちの知る限りの、マイクロ波の理論です」


    瞳はマイクロ波の数式等が書いた書面を、津田に手渡した。


津田「こんな理論、どこで学ばれたんですか?」


一花「その辺は、あまり詮索して頂かない様にお願いしたいのですが」


津田「そうですか、わかりましたそう致します」


一花「すみません、所長」 


津田「いえいえ、ではこれに沿って開発を進めてみましょう」


一花「宜しくお願いします。私たちはこの辺で失礼したいと思います」


津田「帰られるのですか?」


胡桃「あ、所長すみませんが一筆お願いしますね」


津田「ああそうでした」


    津田はマイクロ波技術の提案と理論の提供について、

    一花と胡桃の提案であると書き一花に渡した。


一花「ありがとうございます、所長」


胡桃「開発が成功すれば、私たちの方にも連絡を頂けたら嬉しいです。

   その折はマイクロ波とは言えないので、波で結構です」


津田「分かりました。海軍兵学校の方へおられるんですよね」


一花「そうです。そこで教官をしておりますので、学校長か誰かに言って

   頂ければ宜しいかと」


津田「そうしますね」


一花「では私達はこれで失礼しますね。色々ありがとうございました、

   津田所長」


胡桃「ありがとうございました、所長」


津田「こちらこそ、また機会があれば宜しくお願いします」


一花「はい、それでは」


    一花と胡桃は、牛尾実験所を後にして、海軍兵学校への

    帰路に、ついたのであった。 


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