第22話 任務の報告

    一花と胡桃が、連合艦隊より帰ってきてから、一週間近く経った頃、

    永野より知らせが入った。

    そして二人は、永野の執務室へ呼ばれた。


永野修身「園田君、井上君来たまえ。たった今国会の討議が終わり、

     君たちの、厳密には伊藤君のか、例の女性下士官、女性将校の

     養成学校設立の件が可決された旨、伊藤次長より

     連絡があったよ」


井上胡桃「ほんとですか!やったー、嬉しいよー」


園田一花「ほんとによかったです、総長」


永野「うむ、君たちが喜ぶのは分かっていたが、こんなに喜んでもらって

   こっちまで嬉しいよ。

   新しい日本の更なる前進だな。

   詳細については、伊藤次長から、伺うといい。

   ワシは新たな日中戦争勃発に伴い、こちらにおらなければならず、

   その建前として、伊藤次長から先に、君らに報告するよう依頼された

   ようなもんだ。

   しかしこれで間違いなく、井上君の少尉昇格は決まりだろうな」


一花「でも総長も、こういっちゃ失礼ですが、そのご年齢で、何かと

   苦労が絶えませんね」


永野「いやいや、ワシはこれでも楽をしとる方だよ、園田君。

   大東亜戦争開戦後、君が見てきたように、ワシは軍令部の仕事を、

   伊藤次長に、連合艦隊の実際の作戦を、山本長官に任せて、

   自分は作戦や実戦とは離れた所に居て、給料をもらっているからな」


一花「しかし何かあった場合、永野総長が責任をとるわけですしね」


永野「まあ形式だけはな。とにかく君たち、伊藤次長の所へ行きたまえ」


    一花と胡桃は、伊藤整一の執務室へ入った。


一花「失礼します、園田一花であります」


胡桃「失礼します、井上胡桃であります」


伊藤整一「来たか二人とも、永野総長より聞いたであろう。おめでとう

     井上胡桃少尉。君は今日より正式に少尉、つまり海軍将校と

     なったわけだ。

     正式な辞令は、永野総長より手渡して頂く。

     まあ当然つまり、女性下士官、女性将校の養成学校の設立が

     認められた訳だよ。

     ただし当面、女性将校については、女性士官までとの条件付きだ。

     差し当たり、女性の海大入学は、見送りとなった旨、

     報告はしておく」


     (士官:尉官のみの将校のこと 海大:海軍大学校)


胡桃「それでも十分ありがたい話です、次長。色々ありがとうございます」


一花「よかったね、胡桃」


胡桃「一花、あんたも人事じゃないのよ」


一花「そうだったよね」


伊藤「それと君たちの、適性試験をしただろ、あれも審査の類に  

   かけられたが、君たちの場合、下士官の指導にあたっては、

   兵科はほぼ全般において、教育出来ると診断された。

   後、士官の方だが、これは君たちの得意な適正が出て、園田中尉は

   歴史部門、井上少尉は法律部門につけると、判断できた。

   これらは、現海軍において共に、兵科であるので、この分野の専攻の

   教育に、当たってもらいたい。

   それと面白い結果が出たのだが、先日山本長官と永野総長より

   伺ったのだが、君たちは科学、工学技術に貢献できるかもしれ

   ないと、自ら言っていたそうだが、試験の結果、もちろん

   二人とも、最優秀という成績ではなかったのだが、高レベルな

   内容になればなるほど、理解している。

   これはどういうことか、説明出来るかな?」


一花「はい、私たちは工学技術という選択で、学業にもあたっていましたが、

   基本的な事は、確かにこの時代と一緒なのですが、中位の難易度の

   物が、学習しておらず、返って難しかったのですが、逆に

   難易度の高い物になると、確かに難しかったのですが、私たちの

   時代では、ほぼ定説となっている事柄が多く、むしろ考えにくく

   なかったくらいでした」


伊藤「そうなのかね?まず二人ともこの成績では全体的に技術部門は

   兵科と違う科であり、この将校の育成にあてることは無理と言う

   判断なのだが、何かもったいない気もするよ」


胡桃「伊藤次長、私たち隠していたんですが、実は1990年頃、新しい

   電波技術等が開発され出します。

   それにあたって、細かい理論は理解は出来ないですが、

   発想と、ある程度の理論なら、使えると思います。

   それを何かに使えないかと、温存していたのです」


伊藤「ふむ、電波技術とその応用についての、高度な発案と、それなりの

   理論の提供ということか、ではこうしよう。

   永野総長と私の権限を持って、静岡県島田市内の、実験所の

   第二海軍技術牛尾実験所に、二人とも交互に、

   これから生徒の養成の合間をぬって、赴いてくれ。

   そこで一旦、仮研究員としての、権限を与える。

   もちろんこの特許と言うか、発案の権利は、軍令部を通して、君らに

   帰し、うまくすれば少なくとも、印税は君らの物だ。

   それでこれが一番重要なことだが、女性士官、下士官養成学校

   だが、さしあたって広島の海軍兵学校を借りるものとする。

   既に兵科を含む全科で、5名の女性士官候補生と、30名を超える

   下士官候補生が、試験に合格している。

   彼女たちの元にも、合格の知らせが届き、順次、海軍兵学校へ、

   向かっていることであろう。

   君たちも急ぎ、準備に取り掛かりたまえ。

   なお養成機関の統括は、兵学校長を頂点とする」


胡桃「了解しましたが次長、学校の件は大体把握しましたが、

   静岡の牛尾実験所には、最初の内、案内を付けて頂けるん

   でしょうか?」


伊藤「そうだな最初の内は、二人とも行けるときに、こちらが

   連絡をもらい、案内を出す。

   静岡駅で将校の軍服を着て居たら、分かるだろう。

   ところで井上少尉、園田中尉の歴史の知識は永野総長より、相当な

   ものだと伺って、試験の内容に納得いくが、君の法律の理解力と

   知識、これが面白い結果だったのだが、今の日本は民主主義国家に

   なって間もないが、君たちの日本と関わりありあるのか?」


胡桃「ええ次長、我々の日本は敗戦を迎え、アメリカに半ば強制的に、

   憲法を押し付けられました。

   まあそれが法概念的に共通する民主政体だったということくらいです。

   少々不本意な憲法ではありますが、私はこれらの法律を身に着け

   得手に付けました、そういうことです」


伊藤「なるほど、君たちの日本は強制的にとは言え、今の日本と憲法学的に

   よく似た民主政体なのか、なるほどわかった。他に質問はあるかね」


胡桃「いえ、色々伺いました」


一花「私も質問はありません」


伊藤「では、二人とも先に述べたように、任務に就きなさい、

   まず永野総長に、挨拶を忘れずにな」


一花「理解しました、これから任に当たりたいと、思います」


胡桃「了解しました、おっしゃる通り、任務を果たしに行きます」


    一花と胡桃は、伊藤整一の執務室を出て、永野の執務室へ向かった。


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