第24話 戦いの傷

    3月上旬、渋野忠一は旗艦大和に帰還した。


渋野忠和「ただ今戻りました、山本長官」


山本五十六「おお忠和、お前の働き暗号電文で聞いているぞ、

      大勝利だったそうじゃないか」


岡本晃司「やるなあ忠和、どんな作戦をとったんや?」


忠和「山本長官、晃司に言われて今思い出しましたが、細萱中将から

   今回の作戦と戦闘の件について詳細を書面で、山本長官に

   渡すよう預かっています。これを手渡します」


山本「おお受け取っておこう。ちょっと作戦室に行こう」


    3人は作戦室へ移った。そして山本は細萱からの書面を

    じっくり読んだ。


山本「こんな内容で、ここまでの勝利を獲得したのか。防衛に成功した

   だけでもなんとか将校にはしようと考えていたが、これで中尉は

   問題ないな。

   それにこの全作戦ここまで、綿密に考えておったのか。

   晃司、この書面を読んで見ろ」


    晃司は山本から書面を受け取り、その内容をじっくり読んだ。


晃司「流石は忠和や、ここまでやるとはな。ほんとにお前の細かさには

   驚くぞ」


忠和「そこまで褒めないでくださいよ、長官、晃司もだよ。

   長官、失礼ながら今日は体調がすぐれませんので、

   寝室の方に行って宜しいでしょうか?」


山本「そうか、せっかく宇垣と黒島も呼ぼうとしていたが、

   そういうことならしかたがない、いいぞ許可する」


忠和「では失礼します」


    忠和は寝室に行き寝ようとしたが、寝れなかった。


晃司「長官、ちょっと気になることがあります。一旦忠和の

   所に行って来ていいでしょうか」


山本「いいが、ひょっとして晃司、あいつお前が初陣の後になった

   様なことになったって感じか」


晃司「そうかもしれません。なのでちょっと行ってきます」


山本「分かった、お前はまた戻って来い」


    晃司は寝室に向かい忠和の所に行った。


晃司「忠和、起きてるか?お前様子がどうもおかしいから、見に来たぞ」 


忠和「晃司か、他に誰もいないな」


晃司「おらんぞ、俺だけやここには」


忠和「体調が悪いって言うのは嘘なんだ。晃司お前はこんな罪の意識に

   さいなまれて大丈夫だったのか?しかも同じ黄色人種アジア人だぞ」

   

晃司「それ以上言わんでもわかるぞ、俺も同じ様な経験をしたからな。

   忠和、お前にはその傷をいやしてくれる人がいるん違うのか?

   俺にはいたぞ」


忠和「晃司、それでお前、園田さんのことを」


晃司「まあ俺の方は特にそれが決め手でな。一花の方は俺のどこが

   気に入ってくれたのか、未だに聞いていないけどな」


忠和「お前それでなんとか救われたのか?」


晃司「まあ俺の場合はな、とりあえずまた今から4人で会お。

   俺は一旦、長官とこに戻らなあかんから行ってくるわ」


忠和「分かった」


    晃司は山本の所に戻った。


晃司「長官、やっぱり長官の思った通りでした。僕の初陣の時と

   同じでした」


山本「そうか、折角こんな大勝利なのにもったいないし、

   困ったもんだな」


晃司「長官、僕たちをまた4人で会わせてください、何とかなる

   かもしれません」


山本「それはいいが、晃司お前の時は、俺は園田中尉に会わせたな、

   ひょっとして」


晃司「すみません長官それ以上は。それと極力このことは忠和には

   内緒でお願いします。

   忠和は長官がこのことに気づいていないと、思っていると

   思いますので」


山本「分かった、極力本人にも口にしないでおこう。まあとにかく

   いいだろう行ってこい。

   あそうだ、これは言わなければならないところ、お前にも

   言い忘れていたが、井上少尉の先の提案が国会で可決し、

   園田中尉と井上少尉は今、江田島の海軍兵学校にいる。

   仕事中だろうが、晩には仕事を終えると思う」


晃司「そうでしたか、あの提案が国会で可決されましたか。

   わかりました、海軍兵学校に向かいます。

   では長官、一旦失礼します」


    晃司は忠和の所に再び行った。


晃司「忠和、4人でまた会おう。今山本長官に許可をもらったところや、

   今から行こうや」


忠和「分かった。しかし体調が悪いと言った手前今日はまずい、

   明日でいいか?」


晃司「ああそうやな、じゃあ明日行こう」


    晃司は再び山本の所に戻った。


晃司「長官、忠和は今日は体調が悪いと言った手前、行くのは

   まずいから、明日行くと言ってますんで明日行きます」


山本「そうか、晃司、忠和を宜しく頼む」


晃司「はい、でも僕ではまずどうにもならないので、明日どうにか

   なるように仕向けてみます」


山本「頼んだぞ」


    そして夜が明け次の日。


山本「忠和、体調のほうは大丈夫か?」


忠和「ええまあ、長官また4人で会わせてもらえるんですよね」


山本「ああいいぞ、お前の方も、井上少尉の方も成功したからな。

   皆でお祝いでもしてこい」


忠和「ありがとうございます」


晃司「では長官、僕らはそろそろ行ってきますので」


    晃司と忠和は大和を後にして、海軍兵学校へ向かった。そして

    到着して、警護にあたっている下士官が、声をかけてきた。


下士官「ここは御覧の通り海軍兵学校です、いかなるご用件で

    来られたのでしょう」


晃司「私は山本五十六大将直属の、岡本晃司少佐です。

   彼は同じく渋野忠一中尉です。

   まず学校長にご用件があって、お会いしたいのですが」


    下士官は、晃司の階級章を見た。


下士官「あなたが岡本少佐ですか、これは失礼を、取り次ぐ必要も

    ないと思いますので、どうぞお通り下さい」


    晃司と忠和はまず、草鹿任一学校長の所に行った。


晃司「校長、ご無沙汰しております」


草鹿任一「おおこれは岡本君と渋野君じゃないか、どうしたのかね」


晃司「訳あってまた、園田中尉と井上少尉に会いたいのですが、

   案内してもらえないでしょうか」


草鹿「ああ二人ならこっちじゃよ、二人の事は聞いているね。

   今日は教育も終わり寝室にいると思う」


    草鹿は晃司と忠和を、一花と胡桃の寝室の前まで連れて行った。


草鹿「では私はここで失礼するね」


晃司「すみません。用事が終わるとまた校長のところに、

   色々お話しをしに、伺いますので」


草鹿「そうか、ゆっくりしていきたまえふたりとも。

   では一旦これで」


    草鹿はその場を離れ、晃司は一花たちの寝室をノックし、二人で

    部屋に入った。


園田一花「晃司さん、渋野さんも来ていただいたのですね」


井上胡桃「おかえりなさい渋野さん、あれから二か月まだ経って

     いないので、作戦は成功したんですね」


忠和「ただ今、うんまあ」


晃司「ここで詳しいことを話そう」


    晃司は細萱の書いた書面の、忠和が今回とった作戦とその結果に

    ついてだけ、詳細に話した。


胡桃「すごいです、渋野さん、あなたが軍人としてもこんなに、

   優秀な人物だったとは」


忠和「ああ、ありがとう」


晃司「一花ちょっと」


一花「はい。どうしたんですか?」


晃司「まあちょっとおいで」


    晃司は一花を、部屋の外に、連れて行ったのであった。

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